父の声 覚悟を試し 受け止めて ふたりの道は 宮へ続けり
「…もう、よせ」
右大臣の一言に、場の空気が震える
「もうよい
もう…やめよ」
右大臣は私達を見つめ、静かに言い放つ
「暁、夕顔
そなたらの心ばえ、しかと受け取った」
暁は息を呑んだよう
私の胸も強く締めつけられる
右大臣はしばし目を伏せ、言葉を探すように沈黙した
そして――
静かに、しかし確かに告げた
「…我はな、若き折、選ぶことができなんだ
家のためとて…守りたきものを手放した」
その一言に、胸の奥がふっと揺れる
「そなたらは…我には成し得なんだ覚悟を、すでに持っておる」
右大臣は暁をまっすぐに見据えた
「その覚悟、確かに受け取った」
そして、力強く言い切る
「暁
夕顔を――必ず守れ
決して手放すな」
暁の喉が震えた
息を呑むように目を見開き、次の瞬間、深く、静かに頭を垂れる
「いかなる困難あろうとも、この命に代えても守り抜く覚悟にございます」
その声は震え、胸の奥から絞り出すようであった
右大臣は続けて、厳しくも温かな声で告げる
「ただし、思い違うでないぞ
家は重い
政は容赦なく、時に人を呑む
暁、お前が嫡男としての責務を捨てること、我は許さぬ」
暁の表情が引き締まり、深く頭を下げる
「父上…
承知、仕りました」
右大臣は今度は私へと向き直る
「夕顔
正妻とは、ただ愛されるのみの役ではない
家を支え、時に己を削り、夫の背を守る覚悟がいる」
胸がきゅっと締めつけられる
言葉は厳しい
だけど、その声は震え、揺らぎはなかった
「されど…そなたに覚悟があるのならば――
夕顔、息子を頼む」
私は息を呑んだ後、胸の奥に灯った小さな光を抱くように、静かに頭を下げた
「はい
この身の限り、暁様をお支えいたします」
言葉にした瞬間、胸の奥がじんと熱くなる
右大臣は、ほんのわずかに口元を緩めた
沈香の深い香りが、胸の奥へ静かに沈んでゆく
白檀の温もりが、今はどこか優しく感じられた
襖が静かに閉じられる
右大臣の気配が遠ざかると、張りつめていた空気がふっと緩んだ
けれど胸の奥はまだ熱く、沈香の香りが残るように、右大臣の言葉が心に沈んでいる
暁はしばらく黙ったまま、廊下で立ち尽くしていた
私はそっと声をかける
「…暁」
暁はゆっくりとこちらを向いた
「夕顔…」
言葉が続かない
私も胸が詰まって、すぐには声が出なかった
しばらくして、暁はふっと肩の力を抜くように、深く息を吐いた
「父上が…認めてくれるなんて…思わなかった」
ぽつりと、零すように漏れた言葉に
そっと暁の横顔を見つめ、静かに言葉を返す
「暁が、お父さんのこと好きだから
お父さんも…暁と同じ気持ちだったんだよ」
暁は一瞬、目を見開いた
そして目を伏せると、短く呟く
「そうか…」
暁はゆっくりと私の方へ向き直った
「これから先、いろいろあると思う
でも…今日、父上に言った通り、俺は君を守る
絶対に」
私は迷いなく頷いた
「うん」
暁は私の返事を聞いた瞬間、視線を落とした
そして、少し間を置いてから、低く、ためらいがちな声で続ける
「夕顔…
さっきは、すまない
お前を手放さないなんて…あんな強い言い方を…」
言葉の端がわずかに震えている
私は首を振って、そっと微笑み、暁の手に触れた
「ううん…
嬉しかった…」
心が震えて、愛しくてたまらなかった
「まさか…
私のために、あそこまで言ってくれると…思わなかったから…」
暁は私の手を包み込み、静かに、真っ直ぐに私を見て言った
「夕顔のためだけじゃ…ない」
暁は視線を落とし、続ける
「俺が…君と生きたいからだ」
その声は低く、震えていて、けれど確かだった
胸の奥に、じんと熱いものが広がる
私は暁の手を握り返した
「ありがとう…
私もです」




