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『追放令嬢、嵐と戦い都市を作ります』 〜知識チートで廃村を国一番の領地にしたら、捨てた王太子が今さら焦りだしました〜ツイトシ(追都市)  作者: カナデ・オン
第二章 都市開発編 〜砂糖の香る街〜

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第26話 完売



 カイルが戻ってから、リヴェルの動きはさらに早くなった。


 工事の指揮を取りながら、カイルは人員を整理し、菓子の商品化に必要な作業も一気に進めていった。


 昨日、その第一弾がアルヴェニアの商人たちへ納入されたばかりだ。


 まずは、売れるかどうかを見るための少量。


 どれくらい売れるのだろう。


 結果が分かるのは、一週間くらい先だろうか。


 そんなことを考えていたときだった。


「リディア様!」


 エレナが、慌てた様子で駆け込んできた。


「アレク様から、知らせが届いています」


「アレク様から?」


 リディアは届いた手紙を受け取った。


 封を開け、目を通す。


 そして――。


「……え?」


 思わず声が漏れた。


 そこには、短くこう書かれていた。


『完売だ。量を増やして、追加納入できるか?』


「……」


 リディアは、しばらく手紙を見つめた。


「完売……?」


「はい」


 エレナも、横から手紙を覗き込む。


「……売れたんですね」


「ええ……」


 リディアは、ゆっくりと顔を上げた。


 売れた。


 本当に。


 リヴェルで作った菓子が、アルヴェニアで。


「……量を増やしましょう」


 リディアの声に、迷いはなかった。


「ですが……」


 エレナが、少し考えるように眉を寄せた。


「今の厨房では、この量は作れません」


「そうね」


 少量だからこそ、今までは何とかなっていた。


 けれど、追加納入となれば話は違う。


「だったら、菓子を作る場所を別にしたほうがいい」


 バルトが言った。


「厨房とは分けて?」


「そのほうがいい。設備もまとめられる」


 エドも頷く。


「水と熱源も、最初から作業に合わせて配置したほうが効率がいいでしょう」


 エレナは二人の話を聞きながら、少し考えた。


「……じゃあ」


 顔を上げる。


「菓子を作るための工場にしましょうか」


「工場……」


 リディアが、その言葉を繰り返した。


 これまで、菓子は厨房で作るものだった。


 けれど、売れるのなら、必要な量を安定して作らなければならない。


「ええ。お願いします」


 リディアが頷くと、三人はすぐに話し始めた。


 どこに作るか、何を必要とするか、どうすれば今より多く作れるか。


 リヴェルで作られた菓子は、もう村の中だけのものではなくなっていた。


 その一方で。


 アレクからの知らせと前後するように、アルヴェニアからは別のものも届いていた。


 植物だった。


 甜菜を探してほしいと頼んでから、アレクは何度も植物を集めて送ってくれている。


 似たような根を持つもの。


 見たことのないもの。


 けれど、これまでの中に、リディアが探しているものはなかった。


 今回届いた植物も、ぱっと見ただけでは分からない。


 季節が進み、茎が伸びていた。


 花を咲かせるために、植物が上へ伸び始めている。


「……これでは、分かりにくいわね」


 リディアは、届いた根を手に取った。


 以前、絵で見たものとは形が違う。


 春になれば、根菜の姿も変わる。


 しかも、これはもう抽台している。


 根を少し切ってみる。


 中は硬く、繊維が多い。


 少量を口に含む前に、まず家畜にも少し与えてみた。


 しばらく様子を見る。


 問題はなさそうだった。


「……大丈夫そうね」


 リディアは、ほんの少しだけ口に含んだ。


「……っ」


 硬い。


 繊維が多く、とても噛み切れない。土のような匂いがあり、苦みもえぐみも強い。とても食べられるものではない。


 けれど。


「……甘い」


 ほんのわずかだった。


 期待していたほどの甘さではない。


 けれど、確かに甘い。


 普通の根菜とは違う。


 リディアは、もう一度その根を見つめた。


「……きっと、これだわ」


 確信はない。


 けれど、これまで探してきた植物の中で、これほどはっきりとした甘さを持つものはなかった。


「エド。バルト」


 二人が顔を上げる。


「これから、砂糖を取り出せるか試してみて」


「砂糖を?」


「ええ」


 リディアは根を二人に渡した。


「細かく刻んで、水に入れて煮てみましょう」


「煮出すんですね」


「ええ。甘みが水に移るか確認したいの」


「分かりました」


 二人はすぐに作業へ取りかかった。


 根を細かく刻み、水に入れて火にかける。しばらく煮て根を取り出し、残った液体をさらに煮詰めていく。


 リディアは、その様子をじっと見ていた。


 もし、これから砂糖が取れるのなら、菓子を作るための砂糖を自分たちで作れる。


 そうなれば――。


「ガレス!」


「はい!」


 呼ばれて、ガレスが駆けてくる。


「この植物が生えている場所へ行ってほしいの」


「この植物ですか?」


「ええ」


 リディアは、根を見せた。


「これを口に含んで、一番甘いものを選んでください」


「一番甘いものを?」


「できるだけ大きくて、そして一番甘いものを」


 ガレスは頷いた。


「分かりました」


「そして、その種を取ってきてください」


「種を?」


「ええ。できるだけたくさん」


 今は春。


 この植物は、もう種を取れる時期に入っている。


 けれど、今から植えるには、もう少し遅いくらいだ。


 秋に収穫することを考えれば、時間はあまりない。


「急いでください」


「はい!」


 ガレスが走り出す。


「カイル!」


 リディアが呼ぶ。


「人を集めて、工事を一旦止めます」


 返事より先に、カイルが言った。


「畑の準備に、早急に人を回します」


「……!」


 リディアは一瞬、目を見開いた。


 言おうとしていたことを、先に言われた。


「……ええ。急いで!」


 それだけで、話は通じた。


 これが本当に甜菜なのか、まだ確定したわけではない。


 それでも、今は種を取れる。


 ならば、畑を用意しておく。


 もし違っていたとしても、失うのは一時的に止めた工事と、少しの手間だけだ。


 だが、もし本物なら――。


 ここで植える時期を逃せば、秋の収穫には間に合わない。


 エドとバルトは、根を細かく刻み始めていた。


 ガレスは種を探すために出発する。


 カイルは人を集め、畑の準備へ向かう。


 リディアは、そのすべてを見つめた。


 砂糖になるのか。


 本当に、この植物を育てられるのか。


 まだ分からない。


 けれど、もう動き始めている。


 確かめるのは、そのあとでいい。

お読みいただきありがとうございます。

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