異世界初日(女性初日)、終了
「はーっ、のぼせるかと思った。あそこでちょっと休もう」
施設内にある、椅子に座ってゆったりくつろげるスペースに行くと、牛乳が売っているのを見つけた。
「エオル、牛乳飲むか?」
「ありがとうございます」
「奢るよ。あとこれ、二人分の入浴料」
財布から金貨を一十枚ほど掴んでエオルに手渡す。
「えっ、こんなに入浴料高くないです!二枚で十分ですよ!」
「そうなのか?いつも金貨を手渡して買ってるわけじゃないから金銭感覚がわからんな」
お金の価値を学んでおかないと庶民のフリ出来ないし、勉強しておかないと……いや、お金に限らず、一般教養くらいは知っておかないと怪しまれる。
「ゴクゴク……プハー!やっぱ風呂上がりは牛乳よね!」
「思い出したかのように口調が変わりましたね」
「そろそろ夜だし人が増えてくるからねー。でも、未だに慣れないわねこれ。早く帰って女性口調から解放されたいわ」
ずっとこの口調だと、いずれは精神まで完全に女子になってしまいそうだ。せめて精神は男として生きていきたいのに、体に心が引っ張られてしまう。自分は男性である事を忘れずに、気を引き締めなければ。
「ゴクッゴクッ。では、魔道具店に帰りますか。ベッド敷かないといけないですし」
牛乳を飲み終えた俺達は魔道具店に戻る為に歩く。
「そういや、店の名前ってなんなんだ?」
「プレイヤーです」
「プレイヤー?」
「祈る人って意味です」
「あっ、そっちか。PlayerじゃなくてP"r"ayerの方か」
「冒険者の方の無事が第一ですからね。商売の為にお金はいただきますけど」
ゲームのプレイヤーだった俺が同じ名前を関する店に住むなんて、不思議な縁を感じる。
ガチャ
到着して店の奥に入るなり、エオルがしまってあった毛布をベッドの上に置いていく。ここにあるベッドは当分使われていない様子だった。
「あれ、普段はここで寝ていないのか?」
「普段、夜は実家の方に帰っていますので」
「そうなんだ。じゃあこの建物は一体?」
「親族が亡くなったので頂いた建物です。あ、老衰で亡くなられたので幽霊は出ないと思いますよ。多分」
「そこは言い切ってほしいな……」
その後、俺もエオルに協力して部屋を住める状態にしていった。
「ふぅー、終わったー。お腹空いてきたな。ポーチに色々食べ物が入ってたから取り出して食べよう。エオルも何か食べるか?」
「いえ、僕は家に帰って食べます。家族が待っているので」
「そう。家族思いなんだな」
「では、僕はここで失礼します。店の鍵のスペアを渡しておきますね。」
「ありがとう。今日は本当に助かったよ。異世界の事、右も左もわからないからさ。明日は本でも読んで異世界の事勉強しようかな」
「この世界の事を学ばないと行けないのは大変ですね。あ、明日、僕の家から学校の教科書とか持ってきますから、それで勉強してはどうでしょうか」
「それはスゴい助かる。ありがとう」
エオルの年齢から考えるに小中学校レベルの問題だと思うが、異世界から来た俺にとっては入門としてうってつけだ。よく読んで義務教育レベルの知識は付けておかなければ。
「それではまた明日ー!」
「おう、おやすみー」
ガチャン
エオルが店から出ていくと、一人になったからか途端に一日の疲れがどっと出てきた。
「……はぁー、疲れた。思えば、ゲーム世界に入った時は夜だったから、夜更かししている状態なのか。眠たくなってきたし、軽く食べて寝よう」
今日の夕飯に選んだのはクロワッサン一つとレタスのサラダ。寝る前に食べ過ぎるのは良くないし、このくらいにしておこう。
「あー、美味しかった。ポーチの中に食べ物はたくさんあるから、外食や買い物の必要が無いのは楽だ。パジャマも入ってるからこれに着替えたら歯磨きして寝よう」
歯ブラシは、「冒険用携帯セット」というアイテムの中の一つとしてポーチに入っていた。ゲームだとおよそ使い道の無い、雰囲気作りの為だけのアイテムだったが、まさかこんな所で役に立つとは。
――まさか、異世界に転移した時の為のアイテムだったりするのか?そもそも、俺はなんでゲームの中に入ったんだ?
……いや、そんな事を考えても答えは出ないか。
「ふわ〜。案外、寝て起きたら元の世界に帰っていたりして…………すぅ」
「二つで十分ですよ」by 映画「ブレードランナー」(1982)




