第16話 イケメン剣士に一目惚れされた件
時は経ち、異世界に来てから一週間が経った。
その間の俺の生活はというと、午前は勉強。昼にお客さんが減った隙を見て店の奥から出て公衆浴場に入って、午後は帰宅してから再度勉強……この繰り返しだった。
ファンタジーとか、女子になった事とか、全く関係無い平凡な毎日が続いたが、勉強に専念したおかげで、ようやく一般教養がしっかりついた。
それと、女湯に入る事自体も次第に慣れてしまったようで鼻血の回数も減ってきた。
「という訳で、エオル。明日は俺が店に立つよ」
営業時間が終了し、店内の清掃をしているエオルにそう伝える。
「えっ、どうしてですか?」
「働き過ぎだ。常に店に立つか、商品を仕入れに馬車に乗って遠くの村に向かってるじゃないか。一十五歳の子供がやるにしてはハード過ぎる」
「で、でもっ」
「お兄さんに任せて、明日はゆっくり休め」
二十六歳は、まだお兄さんだよな?
「むむむ……。わかりました。給料はちゃんと渡しますし、お客様に聞かれた時の為に商品の特徴をちゃんと覚えてくださいね!」
「わ、わかったよ」
「なら、まずこれは服についたモンスターの体液や糸を分解して綺麗に取るアイテムで……」
エオルがスゴい熱量で商品を解説したのを必死に覚えてから、明日の初出勤に備えて早めに就寝した。
翌日、俺は普段よりも早めの時間に起きられた。
異世界にはアラームのアプリが無いので、朝に弱い俺は大変だ。
「ふわぁ〜!今は何時だ?あぁ、良かった。ちゃんと開店時刻より早く起きれた」
朝食を食べて服を着替え、いろいろ準備をしていたら開店時刻になったら扉を開けた。
「ふぅ。昨日までと違ってずっと立ちっぱなしだし、気を引き締めていこう」
一週間の間は椅子に座っている事が多かったので、長時間立って仕事をするのは久々だ。
開店してしばらくすると、一人目のお客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませー!」
「あれ、いつもの子じゃないのね?」
「新人店員のムクロンです」
「あら、そうなのね。あの子ちょっと働き過ぎだと思ってたけど、人が増えたようで安心したわ」
「それはお……私も思います」
うっかり「俺」と言ってしまいそうだった。
エオル以外の人と話のが久々なので、一人称と女口調を意識しないといけないのを忘れてた。
「お会計頼むわね」
「はい。えーっと、こちらお釣りになります。ありがとうございましたー!」
始めのうちはわからなかった金貨の計算も、今ではへっちゃらだ。
「よし、ちゃんとできたな。ちなみに何分経ったんだろう。って、まだ全然時間経ってないし」
もしかして、この仕事って大変なんじゃないか?コンビニでバイトしていた時の事を思い出す。
いや、よそう。考えると余計に時間の流れが遅く感じる。今は目の前のことに集中だ。
「いらっしゃいませー!」
次は強そうな装備を着た、ムクロンと同い年くらいの、一十八歳ほどに見えるイケメンの剣士が入ってきた。
あれ?このイケメン剣士の顔、どこかで見た事ある。
――そうだ。ゲームに居るキャラだった。
えーっと、名前なんだっけ?
あっ思い出した。マーレスだ。男キャラに興味が無さ過ぎて忘れていた。
そういやティエスカ編にこんな剣士居たなーって、感じでちょっとしか覚えていない。
もう一人の登場人物が推しなので、そっちばかりに注目してたのもあるが。
「えと……どうかされましたか?」
マーレスが俺の方を見たまま立ち止まっている。一体どうしたんだろう。
もしや、ゲームに存在する人に話しかけたからバグが発生したのか?
「その〜、入り口で立ち止まられると他のお客様のご迷惑になられますので……」
「あぁ、すまない。思わず見惚れてしまっていた」
「え、今なんて?」
聞き間違えか?今、とっても嫌なセリフを言われた気がする。
「どうやら、オレは出会ったばかりの君に恋をしてしまったようだ!オレの名前はマーレス。以後、お見知り置きを」
「……え、え。え?えええええ!?」
ふ、ふざけるな、気持ち悪い。なんで俺がこんな勘違いイケメンと付き合わなきゃならないんだ。
冗談だよな……?いや、この目はガチのヤツだ。
マジで言ってるのかコイツ。確かにイケメンだけど、俺は絶対に付き合いたくないぞ。
「そのー、気持ちは嬉しいんですけど私は」
「君の名前は、なんて言うんだい?」
「(話聞けよ!)ムクロンです」
「ムクロンさん……!素敵な名前だ!」
「それはドーモ。あの、冷やかしなら帰っていただけませんか?」
「そんな、冷やかしだなんて。そうだ!ここにはポーションを買いに来たんだった!……そうだな。せっかくだし、ここにある貴重そうな魔道具も買っていこうかな!」
マーレスはそう言って店の高いコーナーに行き素早く物を選んで手に持った。
好きな女の前で良いところ見せようと、露骨に高い物を買おうとしている。
「良いですけど、それって魔法使い用ですよね?剣で戦うマーレスさんには必要無いと思うんですが」
「これは家族に……って、オレが剣士だって事を知ってくださっているんですね!でも、安心してください。これは、いずれ使うと思いますから!」
ダメだこりゃ。何言ってもポジティブに受け取るし、もはや無敵だ。
「はぁ……お買い上げありがとうございます。マタヨロシクオネガイシマスー」
「また今度会いに来るよ!ムクロンさん!」
「(二度と来るな!)あはは……どうも」
あぁ、アイツをなんとかして出禁にできないかな。でも、高価な魔道具を買ってった事を知ると、「お店の売上が増えるならオッケーです」とエオルは反対しそうだ。
モンスターじゃなくて人間だから、力技でも何とかできないのが厄介過ぎる。悪意は無いのが余計にタチが悪い。
「大変だー!森の方から、クラッシュボアの群れが街に向かって来てるぞー!」
その時、店の外で男ががそう叫んでいるのが聞こえた。
どうやら、モンスターの大群がこの街に向かってきているようだ。
「なにっ、このままでは王都が危険だ。すぐに向かわなければ!じゃ、ムクロンさんもお気をつけて!」
今のシリアスなセリフで思い出したが、マーレスはゲームじゃ真面目だし正統派イケメンだった。
なのに、なんで俺に対してはあんなキザな態度取るんだろう。
まさか、アイツは好きな人の前だとそうなるのだろうか。緊張すると話せなくなるんじゃなくて、むしろめっちゃ話しかけるタイプらしい。俺とは真逆だ。
「って、アイツの性格を分析してる場合じゃ無い!王都の危機が迫ってるんだった!」
俺は店の鍵を閉めてから、慌てて街の入り口へと走った。




