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夢の世界

 「はじめまして、サワラです」ぺこりとお辞儀をして彼女は微笑んだ。

 なので私も自己紹介。「初めまして、冬実です」ぺこりとお辞儀をして微笑んだ。

 二人で顔を合わせてニコリと微笑む。

可愛い、この子。凄く。


 「今日からフユミも一緒に暮らすから仲良くしようね。」

タマラがそう言うとサワラは大喜びしたようで「嬉しい!!」と声を荒げたのだけど…ん? 私、一緒に暮らすの?

 一緒には暮らせないんだけど…私、夢の続きを見た事ってないし。

この夢は一回限りだと思う、残念だけど。


「…あら? アンタはなんでここにいるの?」


 いつのまにかサワラに抱かれているチキに冷ややかに言い放つタマラ。

チキから冷や汗が大量に流れているかのような幻が見える。

ふるふると腕の中で震えるチキを見たサワラが哀し気にタマラを見つめる…。

そんなサワラを見たタマラはため息をついて。


「お腹すいたね? ご飯の用意するわ。」とサワラの頭を撫でた後台所に向かう。


 なるほど。おねえちゃんは妹さんに頭があがらないのね?

怒るとあんなにも恐ろしいタマラはサワラにはとてつもなく優しいみたい。

サワラのおかげであっさりと許しを得たチキはサワラの腕の中でホッとため息をついた。


「ねえ、フユミ。ゴハンできるまでお話ししててもいい?」


 そんな事をニコニコと聞いてくるサワラは確かにとてつもなく可愛い。

私もこんな妹いたらデレデレに甘やかしてしまうかもしれない。

残念ながら私にはたまーに時々優しい兄がいるぐらいなんだけどねー。

でもね。

 この子とのお話しは魅力的なんだけど。

もう会えないのかと思うといっぱい話しておきたいのだけども。

「ごめんね。私眠らなくちゃ…。」

ホント、罪悪感で胸がいっぱいになりつつどうにか伝える。


「ねむい…?」 とちょっと悲しそうなサワラ。


「ううん、眠くはないの…。でも眠らなくちゃダメなの……」


サワラは困惑した表情している。

 そりゃそうだ。

詳しく説明してみる。

「私、早くこの夢から覚めて現実にもどらないとダメなの……」

言葉にすると自分でも何をいってるかわからないのだから、こんな説明でサワラに伝わる訳はなかった。

益々困惑している。


「手軽な物しかできなかったけど…ゴハン食べよっ!」


 両手にお皿を担いで持ってきたタマラは私と困惑するサワラに気づいた。

「……なに? どうしたの……?」


 お皿をテーブルの上に置くとサワラの頭にポンッと手を乗せる。

悲しそうな目で私を見つめると絞り出すように言葉を紡いだ。


「サワラに……いじわる……した……の……?」


 ……っ!? 誤解! いじわるなんてしてない! するわけがない!

そして誤解はサワラ自身によって解かれた。


「サワラ、いじわるなんて、されてないよっ!」


 良かった……ほんと良かった。ダグの家で見た鬼タマラを思い出していた私は切実にそう思う。

そしてタマラ自身もホッとした表情を浮かべた。

「じゃあ何があったのかな……?」 優し気に問うタマラ。


「……おねえちゃん……あの……。あのね……フユミがね……、この世界は夢だから早く目覚めなきゃっていうの……」


 どう伝えていいのかわからないといった感じのサワラはそれでもタマラに伝わるようにと考えながらゆっくりと言葉をつなげた。

 これ以上はないというぐらい完璧な答えだとは思う、私からみれば。

ただ、これを聞いたタマラは困惑顔。伝えたサワラも困惑顔。

チキだけはサワラの腕の中でスヤスヤ眠りについていた。


 は! と我に返ったタマラ。「夢じゃないよ?」

それにつられて我に返ったサワラ。「夢じゃないよね!?」


 そりゃあアナタ達夢の住人に「これは夢の中だから」なんて説明は意味ないよね。

彼女達にはここが現実なのだから。

でも私は違う。

ここが現実ではないことを知っている。

 だから本当にごめんなさい。

アナタ達にとって現実の世界が私にとって夢の世界である事を伝えるのは私の我儘です。エゴです。

私はちゃんと自覚しているんです。

 しょんぼりとしてたらまたタマラにギュッと抱きしめられた。

タマラはボディタッチ多いなあ。

同性とはいえこんな美人さんなので悪い気はしないけど。


「……貴女は……優しい匂いがする。あたたかな陽だまりの匂いもするし草原の匂いもする。私、貴女の匂い好きよ?でも……」


 耳元で囁くタマラ。

彼女の鼻には私の匂いはそんな風に匂うのか。

まあ陽だまりやら草原の匂いやらは草原で寝っ転がっていたからでしょうがね。


「でも、フユミ、悲しい匂いがする。」とサワラ。私の顔を見つめて心配そう。


「貴女の優しい香りに強い悲しみが混じりあって…なんだか私まで切なくて。……そうね、だから私達、貴女を構わずにはいられないんだわ」


 タマラの言葉にハッとした。

「動物はね、人の感情を読み取ることができるんだって」そんな話を私は一体誰から聞いたのだっただろうか。

 そしてその話を聞いた後で気づいた事がある。

私が落ち込んでいたり泣いたりしている時に必ず寄り添っていてくれたリンの存在を。

人から触られる事があまり好きではないリン。

だけど私が悲しい時だけは自分からピタッと寄り添ってくれていたリン。


 ああ、そうだった。動物って人の悲しみを読み取るのね……? そう思うと笑顔と一緒に涙がこぼれた。

やだな……私、泣いてばかりだ。


 その涙を唇で受け止めるタマラ。

チュッ……と音がする。2度……3度ともなく。


「何か心配事があるなら私達に言って?協力するから……ね?」


 タマラとサワラの優しさに涙が滝のように溢れる。

そして私は嗚咽を漏らしながらリンの事、夢の事、気づいたらこの世界にいた事を話し始めたのだった。









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