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『追放令嬢、嵐と戦い都市を作ります』 〜知識チートで廃村を国一番の領地にしたら、捨てた王太子が今さら焦りだしました〜ツイトシ(追都市)  作者: カナデ・オン
第一章 生き残り編 〜泥だらけの令嬢〜

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第5話 森の宝物



「ありましたー!」


 息を切らした女性が、両手を振りながら駆けてくる。


 その後ろから、ハンナたちも続いていた。


「何があったの?」


 リディアが立ち上がる。


「これです!」


 女性が大事そうに抱えていた籠を差し出した。


 中には、木苺の実と、何本かの枝が入っていた。


「森の奥で見つけました」


「奥?」


「ええ。昨日まで見ていたところより、もっと奥です」


 リディアは籠を覗き込んだ。


「これは……」


「木苺です」


 ハンナが答えた。


「でも、普通の木苺とは違うんです」


 女性が一つ摘まんだ。


「食べてみてください」


「?‥‥わかったわ。」


 リディアは頷いてから、果実を口に入れた。


「……甘い」


 思わず声が漏れた。


「でしょう?」


 女性たちが顔を見合わせる。


「しかも、前に見つけたものより甘いんです」


「同じ木なの?」


「そこなんです」


 ハンナが籠の中の枝を取り出した。


「これ、一つの木から取ってきたんですけど」


 枝の先には、いくつか実が残っている。


 どれも同じように見える。


 けれど、食べ比べると確かに違った。


「こっちの枝の実だけ、甘い」


「ええ」


 リディアは枝をじっと見つめた。


 まただ。


 以前見つけた木苺と同じように、一部の枝だけ性質が違う。


「……やっぱり、枝変わりかもしれないわね」


「枝変わり」


 女性たちが言葉を繰り返す。


「同じ木なのに、枝の一部だけ性質が変わることがあるの」


「じゃあ、この甘い枝を増やせるんですか?」


「可能性はあるわ」


 リディアは枝に触れた。


「種を植えても、同じ甘さになるとは限らないの」


「え?」


「この枝そのものの性質を残したいのなら、枝から増やす方法を考えた方がいいわ」


「どうやって?」


 リディアは少し考えた。


「一つだけに賭けるのは、やめておきましょう」


「一つだけ?」


「ええ。この枝は、とても貴重だもの」


 リディアは甘い実のついた枝を見つめた。


「もし、この枝が枯れてしまったら、それで終わりでしょう?」


 女性たちは黙って頷いた。


「だから、いくつかの方法を試しておきたいの」


「いくつも?」


「ええ」


 リディアは、持ってきた枝を見る。


「この枝は、もう木から切り離されているでしょう?」


「はい」


「なら、この枝では挿木と接木を試しましょう」


「挿木?」


「ええ。枝を土に挿してみるの」


 リディアは籠の中の枝を見た。


「うまく根が出れば、別の木として残せるわ」


「接木は?」


「丈夫な木を一本選んで、そこにこの枝をつなぐの」


「この枝を、別の木に?」


「ええ」


 リディアは頷いた。


「うまくつながれば、根はその木のものを使って、この枝を育てられるわ」


「へえ……」


「でも、取木はできないわね」


「取木?」


「これは、まだ木についている枝じゃないとできないの」


 リディアは森の方を見る。


「枝を切らずに、元の木につけたままにして、枝の途中から根を出させるの」


「切らないんですか?」


「ええ」


 リディアは頷いた。


「だから、まだ甘い実をつける枝がほかにもないか、探してほしいの」


「ほかにも?」


「ええ。もし見つけたら、切らないで」


 リディアは少し考えてから続けた。


「その木のそばに旗を立てておいて。甘い枝にも目印をつけて」


「分かりました」


「取木は、そこで試しましょう」


 女性たちは顔を見合わせた。


「じゃあ、接木に使う木は?」


「森で丈夫そうな木を探しましょう」


 リディアは畑の方を指差した。


「見つけたら、畑に植えて」


「畑に?」


「ええ。そこで接木を試すの」


「分かりました」


 ハンナが頷いた。


「挿木は、今ある枝で」


「ええ」


「取木は、森に残っている枝で」


「そう」


「接木は、畑で」


「そうよ」


 リディアは三つを指折って確認した。


「一つだけに賭けるより、いいでしょう?」


 女性たちは顔を見合わせた。


「……確かに」


「では、やってみましょう」


 ハンナが言った。


 その声に、ほかの女性たちも頷いた。


「失敗しても、何が駄目だったか分かりますものね」


「ええ」


 リディアは嬉しそうに頷いた。


「それが一番大事よ」


     *


 それから数日。


 女性たちは森へ通った。


 木苺を探すだけではない。


 森には、木苺のほかにもいろいろなものがあった。


 柑橘のような実。


 どんぐり。


 見たことのない実や、香りの強い葉。


 けれど、食べてみようと思えるものは、ほとんどなかった。


 食べられなくはないものでも、量が取れなかったり、味が悪かったりする。


 村の食料として使うには、どれも難しかった。


「やっぱり、木苺くらいですね」


 ハンナが言った。


「ええ」


 リディアは頷いた。


「でも、その木苺の中に……」


 森の木々を見る。


 甘い実をつける枝が、いくつも見つかった。


「こんなに?」


 女性の一人が驚いた。


「同じ木の中でも、違う枝があるんですね」


「ええ」


 見つけた木には旗を立てる。


 甘い実のついた枝には、布を結ぶ。


 どこで見つけたのかも書き留める。


 森の中に、小さな旗が少しずつ増えていった。


 領主邸の近くでは、別の作業が始まっていた。


「この木でいいですか?」


 ガレスが何本かの木を並べて見せる。


 リディアは枝を確かめた。


「丈夫そうね」


「根も、しっかりしてます」


「じゃあ、これにしましょう」


 畑の隅に植える。


 そこへ、森から持ち帰った甘い枝を使う。


 うまくつながるかは分からない。


 挿木にした枝も、まだ変化はない。


 森の木には、取木を試すための印がついている。


 リディアは一つずつノートに書き込んだ。


 どの枝か。


 どこにあるか。


 いつ始めたか。


 どうなったか。


 知らないものを見つけても、すぐ口には入れない。


 その約束だけは、皆が守った。


 いくつか枝変わりらしいものは見つかった。


 けれど、食べるものとして使えそうなのは、やはり木苺だけだった。


 それでも。


 甘い木苺をつける枝が、いくつも見つかった。


 何もないと思っていた森に、ほんの少しだけ。


 希望があった。


     *


 ある日の夕方。


 リディアが領主邸の机で記録をまとめていると、ガレスがやってきた。


「お嬢様」


「どうしたの?」


「木苺のほうは、どうです?」


「まだ分からないわ」


「そうですか」


 ガレスは少し考えるように腕を組んだ。


「しかし、ずいぶん大事にしてますな」


「ええ」


 リディアはノートを開いた。


「せっかく見つけたものだもの」


「一つしかねえから?」


「それもあるわ」


 リディアは、木苺の枝を描いたページを見る。


「一つしかないなら、失わないようにしなくちゃ」


「なるほど」


「それに、どの方法が一番うまくいくのかも分からないでしょう?」


「だから三つ試す、と」


「ええ」


 リディアは頷いた。


「一つ失敗しても、ほかが残るかもしれないもの」


 ガレスは笑った。


「お嬢様は何でも『かもしれない』ですな」


「だって、本当にそうなんですもの」


「なるほど」


 ガレスは笑った。


「でも、前よりは『かもしれない』が増えてきましたな」


 リディアは少し考えた。


「……そうね」


 ジャガイモ。


 水。


 畑。


 そして、森。


 まだ何も、確実にはなっていない。


 それでも。


 少しずつ、この土地で使えるものが見えてきていた。

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リヴェルの物語を漫画でも描いています。


「でも……私たちの……希望です」

第6話「隣国の王子」より


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