冷酷な世界
何故かタマラの家にいたダグ。
扉を開けると「おかえり~」とご機嫌で抱き着いてきた。
――が。
汚れ、死んだように眠る子供をみた瞬間唖然とした。
「ダグ、ちょうどよかった。この子達治せる?」と、タマラ。
「ミーアバットの方は治せそうだけど……ああ、俺の魔法じゃ目は無理だな。こっちの子供は回復魔法じゃ無理だ。家にある薬でどうにかなるかな。」
真剣な面持ちで話しあう二人。
やっぱ回復魔法とかあるんだ……と秘かに納得する私。
そんな私の横で心配そうに子供とミーアバットを見つめるサワラ。
ダグがミーアバットに手を当てると見る見るうちに翼や毛づやがよくなってきた。
目については包帯でみえないのでわからないけど、さっきの話だときっと治ってないんだろう。
「よし、んじゃあちと薬とってくるわ」そう言うとダグはあっという間に走りさってしまった。
「……やっぱり……」
私の横で真っ青な顔をしているサワラが呟いた。
あの子も心配だけど、サワラだって今にも倒れそうなぐらい顔色が悪い。
「サワラ、大丈夫だよ……。大丈夫……」
こんな事しか言えない自分がもどかしい。大丈夫なわけないのに。
鰆の頭を撫でて何度も何度も、自分に言い聞かせるように呟いた。
「……大丈夫。きっと大丈夫だから……。」
ダグの持ってきた薬は十分な威力を発揮した。
死の気配を漂わせていた子供の顔色は薄く色をさしてきている。
「……あとは目が覚めたら飯食わせて安静にしてれば大丈夫じゃねーかな」
一同、ホッと息をつく。
「んじゃ、俺今日は帰るわー。フユミ、今度デートしよーなー」
にひひ、と笑うダグ。
デート! した事ないな。告白された事はそれなりにあるけど、付き合うとまではいかなかった。
だって彼氏優先の生活なんて無理だから。
今だって……彼氏作る余裕なんてない。なら、私はダグにハッキリと伝えるべきじゃないんだろうか?
私はダグのお嫁さんにはなれない、と。
そもそもリンが見つかったら私は元の世界に帰るのだし……。
「ダグ、あのさ……」
そう言葉を切り出した時、ダグが耳元で囁く。
「タマラとサワラの事頼むな。アイツら、すっげーへこんでると思うからよ」
言われて二人の様子がおかしい事に気づく。
タマラは口数少ないし、ダグが私に近づいても何も言わない。
サワラといえばずーっと泣きそうな顔をしている。
私ったら、なんて自分勝手なのだろう。
二人ともいつも私の事を気遣ってくれるというのに、私はと言えば自分の事しか考えてなかった。
でも私に何ができるのだろう。せいぜい話を聞くぐらい……?
ダグはもう帰ってしまった。もっとよく話をきけばよかった。
タマラとサワラの落ち込む理由。
きっとそれはあの傷ついた子供とも関係のある事なのだろうという事は理解できたけど。
子供はすやすやと眠っている。
子供なのに……子供特有のぷっくりとした肌の張りが全くない。頬はこけてやせ細っている。歳はサワラと同じぐらいだろうか。
そうだよね。自分と同じぐらいの年齢の子がこんな状態なのを見るのは悲しい事かもしれない。
悲し気なサワラを私はギュッと抱きしめた。
「あの子……私達と一緒だわ……」
か細く呟いたサワラは涙をためた大きな瞳で私を見つめる。
「私達もあの子と一緒なの! ひどいよ! 半獣人だからってどうしてこんな目にばかりあわなきゃならないの!? やっぱり私達幸せになんてなれないんだ!」
サ、サワラ?
興奮し泣きじゃくるサワラ。彼女の言葉を聞いて理解する。
そうか。半獣人って嫌われる存在なんだ。そして彼女達こそその半獣人なんだ。
思えばダグはそのまま犬(狼?)だ。二足歩行する獣。
それに比べ、タマラとサワラはほとんど人間と変わらない。
耳と尻尾がついているぐらい。
なら、どうして嫌われるのだろうか。人と変わらないなら嫌われる事はないんじゃないだろうか?
「自分と同じ形、なのに全く別の生き物なんて……まぁ、誰でも怖いよねえ」
私の考えを読み取ったかのようにタマラが困ったような笑顔を向けた。
そう……なのかな。そうかも……。
同じ人間同士でも異質だと感じられればイジメられたり疎外されたりする。
自分と違う何かというのは人にとってそれだけで恐怖なのかもしれない。
でもね。
「……大丈夫だよ。だって、サワラもタマラも……ダグだって、みんな私に優しくしてくれたよ。異質な私にだよ? だから大丈夫。幸せにだってなれるんだよ」
綺麗事だけど、そうあればいいと心から願う。
「……異質じゃないよ……」
そう言ってサワラがギュッと抱きしめてくれる。
サワラのサラサラの髪を撫でながら、今までの二人の言動をふと思い出して考える。
きっと今まで幾度となく辛い目にあってきたんだろう二人。この世界のルールなんて全くわからないけど、私は何があっても彼女たちの味方でありたいと思った。
きっとダグもそう思ったからこそタマラとサワラの心配をしていたのだ。
「ね! サワラ! あの子起きるの楽しみだね! 私、お友達になりたいな」
「……! うん! 私もお友達になりたい!」
やっと笑顔をみせてくれたサワラにホッとする。
タマラの方をチラリと見るとタマラと目があった。
声を出さずに口を動かしニコリと微笑むと台所へと行ってしまった。
ありがとう、タマラの口はそう伝えていた。




