2射目
ノイシュ王国の都ビッゲムにて、勇者ルカインを筆頭に、”あらためて”凱旋が行われた。
パレードを迎える街からは鼓笛隊の音楽、そして人々の喝采が聞こえる。
ルカインの後ろに僧侶ベレル、魔術師ウード、戦士グレイス、そして武道家ビュウという順番で並んで歩く。
ビュウはグレイスの後ろ姿を、鎧の継目から覗く肉感的な身体を舐めまわすように見て、そしてふと我に返った。
(まずい……このままでは俺、グレイスを襲っちまう。それにしても何だこのキンタマの大きさは……普段の服じゃ収まりきれねえから、夕方のうちにこっそり町で戦士用スカートを買ったが……スリットを入れても歩き方が普段と違うからバレるぞ……)
そしてグレイスが何気なく振り返る。
これまでウードやギャレットの二人と夜の付き合いがあったという噂があり、さらには冒険の最中に多くの男たちとも脈ありげな態度を使う女である。
ちなみにビュウには彼女持ちのルカインに対してよりも冷たい。
「なあ、ビュウ。ギャレットはどうしたんだい? どうやら謁見式に出席ができないって聞いてるんだが、あたしもギャレットと顔を合わさないってことは今まで無かった。何かあったか知らない? ん、なんか香水でもつけた?」
ビュウは赤いポニーテールの魅力的なうなじを撫でてしまいたい衝動に駆られたが、寸でのところで我慢する。
ちなみに香水というのは女性にしか分からないフェロモンだ。
「ギャレットはしばらく旅に出るってぇ話だ。どうせアイツのことだからすぐ戻ってくんだろ……行方不明になってなきゃ良いけどな」
フワッ……
最後に少しばかりわざと息をグレイスの耳のあたりへと吹きかけておいた。
「あ……? えっ……?」
グレイスは一瞬だけビュウの方を振り向こうとしたが、すぐに前の位置にいるウードの方向へと足を進めた。
一瞬だけ、足元がフラリ、とおぼつかなくなるが、そこはさすがはグレイス、動揺は見せない。
「今日からオレたちも堂々とこの宮殿で過ごせるぜ! 楽しみだな、ベレル」
(どういうことだ……? つまりギャレットが死んで、ビュウの奴が生きているってことは、いつかビュウをギャレット殺しで追い落とす必要があるな……!)
「……そうね。もうわたしたち、血なまぐさい戦いをせずに済むのね」
ルカインは真っ黒な野心を燃え上がらせながら、自然体でベレルと一緒にさすがは恋人同士といった感じで自然な歩幅を維持している。
――
「汝たち五英雄をこのコーホートの名に於いて、ノイシュの正式な貴族として認め、それぞれが望んだ褒美を取らせるとする。魔王の復活の日は近いと言われている……汝らにはこのワシも期待しているぞ!」
国王コーホート2世は、代表としてルカインの肩に剣を置き、正式に叙勲が成されたという報せを伝える。
これにより、ルカインとベレルは教会の聖人に叙せられ、布教活動が認められ、ウードはこれまでに何度も誼を通じてきた国王の第二王女アイゼルとの婚約が認められ、全員に屋敷が与えられ、グレイスとビュウには兵も与えられた。
「……だけどさぁ、ウードにはガッカリだね。オレはてっきり、グレイスとくっつくと思ってて、こっそり応援してたんだけどさぁ……まぁ、ギャレットみたいな体臭の酷いオッサンよりは良いと思うけど、あいつ花ないじゃん」
「そうそう、わたしには当然強いルカイン、それでグレイスにはウードみたいなクールな男が似合うと思わない? それで最高の伴侶で最良の子供を産むの。それって神が示した運命なのよ」
ルカインのクズい台詞に続き、17歳で最年少のべールを脱ぎ金髪を乱したベレルは、とても純真無垢な乙女とは思えない下品な台詞を吐きながら周囲を見回した。
これが聖女として明日から職務をするのだからたまったもんじゃない。
「僕は僕で執政官としての役目があるんだよ。アタマ使う仕事って訳。だから王女サマに普段から媚びを売っていて、もし勘違いさせてたらすまなかったね、グレイス。でも僕はグレイスには女性としてだけじゃなく、人間として今でも尊敬しているよ」
(もっとも、僕が王女と結ばれて王になれば、お前ら如きどうにでもなるが……な。慈善事業や強兵論なんて語ってんなよ、甘ちゃんどもめが……)
「あぁ、ギャレットもここに居れば面白かっただろうに……ビュウ、あんたはこれからについてはどうなの? 相変わらず馬鹿真面目に修行でも続ける気かい?」
ドン、と二の腕のあたりをグレイスにどつかれ、ビュウは思わずグレイスの瞳を見た。
グレイスの座っている位置が近い。
目が合った瞬間、グレイスの目が泳ぎ、一瞬動揺する。
「……あぁ、やることが沢山あるな。まあ、今日のうちに俺たちも飲んどこうぜ」
ビュウはボトルを掴むと、グレイスのコップに酒を注いだ。
ボトルを掴む腕が光る。
「あぁ、飲んでおこう。明日のことは、明日考えようよ……っ? ……?」
「おぉっ……?!」
グレイスがいつもの調子でビュウの腿のあたりをドン、と叩こうとしたとき、ビュウの腿の位置には、モノの一部が乗っていた。
いわば猛烈に肥大化した「タマの右側」が叩かれる格好になったのだ。
(えぇっ……これ、もしかして、アレ、なの?)
グレイスが一瞬ビュウの目を見るも、ビュウは説明のしようがなく、目を逸らす。
「じゃあ、解散といくから、お互いの屋敷に戻ってさ、明日は俺は教会にいるから、遊びに来てくれよ」
ルカインの合図で、その場の晩餐は解散となった。
立ち去ろうとするビュウの袖を、グレイスが掴む。
恐らく飲み物にも大量にフェロモンが含まれていただろうから、もはやグレイスはこれから起こる「運命」からは逃げられないだろう。




