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傷ついた世界

 チキに案内されるがままに歩いて行きついた場所。

そこは大きな木のある小高い丘だった。

 

「いつもこの辺りにいるんダ」


得意げなチキ。

キョロキョロと周りを見渡す私とタマラ。


チリン……。


 鈴の音。

いち早く気づいたタマラが大きな木を見上げる。

その視線の先を私も追う。


 そこには――。


 しなやかな黒い体。大きな二つの瞳。首には赤いリボン。

その瞳は冷ややかに私達を見下ろしていた。


 ……リンじゃない……。

確かに二つの瞳。額には血の滲んだ包帯が巻かれている。

あの子、3つ目の瞳が……?

背中にはボロボロのコウモリの翼。

よく見れば毛皮も艶がなく薄汚れているし、あちこち毛皮が抜けているのか皮膚が見える。


 冷ややかに見下ろす瞳がタマラを捉えると驚いたような顔をした。

「……半獣人……」

小さな呟きはタマラの耳に届き、タマラは顔を歪めた。


 「……ただのミーアバットだわね。あれは違うわ。行きましょう」

フイッと踵を返すタマラ。

 ガッカリしつつ私もタマラの後に続く……半獣人という言葉に過剰な反応を示したタマラの事が気になったけども。


 「待っテ!」


 先程のミーアバットが追いかけてきた。

「お願い! ……あの……」

さっきはあんなに冷ややかに見つめていたミーアバットは明らかに動揺している。

 何かを伝えたくて、でもどう伝えればいいのかわからない、といったように。


そんなミーアバットを冷たく一瞥し、タマラが去っていこうとするのを私は引き留めた。

「フユミ?」


どうしてなんだろう?

タマラは私やサワラにはとっても優しい。なのに、他の人にはちょっと冷たい気がする。

私はなんだかそれが悲しい。


 フッ……とため息をついた後、私の目を見つめて困ったように微笑むタマラ。

ミーアバットに顔を向けると苦々しそうに声を絞り出した。

「……で? 私になんの用があるっていうのよ……!?」

 言葉はトゲトゲしいけど、あのミーアバットの話をきいてくれる気になったみたい!

やっぱり何のかんのでタマラは優しい! 私、タマラ大好きだわ!


 ミーアバットはくるりと背を向けるとヨロヨロと歩きだした。

「……ついてきテ……」


 大丈夫かな、あの子……。今にも倒れそう。

息も荒く、一歩一歩踏みしめて歩く。一体この子に何があったのか。


 そこからそれ程遠くない一軒家にたどり着いた。

こんな事いっちゃなんだけど小汚い、といった感じ。

建物が古いとかそーいう事ではなく、手入れをしていないといった小汚さ。

 庭も草がボーボーだしね。


 そこ一軒家の裏手に隣接する納屋のような物があった。

半地下になっているらしく足元付近に鉄格子が見える。

 ミーアバットはその鉄格子を力なくポスッと叩くとタマラを見つめて悔しそうに言い放った。

「……助けテ……!」


 何かを感じとったのか、タマラは眉間に皺をよせて鉄格子から中を覗いた。

タマラの顔色が変わるのを見た私もそっと覗いてみる。

 異様な匂いがした。

獣の匂い……というか……。

 

 人間の子供がいた。いや違う。

垂れた耳とゴワゴワしてそうな汚れた尻尾……獣人だ。

薄汚れているし、部屋は汚物にまみれている。

目を閉じてピクリとも動かないその子供は死んでいるように見えた。

 

 「扉はどこよ!!」


 タマラの恐ろしい剣幕に皆がビクリとした。


「……あっち……でも鍵がかかってル……」


「そんなのッ! 私がぶち破ってやる!」


――が。

 「お前如き半獣人がずいぶんと勇ましいじゃねぇか」

ニヤニヤとこちらを見ている太ったおじさん。こんな時間からお酒を飲んでいるらしく呂律がまわっていない。

 そしてミーアバットを見てその醜悪な顔がより一層醜悪に歪められる。

 「おいおいおい、そんな体にされてまた来たのか。こりない奴だな。――で? また金でも置いてってくれるのか?」

クックック……と嫌らしい笑い。とてつもなく不愉快。


 そこで流れぶったぎり。空気読まずにチキが大声で言い放った。


「俺の金、こいつに渡したのカ!?」


 固まるタマラ。

……そいえば昨日なんだか……「私の金を盗みやがったんだからなァ!」そんな言葉をタマラが言っていたんじゃなかった?

 ん~? チキもしかして……このミーアバットに貢いでた!?


「……そう……そういう事なのね……フフフ……私のお金はめぐりめぐってコイツに奪われたってわけなのね……?」


 お……鬼だ……。昨日みた鬼がいるッ!

何が起こったのかすらわからなかった。

 言葉を発する間もなく男は倒れた。馬乗りになったタマラの両手には愛用らしいあのナイフが握られている。


「さて。お金は返してもらうとして。あのミーアバットのケガ……あれ、あなたがやったのよね?」


あうあうと言葉にならない呟きを吐き続ける男の咽喉元にナイフをつきつける。

――そして。

 「お金にはお金。では傷には何で贖ってもらうべきなのかしら?」

彼女の問いに男は真っ青になった。


 それからの展開は怒涛の如く。

「何でもするから助けてくれ!」という男からお金を取り返し、あの子供を助け出した。

 かなり衰弱をしていたけどその子供は生きていたのだ。

 安心したのかあのミーアバットは事を見届けるとバタリと倒れてしまった。

子供だけじゃなく、彼女も重体だったのだ。

 タマラは子供を。私はミーアバットを抱きかかえて戻ったのはお昼をちょっと過ぎた頃。


 結局リンには合えなかったけども、あの子供を助けられたのはとても嬉しく思った。




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