リダさんの追憶【6】
私は、右手に握りしめたオーラブレイドをアインに向けた。
「......ここまで言っても、結局は分かって貰えないのか」
アインは、何処か絶望したかの様な顔になった。
「そうだな......どの道、俺もお前も昔には戻れない。つまりそう言う事なんだろう?」
「多少の語弊はあるけど......多分、そう言う事なんだろうな」
目線を下にして言うアインに、私はやわらかに笑みを作って答えた。
そんなアインは、武器こそ手にした物の、こちらに攻撃して来る気配がない。
向こうにその気がなかったとしても、私にはアインを倒す理由が山の様にある。
それだけに、問答無用で斬り倒してやっても一向に構わなかったんだが......けど、なんてか無抵抗の敵を一方的に倒すってのがねぇ。
今更、偽善者ぶっても仕方ないってのは分かるんだけどさ。
だけど、思うんだ。
「構えろ。せめて最期位は男らしく戦って死ね」
「......」
私の言葉にアインは答えない。
無言のまま、ダランとだらしなく剣を握り、その場で立ち尽くすのみだ。
......面倒なヤツだな。
しばらくして。
「予見でも、ここだけは見る事が出来なかった」
アインは、ぼそりと独白するかの様に口を動かして来た。
「可能性はフィフティ・フィフティ......つまり、50%だった。お前が俺の言葉に耳を傾けて、俺と一緒にこの世界からおさらばする予見と......俺の言葉を振り切り、今の様に俺へと刃を向けて来る。この二つの予見が同時にやって来た」
つまり、その通りになる可能性もあったけど、今の様な私がいる可能性もあった。
なるほど......もし、そんな予見しか出来なかったとするのなら、もはやそれは予見でもなんでもないな。
私だって予測出来るぞ......そんな物。
「最初の予見の通りであったとするのなら、俺の右手にある剣でお前を斬り殺し、そして俺も直ぐに後を追う。これで全てが終わった」
「だが、そうはならなかった」
「そうだ。残念ながら、今回は後の方に見た予見通りに物事は進んでいる」
アインは、ここまで言うと右手の剣を消失させる。
軽く大道芸だな。
ある意味、一芸だぞ。
特に拍手をしてやるつもりもないが、そんな思考を淡白に抱いていた時、
ズウゥゥッ......
突然、何の脈絡もなく空間が歪んだ。
これは......まさか!
「残念だよ......本当に」
「くっ!」
グニャリと曲がった空間を見た瞬間、私は動いた。
これは空間転移魔法だ!
元来、この世界の人間は空間転移魔法を禁呪としている。
何故なら、空間を転移すると言う事は、時空間の移動を意味しているからだ。
時空......つまり、時間と空間を一瞬にして飛び越えてしまう魔法は、世界に大きな矛盾を生んでしまう。
例えば、ある筈の物が消失したり、ない筈の物があったり。
本来なら生きていないと行けない存在が死んでいたり、その逆になっていたりもする。
そしてそれは、秩序崩壊に繋がり......新たな混沌を引き寄せてしまう。
よって、根本的に使ってはならない魔法とされている。
もちろん、私も使った事はない。
ただ、知識として知っていると言うだけの話だ。
実際にこの魔法が発動された場面にも遭遇しているしな。
だから分かる。
あの空間の歪みにアインが入れば、ヤツは一瞬にして私の認知不可能なエリアまで瞬間移動してしまう!
その前にせめて一太刀浴びせてやるっ!
「逃げるな卑怯者っ!」
叫びながら、空間転移して行くアインめがけてオーラブレイドを一振り。
上手く行けば、一撃で致命傷を与える事だって出来る......かも知れない!
とにかく、諦めるのはまだ早いっ!
どんな時だって、常に最大限の努力をする事!
失敗はしても、頓挫や挫折を味わっても尚、それでも私はしたくない物がある。
それは、後悔だ!
シュバァァッ!
光の刃がアイン目掛けて振り抜かれる......筈だった。
「......っ!」
私の目が大きく見開かれた。
その瞬間、私の右手にあったオーラブレイドが消滅した。
特に私の意思で解除された訳ではない。
純粋に消えて無くなったんだ。
流石に想定外過ぎて、思わず目を疑ったね。
その後にあった展開も含めて......さ。
「元気そうで何よりですねぇ......会長さん」
「お、お前はっ!」
伝承の道化師......だと?
私の中で戦慄が走った。
見れば、アインもいる。
恐らく、アインが発動させようとしていた空間の歪みを伝承の道化師が消し去ったのだろう。
そうであれば、今のアインが空間転移する事なくこの場にいる事にも理解出来る。




