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リダさんの追憶【7】

 アインだけでも面倒だって言うのに。


「くそっ!」


 苦虫を噛む様に、私は顔をクシャリと歪ませる。


「安心して下さいよ、会長さん。今日の私は決して貴女に危害を与える為に参上した訳ではないのですから......くくく」


 き、気持ち悪い......。

 思わず、違う意味で苦い顔になる私がいた。

 なんだろうな? この......人の精神に直接汚物を流し込んで来る様な、不愉快極まる笑みは。


 単純に下品な笑みとはまた別の所にベクトルが存在する、なんと表現して良いのか分からない不気味な態度をして見せる伝承の道化師ピエロは、私を一瞥した後、不本意極まりない顔になってアインを見た。


「アインさん。貴方には失望しましたよ......せっかく、貴方の下らないエゴを私が後押しまでしてあげたと言うのに、意中のリダさんに嫌われた挙げ句、逃走ですか? 全くけしからん。リダさんに卑怯者呼ばわりされても、何の反論も出来ませんねぇ」


「俺は、まだ死ねないからだ。リダだけをこの世界に残すなんて真似は出来ない」


「それは、貴方が勝手に思い描いているだけの幻想です......やれやれ、現実をしっかり見るべきです。貴方などいなくても、リダさんはしっかりこの世界を生き抜こうとしている。この世界がどんな世界であるかなど、二の次だとすら思っているのですよ?」


「それは、まだ完全にリダがこの世界を理解していないからだっ! この世界は......狂っている!」


「狂っているのは、もしかしたら貴方本人かも知れませんよ......まぁ、それはどちらでも構いません。私はアインさん、貴方と押し問答をしにやって来た訳ではないのです」

 

 そこまで言った、伝承の道化師ピエロは、


 ゥウウゥンッ!


 右手から闇色の何かを産み出した。

 それは、私にも理解出来ない......魔法的な何か。

 古代魔法だろうか?......魔力の質が、なんとなく似ている。


 だが、私が分かる事はこれだけだった。


 他に分かる事と言えば、闇よりも暗い闇が......伝承の道化師ピエロの手から産まれていると言う事のみ。

 

 一体、何を......?


 額から嫌な汗がつぅ......と、首筋に落ちて行くのを感じていた時、それは起きた。


 バンッッッ!


「うぉわぁぁぁぁっっ!」


 その闇の様な物を、アインの背中にぶつける伝承の道化師ピエロがいた。

 

 ブゥゥウンッ!


 ほぼ同時に、空間に歪みが発生する。


「おっと......ここから先は、部外者に見せられる物ではありませんでした。名残惜しい所ですが、今回はこの辺りでおいとまさせて頂きます」


「......は? えっ......と」


 軽くペコリと頭まで下げて来た伝承の道化師ピエロに、私はオロオロしたまま口をパクパクさせてしまう。

 言葉が出なかった。


 流れ的に言うのなら、逃げるな! とか、待て! とか言うのが妥当かも知れないが、本能が言ってるのだ。

 こいつに逆らっては行けない......と。


 仮に逆らうにしても、今ではないと第六感が私に伝えている。

 

「......くそ」

 

 舌打ちする。


 そうこうしている内に伝承の道化師ピエロは忽然と姿を消した。

 得体の知れない闇を背中に浴びせられて苦しむアインと一緒に。

 

 恐らく......伝承の道化師に連れ去られたのだろう。

 因果応報だ。

 これ以外に、出て来る言葉などない。


 問題があるのなら、今の私......私自身だ。


 何も出来なかった。

 天下の会長様ラスボスが聞いて呆れる。


 だが......悔しいけど、あいつは格が違う。

 私一人でどうにか出来るってレベルを遥かに超過していた。


「精進......しないとな」


 これまでも散々やっては来たが、それでもやっぱり足りない。

 まだまだ、私は強くなる必要がある。

 この世界にいる、沢山の笑顔を守る為に。


 アインは言っていた。

 この世界はゲームをするだけの為に産まれたと。


 アインの台詞に偽りがないのであれば......この世界の誕生理由は、遊びをする為に創生された世界と言う事になる。


 視点を変えれば、実に下らない世界なのかも知れない。

 守るに値しない世界なのかも知れない。


 だけど、私はこの世界が......大好きだ!

 ゲームをするだけの世界を守ろうとして何が悪い?

 別に、それをやっては行けないと言うルールなんかない。


 なら、もう答えは出ている。


 この世界がなんであろうと、私はこの世界で出会った友達や、これから出会う事になるだろう仲間の為に、私が出来る精一杯の努力をしてやろうじゃないか!


 私は、そうと心の中で叫び、新しい決意を胸に公園から立ち去るのだった。 

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