斬り裂かれた愛
話の途中で突然、アラタがキョロキョロと顔を動かして周囲を確認し始めた。
「ずっとここに居たら見つかりそうだし、俺のアジトに向かおう」
キタッ、その言葉を言ってくれるのを待っていた!あとはアラタが盗んだ物で作った兵器の在処を特定できれば、聞き出せる事はこれ以上ないし心置きなくぶっ飛ばしてとっ捕まえる事ができる!
「わかったわ〜」
「マカロンさんはさっき仕事をしていたが、一緒にいたガキに怪しまれてないよな?追って来てるかもしれない」
「大丈夫よ!えーっと……そう、記憶を消しておいたから!」
アラタは、マカロンは一緒に働いていた同僚には顔が割れている為、一緒に行動した時にバレる確率が上がる事を危惧していると予想したので、「女神の力で記憶を消した」と咄嗟に嘘をついた。
「記憶を……?そんな事できるのか?」
……しかし、そんな力を持っていると言ってしまったばかりに、アラタがより警戒心を強めてしまったようだ。今、もしかして余計な事を言ってしまったか?
「え、えぇ。でも、わずかに残された女神パワーを振り絞った最後の一回だからもう使えないわ!」
「…………本当か?」
アラタの口数が露骨に減った。ふーむ。これから考えられるアラタの心情は二つあるが、どっちだろうか。一つ目は、「もう女神パワーが使えない俺を役立たずである」と思っているのか、はたまたもう一方は「もしかしてまだその力は残っていて俺を騙しているんじゃないか」と思っているのかの二択だ。アッサリ信じてくれたら楽なのに、人間不信が強過ぎてあらゆる可能性を疑ってくるなコイツ。
「一パーセントでも不信感があれば、信じないのが俺のルールだ。しかし、せっかくの彼女を失いたくはない……」
なにやらブツブツと独り言を呟きながら悩んでいる。よっぽど疑い深いタイプである事はよーく伝わってきたが、俺があまりに可愛いので仲間にするか悩んでいるらしい。頼む、俺の可愛さを、人の愛を信じてくれー!そしたら俺はお前をぶっ飛ばすけど!!
「嫌だ……。俺は死にたくない……!」
突然、ひどく怯えだして俺の元にフラフラと向かってくる。この感じ……俺が敵である可能性を否定しきれなかったんだな。ならば仕方ない。兵器の在処は特定できなかったが、この場でぶっ飛ばして捕まえてやる!
「"プラズ"」
ザシュッ……
「ごはっ……」
そんな……俺が魔法を唱えるより前に、体にいきなり大きく深い斬撃が斜めに、三つも入ってきた。激しい出血に痛み、腹も斬り裂かれたので、多分内臓も出てる……。
す、すぐにヒールを唱えたが、傷が深いからなかなか全回復はしない……。というか、ヒールが使えなかったら間違いなく死んでいた……。
「ハァ、ハァ……!」
アラタは気が動転した様子で、最初に逃げる為に使おうとしていた狭い道に向かう。その時気が付いたのだが、アラタの左手が、毛むくじゃらになっており鋭い爪が生えていてまるで動物のコスプレに使うような手袋を装着しているような見た目になっていた。
まさか、森で起きたモンスター惨殺事件って、鬼じゃなくてアラタの仕業だったのか?思えば、鬼は武器を持ってるから爪なんて最終手段でしかないのが疑問だったがこれで解決した。
「逃げねぇと……!殺される!」
アラタは右腕に持っていた、俺の店から盗んだ魔道具をなぜか口に咥えた。そして、目を閉じて集中し始めた。これは、エイダが大人になる時に使ってたヤツと同じだ!つまり、アラタが本気モードになる為の合図……!
「スゥー、ハァー」
すると、アラタの体がどんどん小さく、かつ異なる姿に変化していき、同時に服も毛に変化して、最終的に子供のオオカミの姿になった。見た目は可愛らしく全然強そうじゃ無いが、この小さな体格を活かして、物を盗んだ後に人の通れない狭い道を使って逃げていたのか。
「う、うぅ。いってぇ…………」
ようやく立ち上がり、失いかけていた意識もハッキリとしてきたが、オオカミとなったアラタは既に狭い道を通って逃亡してしまった。
「に、逃げられたか……。でも、大丈夫だ。既にアラタには魔法でマーキングしてある。ヤツがアジトについた時に唱えれば場所を突き止められるはずだ……」
ふと目線を下にして体の様子を見ると、服が自分の血でビチョビチョになっていて驚いた。胸と腹の辺りが大きな斬り裂かれているのでもはや服として使えなくなってしまった。
「気に入ってたのに捨てるしかねぇな……。ふぅ、これで全回復した。待ってるうちに一回帰って着替えよ。黒曜の鎧も装着するか……ん?」
どうしたのだろう?いきなり右手からバチバチッ、と雷魔法の音が鳴り始めた。俺は魔法を唱えていないのにどうして……?
バシュッ!
すると、アラタに向けてマーキングしていた"逃さなぬ雷"が勝手に発射されてしまった!な、なんで?まさか、一回瀕死になった状態で復活したから誤作動を起こしたのか?ヤバい、この辺りは人通りが多いのに、人間不信のアラタを刺激してしまったらどうなるかわかったものじゃない……。急いで魔法の行き先を追わなければ!




