女の子の世界
毛がもふっとした人の顔色なんてわかるわけはないんだけど。
でもきっと青くなっているんだろうなあ、っていうのがありありと分かりました。
「……いや……あの……ちょ……えっと……」
口調もこんなだしね、獣人さん。
この世界の50万がどれくらいの価値なのかはわからないけど、この感じだとここでも結構な金額っぽいよね?
「払ってくれるんだよね?」
妖艶に笑うタマラさん。美しすぎる。
「まあね……ダグの事は信じてるから、別に今すぐじゃなくてもいいわ。明日にしてあげる。」
優しい? タマラさん。
ダグっていうのが獣人さんの名前らしい。
「じゃあ、私、帰るから。お騒がせしたわね。」
そう言って私の手を掴み去っていこうとするタマラさん。
って……えっ?えっ?
「おい! それ、俺の!!!!」
ダグさん。いや、アナタの物でもないよ、私!
「うっさいわ! 貸した金には利子ってもんがつくのよッ! この子は私がもらってくから!」
同じく声を張り上げるタマラさん。いや、私の意志は!?
「ダ―メ―だって! これ俺の嫁!」
叫ぶダグさん。
「嫁!?」私とタマラさんの声がシンクロしたよ…。
なにそれ、一体いつの間にそーいう事になってるのか私は知りたい。
いや、なんか怖いから知りたくない…。
「 いやいやいや、何言ってんの? 嘘つかないでよ? 肝心のこの子が驚いてるじゃん。咄嗟に嘘とかちょっと汚くない?汚いわ~、ほんと汚い。やっぱダグは信用できないわ~、こわいわ~。」
タマラさん、私を守るかのようにギュッと抱きしめた。
私の顔にタマラさんの柔らかい胸の感触。それにとっても良い香りがする。
「俺が拾ったんだから俺のもんじゃん。俺の嫁にするって決めたんだよ!」
「なにいってんの!? 拾ったら自分のもんだとか何それ何様? 死ねよ! まじで!」
「死なんわ! いいいから離せって! 俺の嫁!」
「嫌! この子連れて帰るー! アンタにはそこにいる小汚いミーアバットあげるわよ! だからこれ私がもらうの~~~!」
「ちょ…小汚いとかヒドイ! え、俺捨てられタ?」
なんかもう…収拾つかなくなってるし。どうなってるの? ってか私どうなるの?
ぐぎゅるるるるるるるる
一斉に皆の動きがとまった。
さっきまで騒がしかったのが嘘のようにピタリと音がとまる。
だからこそ。
ぐぎゅるるるるるるるるるるるるるる
二度目は更に大きく響いた。
はい、これ私のお腹の音です…。顔が赤くなるのが自分でもわかる。
なんで! よりによってこんな時にこんな大きな音で…。
なんかもう…泣けてくる。色んなことがありすぎて。
「おなか、すいちゃったのね?」
その優しい声に私は顔をあげた。
タマラさんが、あの鬼のような顔でもなく妖艶な笑顔でもなく本当に優しく私に微笑みかけてくれている。
「うちね、ここからすぐ近くなのよ。私お料理好きだし、すぐご飯作ってあげる。私の作るご飯、とっても美味しいのよ?」
綺麗だとばかり思っていたタマラさんはとっても可愛く笑える人だったのね。
それにとても優しい人。
ギッ! とダグさんを睨んで「アンタの作るもんより私の作るお料理のが美味しいんだから文句ないわよね!?」というと、ダグさんも何も言えなかったようで、グッと言葉を詰まらせてしまった。
「じゃあ行きましょう。」にっこりと微笑むタマラさん。
でも。
最初に私を助けてくれたのはダグさん。このままタマラさんに付いていくのは違う気がするので。
私はダグさんに問いかけた。
「あの、ダグ、さん? さっきはごめんなさい。それで、あの…私、このままタマラさんと一緒に行ってもいいのかな…?」
じっと私を見つめるダグさんはため息をついた。
「……さっき……俺の事嫌じゃないって…言ってたよな?」
うん、嫌いじゃない。裏表がなくて、自分のやりたいように自由気ままに生きてる……なんだか憎めないこの感じ、むしろ好き。
だから私はコクリと頷く。
それを見たダグさんは私に顔を近づけて……タマラさんに押し返された。
「ちかいっ!」
それでもダグさんは私の目から視線を外さず続ける。
「……じゃあさ、さっきの話本気で考えてくれねぇ? 俺の嫁、ってやつ。俺さアンタに一目惚れしたみたいなんだわ」
パァ―ン!
タマラさんの手が本日何回目かのタグさんの顔を勢いよく引っぱ叩いた。
「あ、ごめん。つい」
特に悪びれずタマラさんはそう言って、私の手をとってまた優しく微笑んだ。
「じゃあ話もついたし、いこっか」
話…ついたの? 私プロポーズされたんだけど。
あまりにも自然な動作でタマラさんが平手打ちなんかするからなんだかそっちの方に驚いてしまったのだけど。考えて、ってことは返事今じゃなくていいんだよねえ?
なんだか納得のいかないままぐいぐいとタマラさんに引っ張られる。
なんでこの世界の人たちってこんなに強引なのかしら。
「……あの……じゃあ……行ってきます…?」よくわからない別れの挨拶。
でも他になんて言っていいのかわからない。
「なぁ…名前教えてくんねぇ?」
そういえば自己紹介すらまだだったことに気づく。
「冬実です。よろしくお願いします。」
よろしくの部分で顔を緩めるダグさん。
「…うん、よろしく、フユミ。俺の事はダグでいいから。また、明日な…?」
「私の事もタマラでいいからね?」
遮るようにタマラさんも自己紹介してくれる。
皆優しい。出会ったばかりなのに、私なんだかこの人たちの事かなり好きになっている。
「ありがとう。ダグもタマラもよろしくお願いします!」
元気いっぱい感謝の意味もこめて笑顔で挨拶。
で、ダグは赤くなるし。タマラはまた私をギュッと抱きしめるし。
じゃあ……うん、また……なんて言葉を皆でぼそぼそつぶやいて、私とタマラは歩きだした。
タマラの家、すぐ近くだって言ってたけどほんと近く。
三軒隣りのこじんまりとしたかわいらしい家でした。
「ただいま―!」
タマラ静かにドアを開けると、小さな女の子が出迎えてくれた。
タマラによく似た顔だちの、かわいらしい女の子。頭には尖った白い耳。
艶やかな長いストレートのプラチナブロンド。瞳は印象的な薄いグリ―ン。
白いドレスが似合っている。
「おねえちゃん、おかえりなさい。」
なるほど。姉妹なのね。
被害に遭われた、及び現在進行形で被害に遭われていらっしゃる被災地域の皆さまに心よりお見舞い申し上げます。 今は不安で胸がいっぱいだろうかとは存じますが、いち早く元の生活に戻れますよう祈っております。




