第103話 斬り裂かれた愛
話の途中で突然、アラタがキョロキョロと顔を動かして周囲を確認し始めた。
「ずっとここに居たら見つかるかもしれねぇな。俺のアジトに向かおうぜ」
その言葉を言ってくれるのを待っていた。あとはアラタが盗んだ物で作った兵器の在処を特定できれば、心置きなくぶっ飛ばしてとっ捕まえる事ができる。
「わかったわ〜!」
「そうだ。マカロンさんはさっき仕事をしていたが、一緒にいたガキに怪しまれてないよな?追って来てるかもしれない」
「大丈夫よ!えーっと……そう、記憶を消しておいたから!」
アラタがマカロンの同僚が探しにくる事を危惧していたので、「女神の力で記憶を消した」と咄嗟に嘘をついた。
「記憶を消すか…・。そんな事できるのか?」
しかし、そんな力を持っていると言ってしまったばかりに、より警戒心を強めてしまったようだ。もしかして余計な事を言ってしまったか?
「え、えぇ。でも、わずかに残された女神パワーを振り絞った最後の一回だからもう使えないわ!」
「…………本当か?」
アラタの口数が露骨に減った。
「もしかしてまだその力は残っていて俺を騙しているんじゃないか」と疑っているに違いない。アッサリ信じてくれたら楽なのに、人間不信が強過ぎる。
「一パーセントでも不信感があれば、信じないのが俺のルールだ。しかし、せっかく得た彼女を失いたくはない……」
なにやらブツブツと独り言を呟きながら悩んでいる。敵である事はかなり疑っているが、俺があまりに可愛いので仲間にするか悩んでいるらしい。
「嫌だ……。俺は死にたくない……!」
突然、ひどく怯えだして俺の元にフラフラと向かってくる。この感じ……俺が敵である可能性を否定しきれなかったんだな。
「ま、待ってよ。私に何をする気?」
もしかして、襲われる?とりあえず説得して、失敗したらここで戦うしかない。
「…………」
アラタは無言で俺ににじみよってくる。
どんな能力で何されるかわからない、それに怖いし、もうここでやるしかないっ。
「"プラズ"」
ザシュッ――
「ごはっ……」
魔法を唱えるより前に、俺の体に大きく深い斬撃が斜めに三つ入ってきた。激しい出血に痛み、腹も斬り裂かれたので、多分内臓も出てる……。
意識が朦朧としているが、すぐにヒールを唱えたので一命を取り留めた。しかし、傷が深いからなかなか全回復はしない……。
「ハァ、ハァ……!」
アラタは気が動転した様子で、最初に逃げる為に使おうとしていた狭い道に向かっていく。そして、アラタの左手が、毛むくじゃらになっており鋭い爪が生えている事に気が付いた。
――まさか、森で起きたモンスター惨殺事件って、鬼じゃなくてアラタの仕業だったのか?思えば、鬼は武器を持ってるから爪は最後の手段でしかない。
「逃げねぇと……!殺される!」
アラタは右腕に持っていた、俺の店から盗んだ魔道具を口に咥えて、目を閉じて集中し始めた。これは、エイダが大人になる時に使ってたヤツと同じで、本気モードになる為の合図だ……。
「スゥー、ハァー」
アラタの体がどんどん小さく、かつ異なる姿に変化していく。同時に服も毛に変化して、最終的に子供のオオカミの姿になった。
見た目は可愛らしく全然強そうじゃ無いが、この小さな体格を活かして、物を盗んだ後に人の通れない狭い道を使って逃げていたのか。
「う、うぅ。いってぇ…………」
ようやく立ち上がり、失いかけていた意識もハッキリとしてきた。しかし、オオカミとなったアラタは既に狭い道を通って逃亡してしまった。
「に、逃げられたか……。でも、大丈夫だ。既にアラタには魔法でマーキングしてある。ヤツがアジトについた時に唱えれば場所を突き止められるはずだ……」
ふと目線を下にして体の様子を見ると、服が自分の血でビチョビチョになっていた。胸と腹の辺りが大きな斬り裂かれており、もはや服として使えなくなってしまった。
「気に入ってたのに捨てるしかないか……。ふぅ、これで全回復した。待ってるうちに一回帰って着替えよ。黒曜の鎧も装着するか。……ん?」
いきなり右手からバチバチッ、と雷魔法の音が鳴り始めた。俺は魔法を唱えていないのにどうして……?
バシュッ――
すると、アラタに向けてマーキングしていた"逃さなぬ雷"が勝手に発射されてしまった。
まさか、一回瀕死になった状態で復活したから誤作動を起こしたのか?
――ヤバい。この辺りは人通りが多いのに、人間不信のアラタを刺激してしまったらどうなるかわかったものじゃない……。急いで魔法の行き先を追わなければ。




