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『追放令嬢、嵐と戦い都市を作ります』 〜知識チートで廃村を国一番の領地にしたら、捨てた王太子が今さら焦りだしました〜ツイトシ(追都市)  作者: カナデ・オン
第二章 都市開発編 〜砂糖の香る街〜

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第40話 砂糖



「何だと? ヴァルデン伯爵が、領地を手放した?」


 エルディア王宮の執務室で、王太子ヴィクトールは思わず聞き返した。


「はい。負債の返済が立ちゆかなくなり、領地ごと手放したとのことです」


「あの男は、決して無能ではなかったはずだ。夜会の費用も、聖女の慈善への寄付も、惜しまず出していた。何があった」


「砂糖でございます」


「……砂糖?」


「リヴェルという辺境の領で、南方のものとは異なる製法の砂糖が作られているそうです。伯爵はそれを求めて断られ、さらにアルヴェニアの商人たちからも取引を切られました。それが致命傷になったと」


 ヴィクトールは、身を乗り出した。


「砂糖を、国内で作っているというのか!」


 砂糖は高価な輸入品だ。南方への支払いで、毎年少なくない金が国外へ流れている。それを自国で賄えるなら、貴族たちは我先に出資するだろう。加工品、流通、新たな税収。一大事業になる。


 聖女の慈善に回すこともできる。民への施しに、甘いものほど喜ばれるものはない。


「そんな話は、私の耳には入っていないぞ」


「はい。リヴェルの売り先は、主にアルヴェニアです。エルディア国内には、ほとんど出回っておりません」


「なぜ、我が国で作ったものが隣国に流れる!」


「リヴェルから見れば、王都よりアルヴェニアの市の方が近いのでしょう」


 報告者は、持参した小さな木箱を机の上に置いた。


「国境の街で手に入れた品です。向こうでは、貴族の間で奪い合いになっているとか」


 蓋を開ける。


 焼き菓子だった。表面に砂糖がまぶされ、木苺の赤が覗いている。


 箱の側面には、簡素な焼き印が押されていた。


 ――リヴェル産。


 ヴィクトールは、一つつまんで口に入れた。


 ほろりと崩れる。バターの香りの後ろから、はっきりとした甘さが追いかけてきた。


「……」


 王宮の菓子と比べても、見劣りしない。いや、素朴なぶん、後を引く。


「これを、あの領で作っているのか」


「はい。工場まであるそうです」


「工場……?」


 ヴィクトールは、眉をひそめた。


「リヴェル……」


 記憶を探る。


「王室への報告にも、ろくに上がらぬ小領地だったな」


「左様でございます」


 廃村同然で、税収もわずか。誰が領主になろうと、王室が気にかけることなどなかった土地だ。


 その土地で、知らぬ間に国益に関わる事業が動いていた。しかも、隣国に先に押さえられている。


「……領主は誰だ」


 報告者は、一拍おいてから答えた。


「……リディア様にございます」


 執務室から、音が消えた。


 ヴィクトールの手から、食べかけの菓子が転がり落ちる。


「……リディア?」


 国境の物資だの、隣国との小麦の交渉だのを並べ立てていた女。


 国益にならぬと、切り捨てた女。


 あの日、大広間で、あの女は何も言い返さなかった。


 ただ静かに指輪を外し、一礼して去っていった。


 それきり、思い出すこともなかったというのに。


 その女が、砂糖を。


 口の中に、まだ甘さが残っている。


 それが、ひどく苦く感じられた。


 何もないはずの辺境で。


 自分が、見捨てた土地で。


「……詳しく調べろ」


 声が、わずかに掠れていた。


「製法も、流通も、アルヴェニアとの取引も、すべてだ」






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