禁断の果実
「今の声は……あそこからか!」
木の上に立つ人影は、手からロープの様な物を伸ばし、森の奥へと飛んでいった。
「"飛行"!逃がすか!」
逃げるって事は何か知っているな!追いついたら、捕らえて話を聞き出そう!
……くっ、急にヤツの姿が消えた。見渡しても辺りには木しかなく、人の姿はどこにも見えない。
「ワープは無理だ。それに、隠密を使用したわけではない……。くそっ、逃げられたか」
黒曜の兜を被っていると隠密も見破れるのに、急に姿が消えたのは何故だ?……考えてもわからないし、一度エオルの所に戻ろう。
「すまない、ヤツを見失ってしまった。一体どこに行ったのか見当もつかない。しかも、姿もよく見えなかった」
見たのはほんの一瞬だった為、顔や特徴は全くわからなかった。くっ、俺とした事が、せっかく犯人と遭遇できたってのに、何も情報を得られないとは。
俺が落ち込んでいる間に、エオルは割れて粉々になったスライムの体を調べていた。
「もしかしたら、スライムの体内に何か痕跡が残っているかもしれません」
「だな。凶暴化の原因がわかるかもしれん。何か変な物を食ったんじゃないか?……ん、なんだこの果物は」
スライムの体内に、リンゴのような形をした、見慣れない美しい果実が入っているのが見えた。
「なんだこれ。エオル、知ってるか?」
「いえ、僕も見た事がありません。フォイユさんなら詳しいかもしれませんが」
「報告も兼ねて一度戻るか」
森で起こっていた怪事件の犯人を討伐した事を報告しにスービエ村に帰ってきた。鎧を脱いで、ムクロンがなんとか倒した感を出す。
「おぉ!エオル君にムクロン君、ご苦労様!」
フォイユさんが安堵の表情で俺達を迎えてくれた。
「それで、森の様子はどうだったかい?」
「事件の犯人は退治しました。他の仲間もおとなしくなったはずですが、念の為に変な色のスライムに警戒しておいてください。それで、この果実を食べた事が原因かもしれないのですが、ご存知ありませんか?」
ポーチから果実を取り出して見せると、フォイユさんは驚いていた。
「これは……うーん、見た事ないね。この辺りに自生している植物じゃないのかも」
「そうなんですか……」
現状、一連の事件の手がかりはこの果実しかない。誰も情報を知らないとなると、余計にこの果実が怪しくなる。
「ありがとうございます。そういえば、目的である取引がまだでした」
エオルは結局、ポーション以外の商品はいつもより高額で購入して、俺はその木箱を馬車の荷台に乗せていった。
「それでは、僕達は失礼します」
「念の為に気を付けてくださーい。さようならー!」
手を振ってフォイユさん達、スービエ村の人々とお別れし、来る時も通った道を馬車で進んでいく。
「ティエスカに戻ったら、本や椅子でこの果実が何かを調べよう」
「もしかしたら、この果実がモンスター達のリーダーを凶暴化させていったんでしょうか?」
「そういえば、この異変はモンスター達のリーダーばかりに起きているな。知恵や力を授けるとか、まるで禁断の果実だ」
「禁断の果実?」
おっと、つい自分がいた世界での話をしてしまった。
「俺が住んでたところでは、禁断の果実っていう伝説があるんだよ」
「そうなんですか。今も、仮にそう呼びます?」
確かに、ただ「果実」と呼ぶと紛らわしい。こうして、謎の果実の呼び方は「禁断の果実」に決定した。




