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『追放令嬢、嵐と戦い都市を作ります』 〜知識チートで廃村を国一番の領地にしたら、捨てた王太子が今さら焦りだしました〜ツイトシ(追都市)  作者: カナデ・オン
第一章 生き残り編 〜泥だらけの令嬢〜

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第22話 越える



 夜明け前になっても、雨は止まなかった。


 リディアは屋敷へと繋がる小道で、雨に打たれながら立ち尽くしていた。


 心配そうにエレナとガレスが付き従っている。


 けれどリディアは、小道の続く先から目が離せなかった。


 眠ることなどできるわけがない。


 皆が、カイルが命がけで戦っているのだ。


 暗闇の向こうから、川の音が聞こえてくる。


 ゴウゴウと。


 低く。


 途切れることなく。


 時折。


 ドンッ。


 何かが堤にぶつかる音がする。


 そのたびに、リディアの肩が震えた。


 カイルは、まだあそこにいる。


 怪我をしている。


 それでも戻っていった。


「……」


 リディアは自分の手を見る。


 まだ、震えていた。


 あのとき。


 カイルがいなければ。


 自分は、あの木材の下敷きになっていた。


 けれど。


 今度はカイルが危険な場所にいる。


 それを、自分は止められない。


 とても長い長い時間だった。


 雨はまだ降っている。


 けれど、先ほどまでとは違った。


 川の音が、ほんの少しだけ小さい。


 そこへ村の男が駆けてくる。


「お嬢様! 水位が少しずつ下がってきました!」


「!!」


「カイルは?」


「まだ現場です」


 リディアは川のほうを見る。


「……無事なの?」


「分かりません」


 その言葉に、胸が締めつけられた。


「行きましょう」


 ガレスが止めに入る。


「危険です!」


「でも――」


「カイル様から、リディア様を近づけないように言われています」


「……」


 リディアは唇を噛んだ。


 まただ。


 また、自分には何もできない。


 ただ。


 待つしかない。


 雨の向こうを見る。


 そして。


 遠くから、いくつもの人影が見えた。


「……!」


 ガレスが目を凝らす。


「戻ってきます!」


 人影が、少しずつ近づいてくる。


 先頭にいるのは――。


「カイル……!」


 リディアが駆け出した。


 泥だらけだった。


 髪も服も、雨と泥で濡れきっている。


 左腕には簡単な布が巻かれていた。


 それでも。


 自分の足で歩いている。


「カイル!」


 リディアが駆け寄る。


「お嬢様」


「良かった……」


 声が震えた。


「無事で良かった……!」


 カイルが、少しだけ目を見開く。


 そして。


「……お嬢様も」


 その声は、いつもの落ち着いたものだった。


「ご無事で何よりです」


 リディアは何も言えなかった。


 ただ、カイルの姿を見ていた。


 周囲では、作業員たちも次々に座り込んでいる。


 誰もが泥だらけだった。


 リディアも、いつの間にか泥だらけになっていた。


 カイルも同じだった。


 二人はその場に座り込んだ。


 しばらく、誰も話さなかった。


 川の音だけが、遠くで聞こえている。


 けれど。


 もう、さっきまでの恐ろしさはなかった。


 リディアは川を見た。


 堤は残っている。


 麦畑も。


 村も。


 全部、そこにある。


「……越えましたね」


 リディアが呟いた。


 カイルが頷く。


「ええ」


 二人は、しばらくその川を見つめていた。


 朝の光が、黒い雲の隙間から差し込んでいた。

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