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拒む声 胸を裂けども 揺らがずに 選んだ恋へと 心は向かう

『正妻の器には、到底及ばぬ』


右大臣の御前に、静かに言葉が落ちた

その一言に、胸の奥が鋭く裂かれたような痛みが走る


右大臣は淡々と続ける


「家格はあまりに隔たり、宮中の嫉妬、流言、子の立場…

そなたには背負いきれまい」


私は右大臣の顔を見つめ

震えを押しとどめながら、静かに口を開いた


「身の程を越えた望みと重々承知しております

されど…それでも、暁様と共に歩ませていただきとうございます」


右大臣の目が細くなる


「…恐れは、ないのか

暁と共にあれば、政の渦に巻かれることもあろう

その身に影が差すことも、決して少なくはあるまい」


私は静かに首を振った


「恐れがないわけではございませぬ

されど――暁様が、守ると仰せくださいました

その御言葉を信じ、行く末を共に歩みとうございます」


右大臣は低く言い放つ


「家のことを思えば、許すべき縁ではない」


私は唇を噛み、それでも目を逸らさずに言った


「覚悟は…ございます」


右大臣の声が一段強くなる


「覚悟のみで正妻の座に就けるほど、世は甘くはない

暁もまた甘い

そなたを正妻に据えれば家は揺らぎ、そなた自身も苦しむ

それを、二人とも分かっておらぬ

ゆえに――認めぬ」


その瞬間、襖の外で足音が響いた


襖が勢いよく開かれる


「父上――!」


張りつめた空気を裂くように、暁の声が落ちた


振り返ると、今まで見たことのない表情で暁が立っていた


「夕顔を正妻に迎えることを、父上が認められぬというのなら――」


一歩、私の前に進み出る


「――私は家を捨てます」


家を…?


胸がぎゅっと締めつけられる

右大臣の表情も、一瞬だけ揺らいだ


「…暁」


低く、押し殺したような右大臣の声


「その言葉の意味を、心得ておるのか」


凛とした暁の横顔が、真っ直ぐ右大臣を見据える


「はい

夕顔を守れぬのであれば、私は嫡男である必要はございません」


そんな…

そんなこと…


私は思わず暁の袖を掴んだ


「お待ちくださいませ!」


暁が振り返る

その瞳には、強い光が宿っていた


「暁様…

あなたが家を捨てる必要などございません

私は…あなたに、そこまでさせたくない…」


私のせいで、暁が家を捨てるなど――


そんな未来を望んでいるわけではない

暁の未来を壊したいわけでは…ない


沈香の深さが胸に沈み、白檀の温もりが切なさを増す

薄荷の清涼が、呼吸を整えてくれる

梅の凛とした香りだけが、背を支えていた


私は静かに言う


「暁様…

私は、身を引きとうございます」


香の煙がゆらりと揺れ、その向こうで暁の目が大きく見開かれた


「夕…顔…」


暁の声が震えた


暁は一歩、私に近づく

白檀と梅の香りが、熱を帯びて広がる


「なに…言ってるんだ…」


そして、まるで堰を切ったように、強く、はっきりと言い切った


「俺はお前を手放さない」


その瞬間、息を呑む


胸の奥が大きく揺れた

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