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春霞 君と交わした ひとつ誓い 香の夜越えて 朝がひらける 1

その朝は、春の気配がほんのりと漂っていた

薄い霞が空を覆い、几帳越しに差し込む光は柔らかく、白い絹を透かして淡い金色に揺れている


女房たちが静かに動き、衣桁には私のために用意された装束が並んでいた

白地に淡い桜を散らした唐衣が、光を受けてふわりと浮かび上がる

刺繍の桜は、まるで風に揺れる花びらのようだった


単衣は薄桃色、五衣は白・桜・薄紫の重ね

打衣は淡い藤色で、裳は霞のような薄紅

袖を通すたびに絹がさらりと肌を撫で、胸の奥が静かに高鳴った


今日、私は暁の妻になる…


その実感が、衣の重みとともにゆっくりと心に沈んでいく


女房たちが下がり、ひとり残された私の前に、几帳の向こうで衣擦れの音がそっと止まる


「夕顔」


その声は柔らかい


几帳がわずかに揺れ、暁が静かに姿を現す


…暁


いつにも増して、装束がきちんとしている


白の直衣に黒の指貫

白は濁りのない雪のようで、黒は夜の底のように深い

その対比が、暁の凛とした気配を際立たせていた


髪は丁寧に整えられ、額にはわずかな緊張の影

けれどその目はまっすぐで、暁は私を見ると微笑んだ


「綺麗だよ

父上も、きっと驚く」


胸が熱くなる


「ありがとう…」


暁は一歩だけ近づき、私を見つめた


「緊張してるか?」


私は小さな声で、呟くように答える


「結構…」


暁はそっと手を伸ばし、私の肩に手を置く


「…大丈夫

今日からは、ずっと一緒だ」


その一言が、婚儀の緊張を溶かしてくれた


「うん…」



儀式が行われる、春の間へ向かう

そこは右大臣邸の中でも最も格式高い空間だった


黒檀の柱が凛と立ち、白檀の香が静かに焚かれ、壁代には桜と霞を描いた絵巻が広がっている

几帳が幾重にも重ねられ、外の庭では梅がほころび始めていた


光は柔らかく、香は深く、空気は静かで、まるで時間がゆっくりと流れているようだった



やがて儀式が始まり、白檀の香がふわりと濃くなった


暁が私の前に進み出る

その足音は静かで、しかし確かな重みがあった


「夕顔」


その声は深く、温かく、そして揺るぎない


「これより先、いかなる時も…

そなたを守り、共に歩むと誓う」


光が暁の横顔を照らし、白い衣が淡く輝いた


私は胸の奥が震えるのを感じながら、静かに頭を下げる


「暁様

私もまた、誠心誠意…あなたをお支えいたします」


絹が擦れる音が、静寂の中でやわらかく響いた


右大臣はしばし私達を見つめ、静かに頷く


「…よい

これよりは夫婦として、互いを支えてゆけ」


胸の奥がじんと熱くなる


その声は厳しく、でも、どこか温かかった

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