第13話 異世界初日(女性初日)、終了
「はーっ、のぼせるかと思った。あそこでちょっと休もう」
風呂から上がって施設内を回っていると休憩スペースがあるのを見つけて、そこには牛乳も売っていた。
「牛乳飲むか?」
「ありがとうございます」
「奢るよ。あとこれ、二人分の入浴料」
ポーチの中から財布を取り出して、金貨を一十枚ほど掴んでエオルに手渡す。
「えっ、こんなに入浴料高くないです!この二枚で十分ですよ!」
「そうなのか?いつも金貨を手渡して買ってるわけじゃないから金銭感覚がわかんないな」
お金の価値を学んでおかないと庶民のフリできないし勉強しておかなければ。お金に限らず、一般教養くらいは知っておかないと怪しまれるな。
「牛乳二つ買うならどれで払えばいい?」
「これとこれでちょうどですね」
エオルに金貨を教えてもらったので、それを使って無事に二人分の牛乳瓶を購入することができた。
「ゴクゴク……プハー!やっぱ風呂上がりは牛乳よね!」
「思い出したかのように口調を変えましたね」
「そろそろ夜だし人が増えてくるからね。でも、未だに慣れないわねこれ。早く帰って女性口調から解放されたいわ」
ずっとこの口調だと、いずれは精神まで完全に女子になってしまいそうだ。精神は男として生きていきたいのに、体に心が引っ張られてしまう。
「ゴクッゴクッ――では、魔道具店に帰りますか。ベッド敷かないといけないですし」
「あっ、その前に髪を結ぼう」
長いと目にかかって邪魔なので元の髪型に結び直したい。
「できますか?」
「初めてだから勘でやってみる……。おっ、できた」
やった事ないのに、なぜかスムーズに結ぶ事ができた。剣を使えるのと同じで元の髪型には戻せる仕組みなのかもしれない。
牛乳瓶を返却して銭湯を後にした俺達は魔道具店に戻る為に歩く。
「そういや、店の名前ってなんていうんだ?」
「プレイヤーです」
「プレイヤー?」
「祈る人って意味です」
「あっ、そっちか。P"l"ayerじゃなくてP"r"ayerの方ね」
「お客様の無事が第一ですからね。商売の為にお金はいただきますけど」
どちらもカタカナにすると同じになる。ゲームのプレイヤーだった俺が同じ名前を持つ店に住むなんて、不思議な縁を感じる。
ガチャ――
到着して店の奥に入るなり、エオルがタンスに入れてあった毛布をベッドの上に置き始めた。仕舞っていたという事は、当分使われていないのだろう。
「あれ、普段はここで寝ていないのか?」
「普段、夜は実家の方に帰っていますので」
ここにエオルが住んでる訳では無かったのか。
「そうなんだ。じゃあこの建物は一体?」
「親族が亡くなったので頂いた建物です」
「なるほど。ここはその人が住んでた場所だったのか」
「そうですね。お店もその人から受け継ぎました」
建物に歴史があったのにはそういう事情があったのか。
その後、俺はエオルに協力して部屋を住める状態にしていった。
掃除したり、冷蔵庫用に氷の魔力を補充したりと時間をかけて丁寧に作業した。
「ふぅー、終わったー。お腹空いてきたな。ポーチに色々食べ物が入ってたから取り出して食べよう。エオルも何か食べるか?」
「いえ、僕は家に帰って食べます。家族が待っているので」
「そう。家族思いなんだな」
「それに、その中の食べ物はあんまり食べたくないです」
「えぇっ。オレンジジュース美味しかったけどな」
「それいつから入ってるんですか?」
「えーっと……五年前?」
「よく飲めますね……」
俺は気にならないが、エオルは古い食べ物を食べる事に抵抗を感じるらしい。
「では、僕は夕飯の支度があるのでここで失礼します。店の鍵のスペアを渡しておきますね。」
エオルが予備の鍵をカウンターから持ってきて渡してくれた。
「ありがとう。今日は本当に助かったよ。異世界の事、全然わからないし、明日は本でも読んで異世界の事勉強しようかな」
「この世界の事を学ばないと行けないのは大変ですね。そうだ。明日、僕の家から学校の教科書とか持ってきますから、それで勉強してはどうでしょうか」
「それはスゴい助かる。ありがとう」
年齢から考えるに小中学校レベルの問題だと思うが、異世界から来た俺にとっては入門としてうってつけだ。よく読んで義務教育レベルの知識は付けておかなければ。
「それではまた明日ー!」
「おう、おやすみー」
エオルが店から出ていった。一人になると途端に一日の疲れがどっと出てきた。
「はぁー、疲れた。よく考えたらゲーム世界に入った時は夜だったから、夜更かししている状態なのか。眠たくなってきたし、軽く食べて寝よう」
寝る前に食べ過ぎるのは良くないので少しだけ食べた。
「あー、美味しかった。ポーチの中に食べ物はたくさんあるから、外食や買い物の必要が無いのは楽だな。パジャマも入ってるからこれに着替えて、あとは歯磨きして寝るかぁ」
歯ブラシは、"冒険用携帯セット"というアイテムの中の一つとしてポーチに入っていた。ゲームだと使い道の無い、雰囲気作りの為だけのアイテムだったが、まさかこんな所で役に立つとは。
――もしや、異世界に転移した時の為のアイテムだったりするのだろうか。
「ふわ〜。案外、寝て起きたら元の世界に帰っていたりして…………すぅ」
――疲れたからか一瞬で眠りについた。




