第11話 異世界の生活環境について
ワープを唱えた次の瞬間、俺とエオルは拠点に帰ってきた。
「ふぅー、帰って来れた。トイレトイレ〜!」
「ムクロンさん、この壊れたベッドは何ですか?」
「それは俺がバランスを崩して壊しちゃったやつ」
「これじゃ寝れませんね……」
「あれ?トイレどこだ」
今気付いたが、拠点にはトイレが無い。というか、そもそもが部屋一つしかない。
「エオル、ダメだ!この部屋にトイレなかった!」
「えっ、トイレが無い家とかあるんですか?」
「ここは拠点だけど家じゃないって言うか、どっちかと言うと倉庫やセーブエリアみたいなとこなんだ!」
「よく見たら寝室の一部屋しかないじゃないですか!」
「あ〜〜!とにかくトイレ行きたい!」
ヤバい、本当に漏れそうなのにトイレがない。
昔読んだTS漫画では女の子になった主人公がよく漏らしてたが、俺は絶対に漏らしたくないぞ。
「エオル、この近くにトイレってないのか?」
「えーと、ここがどこかわからないので一度外に出ましょう」
トイレを我慢しながら外に出て部屋の鍵をかける間に、エオルはその間に拠点のあるアパートの場所を把握した。
「ここからなら、僕の魔道具屋が近いですね。案内します」
――必死に耐える事一十分。ようやく魔道具屋に到着したが、限界は確実に近付いていた。
店内に入り、カウンターの裏にある従業員のスペースの入り口まで案内される。
「ハァ、ハァ……!」
「裏にトイレがあります。そこで済ましてください」
「どこだ?あ、あった!」
トイレの存在をこんなにありがたく感じたのはいつ以来だろう。駆け込んで扉を閉めて下着を下ろす。
バタンッ…………ガチャ――
「ふぅー、スッキリした」
トイレには水魔法の仕組みを利用した魔道具が取り付けてあったので、水で流す事ができた。
異世界なのに魔法のおかげで技術は発展しているらしい。氷魔法を活用した冷蔵庫も部屋にあるし、生活レベルは前の世界と同じで高そうだ。
「俺のアレ、本当に無くなってたな。さらば相棒」
産まれてから苦楽を共にした男の象徴は無くなっており、俺もエオルと同じでツルツルだった。
「ムクロンさん、間に合ってよかったですね」
「しかし、あの拠点は家として使えないな。トイレも風呂も、キッチンもない。唯一あったベッドは壊れてるし、これからどこに住もうかな」
ゲームからお金を引き継いでるから超お金持ちなので、思い切って家を買ってもいいな。でも、内見には時間がかかりそうだし、しばらくは宿に泊まる方が良さそうだ。
「もしよろしければ、ここに住んではどうでしょう?」
「住むって、ここに?そんなスペースがあるのか?」
エオルに言われて部屋の周りをよく見ると、他の部屋もあるように思えた。
店も兼ねている分、一階しか無い上に普通の家よりも小さいが十分に住めそうではある。
それなら、お言葉に甘えてここに住まうかな。
「ここは一軒家を改築した場所なのでキッチンも寝室もありますよ。お風呂はありませんが」
「えっ、じゃあ風呂はどうすればいいんだ?」
「天然温泉の公衆浴場がありますのでそこで入ります」
「公衆浴場ってことは、女湯に入るのか!?いや、それはダメだろ、犯罪だろ!」
ついさっきまで男性だったやつが女湯に行くのは、異世界だとしても一百パーセント犯罪だ。
「大丈夫です。何か変な事をしたら僕が叩きますから」
エオルは、満面の笑みで右腕を挙げつつそう言った。
物理的には痛くは無さそうだが、優しいエオルに叩かれたら精神的な痛さを感じるだろう。
「聞くけど、風呂は他に無いのか?」
「公衆浴場の方がお風呂の種類が豊富ですし、水魔法で作って国が貯めている水にも限りがあるので、各家庭で風呂を張るのは水や下水の関係で無理なんです」
「でも、さっきトイレ流せてたじゃん」
「トイレや洗濯の水は魔道具で出している分で足りるのですが、お風呂になると使う水が多過ぎるんです」
水が豊富にある現代日本と違って水資源には限りがあるので、風呂は共有するしかないのか。
「それじゃあ仕方ないから女湯に入るしかないなー。いやー、本当は入りたくないんだけどなー!」
「顔がニヤけてますよ?」
女湯に入れる事が嬉しくてニヤけているのがバレたので、エオルは右腕を挙げてチョップの構えを取った。
「今の時間は比較的人が少ないですし、森でついた汚れを取る為にも今から向かいましょう」
「今から!?ちょ、ちょっと心の準備が……!」
嬉しいのは確かなのだけれど、本当に入る勇気は出ず日和ってしまう。
――しかし、覚悟を決める時間もなく、エオルに案内されて公衆浴場に到着してしまった。




