第15話 異世界二日目は引きこもる
「これが異世界の教科書かぁ、魔法学にモンスター学とか知らない教科もあるな。……うーん、公式とか全然わかんねー」
試しにそれぞれの本をパラパラと流し読みしたが、日本で習った知識とは大きく違っていた。
だが、国語などの言語の方は普段エオルに通じているのであまり変わらないのだろう。
日本語で話している言葉がこの世界の言葉に翻訳されている可能性はあるが。
「朝ごはん食べたら、キッチンにあるその椅子に座って勉強する」
「はーい、わかりました。そろそろ店が開くのでお客様との会話が聞こえると思いますけど大丈夫ですか?」
「いいよ、むしろ程よく緊張できる。ほら、一人だとサボりたくなるじゃん?」
俺は家にいるとゲームばかりしてしまうので、勉強は基本的に図書館やカフェでやっていた。
負けず嫌いなので、他の人と張り合おうと躍起になって頑張れるのだ。
「あ、これお詫びのポーションとジュース。仕事頑張ってね」
「はい。ムクロンさんも勉強頑張ってください!」
その後、俺が朝ごはんのホットドッグを食べ終わったタイミングでお店がオープンした。
「おっ、始まったか。えーっと、"まほうのしくみ"ね……」
わからないと言っても、所詮は六歳から一十五歳が習う範囲だ。常識の通用しない異世界であったとしても、大卒の俺なら楽に覚えられるだろう。
「からだの中でつくられるエネルギーを魔力とよぶ……。ふりがな多いな、カタカナにすら振ってある」
「いらっしゃいませー!……あ、この魔道具はですね。モンスターの体液を落とす物になります」
「へー、モンスターの血とかって肌についたら気になるものね。買おうかしら」
勉強をしていると店内の会話がうっすらと聞こえてきた。お客様が多く来られていたので、お店は繁盛していて経営は上手く行っているようだ。
ひたすらに本を読んでいると、いつの間にかお店が昼休憩の時間になった。
エオルが昼食を食べる為に店の奥側にやって来てテーブルに座る。
「お疲れ様、結構人来てたね」
「店自体は老舗ですからね。先代が長い事やってくださったおかげです」
「エオルはいつから店長やってるんだ?」
「今年の春からです。まだ新人ですね」
「マジ?まだ一ヶ月くらいじゃん」
昨日準備をしている時にエオルから聞いて把握していたのだが、今は前の世界でいえば五月の初めごろだ。
年齢から考えるに、恐らく中学校を一十五歳で卒業して直ぐに働き出したのだろう。
「昼食何食べたい?ポーチに大体入ってるから何でも出せるけど」
「その事なんですが、今日はお弁当を作ってきました。こちら、ムクロンさんの分です」
「えっ、俺の分も作ってくれたの!?」
前にポーチの中の食べ物を口にするのを嫌がっていたので、弁当を作って持ってきてくれたらしい。
エオル様から頂いたありがたい手作り弁当は、彩りも良く栄養のバランスも考えられた物で、とても美味しそうだった。
「いただきます!……うん!家庭の味って感じで懐かしい!」
前の世界では一人暮らしをしていたが、自炊はたまにするが基本は外食や中食が多かった。
そんな俺にとって、人から、しかも年下の女子からの手作り弁当はとっても心に沁みる。
「美味しいですか?」
「めっちゃ美味しい!……ねぇ、何で俺にここまでしてくれるの?」
「命の恩人ですし、このくらいは」
「俺だって家や教科書を貰ったりしてすごく助かってるから、こんなに気を遣わなくていいよ!」
「あ、この雰囲気で言うのもアレですけど、キッチンで使った火や水の魔道具分のお金は自分で払ってくださいね」
住む場所はくれるけど、光熱費や水道代みたいな物は払う必要があるらしい。
「僕がそこまで払ったら店の経営が厳しくなりそうなので」
「あー、なるほどね。まぁ家買うよりは安いから払うよ。あっ、何なら店にお金を出資したり」
「それは結構です。僕は魔道具店で生計を立てるのが夢ですから」
エオルはかつてないほど真剣な雰囲気でそう言った。
いきなり手に入れた大金に頼らないとは、なんて立派なんだ。
「わかった。そこまでいうなら、寄付するなんて野暮な事はしないよ。頑張ってね、応援してるぞ」
「ありがとうございます。それでは、午後の部も頑張りましょうか!」
手作り弁当を食べ終わったあとに話していたら休憩時間が終わったので、エオルは仕事に、俺は勉強に戻った。
…………黙々と勉強しているうちに、気付けば日が落ちていた。
「本日の営業、終わりましたー!」
エオルがカウンターで金貨を数えて簿記を付けながら店の奥にいる俺に話しかける。
「こっちはかなり捗ったよ。こんなに集中して勉強したのって久々だ」
「どうです?この世界についてよくわかりましたか?」
「まぁね。一般常識はついたと思う。明日からは、問題集を買ったりより難しいテキストを買って来て勉強しようかな」
「スゴい勉強熱心ですね」
「やらないと生きていけないって状況だから不思議と頑張れるよ」
その後、店の清掃を終えたエオルは実家に帰り、勉強ばかりで疲れた俺も、明日こそは寝坊しまいと早めにご飯を食べてベッドに入った。
「風呂は明日の昼に入るか。今行くと興奮して寝れなくなりそうだ」
今日は冒険とは無縁だったが仕方ない、黒曜の騎士として戦わざるを得ない状況にならない限りは、勉強して知識を付けることが最優先だ。




