異世界の生活環境について
次の瞬間、俺はエオルと共に、ゲームで一十年間見てきた拠点に帰ってきた。
「ふぅー、帰って来れた。トイレトイレ〜!」
「ムクロンさん、この壊れたベッドは何ですか?」
「それは俺がバランスを崩して壊しちゃったやつ」
「この状態では、この場所で寝れませんね……」
ん、待てよ?今気付いたけど拠点のどこにトイレあるんだろう。ここってそもそもが部屋一つしかないような……。
「エオル、ダメだ!この部屋にトイレなかった!」
「えっ、トイレが無い家とかあるんですか?」
「ここは拠点だけど家じゃないって言うか、どっちかと言うと倉庫やセーブエリアって言うか!」
「よく見たらここ、寝室の一部屋しかないじゃないですか!」
「あ〜〜!とにかくトイレ行きた〜〜い!」
ヤバい、本当に漏れそうなんだけど。た、確か昔読んだTS作品にも書いてあったな。「女性は男性より尿道が短いから耐えれる時間が短い」って。お、俺は絶対に漏らしたくないぞ!
「エオル〜!この近くにトイレってないの〜?」
「えーと、ここがどこかわからないので一度外に出ましょう」
俺はトイレを我慢しながら外に出て部屋の鍵をかけ、エオルはその間に拠点のあるアパートの場所を把握した。
「ここからなら、僕の魔道具屋が近いので行きましょう。案内します」
…………必死に耐える事一十分。ようやく魔道具屋に到着したが、俺はもう限界に近付いていた。店内に入り、レジの裏にある従業員のスペースの入り口まで案内された。
「ハァ、ハァ……!」
「裏にトイレがあります。そこで済ましてください」
「どこだ〜〜?あ、あった……!」
トイレの存在をこんなにありがたく感じたのはいつ以来だろう。
バタンッ…………ガチャ
「ふぅー、スッキリした」
トイレには水魔法の仕組みを利用した魔道具が取り付けてあったので、ちゃんと水で流す事が出来た。
「俺のアレ、本当に無くなってたな、さらば相棒」
「ムクロンさん、間に合ってよかったですね」
「しかし、あの拠点は家として機能しないな。トイレも、風呂も、キッチンもない。唯一あったベッドは壊れてるし、これからどこに住もうかな」
ゲームからお金を引き継いでるから、思い切って家を買うか?でも、内見には時間がかかりそうだし、しばらくは宿に泊まるべきか?
「もしよろしければ、ここに住んではどうでしょう?」
「住むって、ここに?そんなスペースがあるのか?」
周りをよく見ると、一応他の部屋もあるように思えた。
「ここは一軒家を改築した場所なのでキッチンも寝室もありますよ。お風呂はありませんが」
「えっ、じゃあ風呂はどうすればいいんだ?」
「天然温泉の公衆浴場がありますのでそこで入ります」
「公衆浴場……ってことは、女湯に入るのか!いや、それはダメだろ、犯罪だろ!」
ついさっきまで男性だったやつが女湯に行くのは異世界だとしても一百パーセント犯罪だ!
「大丈夫です。何か変な事をしたら僕が叩きますから」
エオルは、満面の笑みで右腕を挙げつつそう言った。怖い。
「聞くけど、風呂は他に無いのか?」
「公衆浴場の方が種類豊富ですし、水魔法で作って国が貯めている水にも限りがあるので、各家庭で風呂を張るのは水や下水の関係で無理なんです」
異世界の上下水道が現代日本ほど発達していないのか。なら、風呂は共有するしかないってことか。
「じゃ、仕方ないけど女湯に入るしかないなー!いやー、本当は入りたくないんだけどなー!」
「顔がニヤけてますよ?」
エオルは右腕を挙げてチョップの構えを取る。怖い。
「今の時間は比較的人が少ないですし、森でついた汚れを取る為にも今から向かいましょう」
「え、今から?ちょ、ちょっと心の準備が……!」
覚悟を決める時間もなく、エオルに案内されて公衆浴場に到着してしまった。




