第104話 街に現れた怪物と死
飛んで行った"逃さなぬ雷"は逃げたアラタを追うようにして狭い隙間を通っていった。
ここは人間が到底入れない場所なので、出口まで回り込むしかない。
「頼む。間に合ってくれ……!」
この隙間の出口は一つしかないので、路地裏から出て全力疾走でそこに向かう。
「血だらけじゃない!どうしたの!?」
着ている服が血だらけなので通行人に驚かれたが、親切を受け取っている場合では無い。
あれほど鋭い爪を持つ人間が街で暴れ出したら、どれだけの人が犠牲になるかわからない。何としても止めなくては。
「クゥーン!」
俺が回り込んで通りに出たその時、ちょうど道の真ん中でアラタが変身したオオカミが雷に撃たれた音がした。
――間に合わなかった。
「いてぇ!なんだ、一体どこからくらった!?」
マオウグンといえど、子供のオオカミという状態では耐久度が下がっていたのか、雷に撃たれたらすぐに人間の形態に戻ってしまっていた。
「えっ。この人、犬から人にならなかった……?」
「なんだ?なにかあったのか?」
オオカミがいきなり人間に変身したので、偶然それを目撃した周りの人々はとても驚いている。
「あなた、大丈夫?」
「今のは魔法か?」
まずい。興味を持った野次馬がどんどんアラタの周りに集まっている。
「どいつだ……?誰が俺を狙ってきた?クソッ、やられる前にやるしかねぇ……!」
離れた位置にいるので俺には気付いていないようだが、近くに集まってきた人々に対して疑心暗鬼を強めている。 そして、決意を固めたような発言をした。
「スゥー、ハァー」
アラタが深呼吸して集中し始める。あれは……絶対に本気を出すつもりだろう。しかし、攻撃しようにもアラタの周りに人が多くて迂闊に攻撃できない。
「なっ、なんだ!?」
「キャーーー!!」
アラタの体が先ほどの変身とは打って変わって逆に体が徐々に大きく変化し始めた。可愛らしい子供のオオカミとは大違いの、身長は三メートル、二足歩行で手には両手には鋭い爪、二足歩行で歩き全身に毛が生えた、巨大なオオカミ男に変貌した。
「ワオオオオオオン!!」
突如として街中に出現した怪物を唖然として腰を抜かすか、逃げ惑う事しかできない人々達の前で、アラタはまるで惨劇の始まりを告げる合図のように大きな雄叫びをあげる。
そして次の瞬間、見境なく周囲の人間を巨大な爪で襲い始めた。
「キャアアアアアア!」
「うわあああ!?」
俺がくらったのよりも更に長く深い一撃が次々と街の人々を襲っていき、辺りは血や肉片が飛び散る地獄絵図と化していった。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
俺のせいでみんな死んでいく。俺が失敗したせいで。
そう考えていると、呼吸のリズムが崩れて息苦しくなってきた。はやく止めなきゃならないのに、パニックになって動けない。
「"重圧"!」
そう魔法を唱える声が響いた後、暴れていたアラタの動きが、まるで上から押さえつけられたかのように停止した。
声がした上の方を見上げると、剣を振った後の姿勢で空中に立っているトピエさんの姿があった。
「トピエさん!」
「「「団長!!!」」」
頼れる警備団長の登場に、周囲の人々が安堵した。
その姿はまさに、スーパーヒーローそのものだ。
「大丈夫か?」
トピエさんは大怪我を負った人たちに駆け寄ってヒールを唱えて治していく。
ケガ人が多く一人一人の傷も深いので全員が完治した訳ではなく、あくまで応急処置という感じだった。
次に、トピエさんは何か小さな物を持って口に近付けて話し始める。
「ケガ人が多い。四十九ブロックに応援を頼む。自然の魔力が乱れているらしくワープが使えないので、付近にいる者は速やかに向かってくれ」
おそらく、門番が使っていたのと同じ「ボイスシェル」を使っているのだろう。それを用いてトランシーバーで報告するよう、部下に集まるように伝えている。
だが、本性を表したマオウグンが近くにいる為ワープは使えないので、しばらくはトピエさんが一人で戦うしかない。
……ここは、正体がバレるのを覚悟で加勢しなければ。
何よりも人命が最優先だ。
「男として生きたい」だなんてくだらないプライドのせいで他の人が死んでしまったら、きっと自分が許せなくなる。
「もう、やるしかないか……!」
俺は重力に押し潰されて拘束されているアラタに向けて右腕を伸ばして技を撃ち込む準備をする。
今なら周りに人も居ないし、範囲を絞ればアラタだけに大ダメージを与える事ができるはずだ。
トピエさんやケガ人に当たらないよう、しっかり範囲を絞って撃つのがいいだろう。
「ん?」
トピエさんが剣を構えてから集中し始めた。なにか大技を撃つつもりなのだろうか?邪魔してはいけないので、技を撃つのはやめておく。
トピエさんが剣を振って何かの模様を描くと、アラタの体が次第に握りつぶされるようにして横からもギュッと圧迫されだした。
地面から少し浮き始めたので下からも圧を受けているようだ。肉が壁に押し付けられているように圧迫されて潰れている。
――この技、上、下、前、後、左、右と六方向から激しい圧をかけて圧縮、いや、圧殺する技なのか?
「"死の正方形"」
トピエさんが唱え切ると、囚われたアラタが重力に押し潰されて正四角形のようになり、圧に耐えきれなくなった肌からは血が漏れ出し、眼球も飛び出していた。
もし捕まったら、俺もあんな風な処刑方法をされてたのだろうか?
そう考えると恐ろしい。




