春霞 君と交わした ひとつ誓い 香の夜越えて 朝がひらける 2
春の間を静かに辞した
几帳の向こうで白檀の香がゆらりと揺れる
廊下に出ると、夕暮れの光が長い影を落としていた
女房たちが控えめに距離を取りながらついてくる
その足音は絹のように柔らかく、儀式の余韻を壊さぬようにと気遣っているのがわかった
そっと袖を引かれた
でも、その手は震えている
暁を見ると
暁は、少し目を逸らしながら、低い声で言った
「夕顔
今宵は、こちらで…休むとよい」
その瞬間、胸がふっと熱くなる
今夜…
案内されたのは、右大臣邸の奥にある静かな一室
几帳が四方に立てられ、灯りは柔らかく、香炉には沈香が焚かれている
几帳の内に入ると、灯りが柔らかく揺れ、沈香の香りがふわりと漂う
暁は几帳の外で女房に何かを告げ、やがて、ゆっくりと几帳をくぐってきた
静かな足音が近付き、膝をついた後、絹が触れ合うほど近くに座る
暁はしばらく黙っていたけど、ゆっくりと向き直る
「夕顔…」
呼ばれただけで胸が熱くなる
その声は、いつもより低く、慎重で、けれどどこか決意を含んでいた
私は胸が高鳴るのを感じながら顔を上げる
暁は一瞬だけ迷うように目を伏せたが、覚悟を決めたように息を吸って、私を見つめた
「今夜は…一緒にいたい」
その言葉は、誓いの時よりもずっと静かで、けれど胸に深く響く
私はそっと頭を下げ、震える声で答える
「…はい」
その返事を聞いた瞬間、暁の肩がわずかに揺れた
暁は一瞬だけ目を伏せ、そしてゆっくりと手を伸ばした
私の長い髪に指を滑らせ、軽く髪に触れる
「夕顔…」
灯りの揺れが暁の顔を照らす
その瞳は、深く、真っ直ぐで、逃げ場がないほど優しい
暁の手が、髪から肩に触れた瞬間、胸がふっと熱くなる
静かに、優しく、そっと抱き寄せられた
身体が暁の胸に収まる
暁の早い鼓動が、私の鼓動の速さと重なる
少しの沈黙が続いた後
暁の声が耳元で静かに響いた
「…ずっと、こうしたかった」
暁の声が、吐息が、耳元で溶けていく
その言葉が胸の奥に染み渡る
目頭が、じんと熱くなり
鼻がツンとして、視界が滲む
睫毛が震え、涙がひと粒、ぽたりと落ちた
涙を袖でそっと拭う
「夕顔…?」
暁が顔を覗き込んで来る
「俺…何か…」
肩に置かれた手は震え
その瞳は揺れていた
首を振り、涙を拭おうとして、逆にまたこぼれてしまう
それでも、震える声で続けた
「ごめんなさい…
違うの…」
小さく息を吸い、かすかに囁いた
「私もずっと…こうされたかった…」
暁の目が大きく見開かれる
「夕顔…」
その声は震えていた
私は涙を拭いながら、暁を見上げる
「暁に…ずっと、抱き締めてほしかった」




