終わりから始まる世界
ハッ! と目を開いたのは何かを感じたからなのか自分でもわからない。
ただ、目を開けばいつもより青く広い空が広がっていて、起きてみれば例の草原。
まだ夢は覚めない。
が。最悪な事に目の前はさっきと違う風景にはなっていた。
いるんです。
5メートル程離れた場所に。
なんだか柴犬程あろうかという蠍が。
草原の中に大きな蠍。なんかこれ見たことある。
RPGのゲーム画面になんかこーいう戦闘シーンあるよね。
ゲームは割と好きなので良く知ってる。
大蠍が現れた → 逃げる or 戦う
なんてね?
さて。大体の女性のように、私も虫は嫌いです。
あれくらい大きくなると関節やらなんか産毛みたいなものが普通に目視できてツライ……。
じりじりと近づく蠍からゆっくりと立ち上がり同じくじりじりと後ずさる私。
これ、逃げれるのかな。
虫って意外と動きが早いところがまた気持ち悪いところなのだけど。
でも……と思う。
もしここでこの蠍に殺された場合、私はどうなるのだろう?
もしかして目覚めたりするのではないのだろうか?
いや、夢の中で死ぬと現実でも死ぬという話もあるし。
でも……なんかそれはそれでもうどうでもいいかもしれない。
いっそここは大人しくやられてしまうべきか。
じりじりと後退しながらだした結論は
……無理。
殺されるという恐怖、ではなく気持ち悪さの恐怖。
アレにもうあと1メートルすら近づかれたくない。怖い。気持ち悪い。
いつまで後ろ向きに後退すれば諦めてくれるのか。いっそもう振り返って一気にはしりさりたいところだけど、アレから目を離した瞬間飛びかかってこられそうで……。
どうすればいいの……なんだかスピード早くなってますけど。
スタ――ン!
……ああ……さすが夢。
こーいう事もあるご都合展開。妙に澄んだ音とともに動かなくなる蠍の脇腹に、なんだか妙に頑丈なつくりの金属でできた矢がささっていた。
鉄の矢……?
「あっぶねぇなあ。たかが大蠍だけど、人間の、しかもお前みてェな弱そうな女じゃ瞬殺されるぞ?」
わぁ……。
いいなあ、この夢。
声の方向にはそれはもう美しい毛並みの銀色の犬。もしかして狼かもしれない。
というか。
二足歩行、獣人さんだ。
今でこそ猫派……というよりはリン派になった私だけど動物全般大好きです。
そして。
あの大きな蠍をみてなんとなく気づいてたけど、これ…いや、この世界って私がいた世界とだいぶ違うよね。RPGの世界だ。ファンタジーだ。
なんてちょっと興奮気味に考えてたら、大股で歩いてくる獣人が大蠍から矢を引っこ抜いて皮袋にしまっていたりする。そんなところもなんと美しい…。
「……でさァ?」
ん?と辺りを見回す。ここには私と獣人さんしかいないから、私に話しかけているのだろうか。
「はい?」
チラッとこちらを見る獣人さん。
とても鋭い金色の目をしている。綺麗だ……。
「こんなとこでフラフラしてっと死ぬぞ?お前、人間じゃん?」
……って……言われても……ねぇ?
「行くとこねーならオレんち来る?」
見た目の硬派っぽい感じとは裏腹になんだかちょっと軽い感じの中身。
とは言え、さっきみたいな目に合うのは嫌だし。
信用できるのかどうかといえば信用できなさそーだけど、ここにいてどーなるわけでもないし。
まぁとりあえずは……
「お願いしまス……」
ブフッと噴き出すと大笑いする獣人さん。
「こんなバカな人間初めて見た。まぁ別に下心があるわけでもないけどさァ? ちょっと警戒しろよ」
はぁ……そうですね……とモゴモゴ呟きながら。
いや、意図したわけではなく。手が…手が勝手にィィィィ!?
獣人さんの手を、正確には手の毛皮をナデナデ……。
「……」
「……」
しまった!と思ったけどこの気まずさの中、手をピタリと止めるタイミングがわからない。
ナデナデナデ……。
誰か止めて、ほんとに……。
「……お前変わってんナァ。でも悪くねぇよな、こーいうの。」
ニヤリと口をゆがませて、ナデナデと触られてる側の手とは逆方向の手で私の手を制止し、そして改めて私の手を掴み繋ぐ。
えっ?
これにはちょっと驚いたのだけど、彼はなんともないように「こっち!」といって私を引っ張った。
この夢はなんだか不思議。
なんでこう……感覚がリアルなのだろう。
私をぐいぐい引っ張る獣人さんは突如「遅ぇ!」と叫び
「こんなんじゃあ家帰るのが明日になるわ!」と私を抱きかかえた。
「ひょぁぁぁぁ~~~……」とまあ、いきなり抱えられた私が変な叫び声をあげてしまったのはしょうがないと思う。
更には猛スピードで走る獣人さんのスピードに耐えきれず「びゃああああああ!!!」と叫び続けていた事も、まあしょうがないと思うんですよね。
徐々にゆっくりとスピードを進める獣人さんは「町ついたぜ。」というと私を地上に降ろしてくれたんだけど、足がフラフラで立つことができず獣人さんに支えてもらった。
私が走ったわけでもないのにグッタリですよ、全く。




