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異世界二日目は引きこもる

 「これが異世界の教科書か。魔法学にモンスター学なんてのもあるのか。……うーん、公式とか全然知らねー」


試しにそれぞれの本をパラパラと流し見したけれど、現代日本で習った知識とは大きく違っていた。ただ、国語などの言語の方は普段エオルに通じている様に、あまり変わらない。


「朝ごはん食べたら、そこのキッチンにある椅子に座って勉強するわ」

「はーい、わかりました。そろそろ店が開くのでお客様との会話が聞こえて来ると思いますけど良いですか?」

「いいよ。むしろ程よく緊張出来る。ほら、一人だとサボりそうじゃん?」


携帯ゲーム機と違ってVRMMOは機材が多くて持ち運べないから、必然的に外では絶対に遊べない。しかし、今思えばそのおかげで、外と家とで公私を上手く分けられていた。という事に今気付いた。


「あ、これお()びのポーションとジュース。仕事頑張ってね」

「はい。ムクロンさんも勉強頑張ってください!」


その後、俺が朝ごはんのホットドッグを食べ終わったタイミングでお店がオープンした。


「おっ、始まったか。えーっと、「まほうのしくみ」ね……」


わからないと言っても、所詮(しょせん)は六歳から一十五歳が習う範囲だ。常識の通用しない異世界であったとしても、成人男性の俺なら楽に覚えられる。


「いらっしゃいませー!……あ、この魔道具はですね。モンスターの体液を落としてサラサラにする物になります」

「へー、モンスターの血とかって肌についたら気になるものね。買おうかしら」


お店の方も人は来ているようだし経営は上手く行っているようだ。というかエオル接客上手いな。


ひたすらに本を読んでいると、いつの間にかお店が昼休憩の時間になった。エオルも店の奥側にやって来てテーブルに座る。


「あ、エオルお疲れ様。結構人来てたね」

「店自体は老舗ですからね。先代が長い事やってくださったおかげです」

「昼食何食べたい?大体何でもポーチに入ってるから出せるけど」

「その事なんですが、今日はお弁当を作ってきました。こちら、ムクロンさんの分です」

「えっ、俺の分も作ってくれたのか!?マジで!?」


エオル様から頂いたありがたい手作り弁当は、彩りも良く栄養のバランスも考えられた気遣いを感じさせる物だった。正直、とても美味しそう……!


「いただきます!……うん!家庭の味って感じで懐かしい!」


自炊はたまにするけど外食や中食が多かった俺にとって、人から、しかも年下の女子からの手作り弁当はとっても心に()みる。


「美味しいですか?」

「めっちゃ美味しい!何で俺にここまでしてくれるの?」

「……命の恩人ですしこのくらいは」

「俺だって寝床や教科書を貰ったりしてすごく助かってるから、こんなに気を遣わなくていいよ!」

「……あ、この雰囲気でいうのもアレですけど、キッチンで使った火や水の魔道具分のお金は自分で払ってくださいね」

「え?」

「そこまで払ったら店の経営が厳しくなりそうなので」

「あー、なるほどね……。まぁ家買うよりは安いから払うよ。あっ、何なら店にお金を出資したり」

「それは結構です。僕は魔道具店で生計を立てるのが夢ですから」


エオルからは、かつてないほど真剣なオーラが出ていた。


「……わかった。そこまでいうなら、払うなんて野暮な事はしない。ぜひ頑張ってほしい。応援してる」

「ありがとうございます。それでは、午後の部も頑張りましょうか!」


手作り弁当を食べ終わり、エオルは仕事に、俺は勉強に戻った。


…………そして、黙々と勉強しているうちに、気付けば日が落ちていた。


「本日の営業、終わりましたー!」


エオルがカウンターで金貨を数えて簿記を付けながら店の奥にいる俺に話しかけた。


「こっちも、かなり捗ったよ。こんなに集中して勉強したのって久々だよ」

「どうです?この世界についてよくわかりましたか?」

「まぁね。一般常識はついたと思うよ。明日からは、問題集を買ったりより難しいテキストを買って来て勉強しようかな」

「スゴい勉強熱心ですね」

「やらないと生きていけないって状況だからやるしかないしさ。不思議と頑張れるよ」


その後、店の清掃を終えたエオルは実家に帰り、勉強ばかりで疲れた俺も、明日こそは寝坊しまいと早めにご飯を食べてベッドに入った。


「風呂は……明日の昼頃に入るか。今から行ったら、興奮して寝れなくなりそうだしな」


そういえば、今日は冒険の「ぼ」の字も無かったな。仕方ない、黒曜の騎士として戦わざるを得ない状況にならない限りは、勉強して知識を付けることが最優先だからな……おやすみなさい。

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