1射目 種馬王の誕生
種馬王について、町娘マリス(17歳)
えぇ、飢えた獣のような人でした。
いえ……獣などというレベルではないわ。あれは……バケモノよ。
だけど、その、それは触られてからの話で、すれ違ったときは、南国の花のような良い匂いがしたのです。路地裏に連れ込まれてからは一瞬でした。
ですけど、不思議と恨む気持ちはなく……この子を、息子のカールを抱いている瞬間は何者にも代えがたく幸せなのです。父親はって? 勿論、アレですよ。
また会ってみたいか、ですか……それは……ここでは言えませんね。
でも、きっとこの子はいずれ何らかの運命に巻き込まれるような気がします。
時折、お腹の下の方が熱くなったり、疼いたりするのがここのところ毎日の苦しみですが、それに耐え続けるのも慣れました。
それだけのことがあっても、毎日が満たされなくても私は、「ここは王都ビッゲムです」と言い続けるしかないのです。それが町娘なのですから……
――
「“六戦士”という言葉がいつの間にか“五英雄”という言葉になっていた、そんな理屈で俺が納得するとでも思っているのか? ギャレット」
筋肉の塊のような鋼の肉体を持った大男は、頭一つ小さいシーフの男の喉元に極太の毒針を突きつけ、睨みつけながら、洞窟の中をゆっくりと歩いていく。
これは、もしギャレットが裏切ったら、ということで勇者ルカインから持たされていたシロモノだ。
ギャレットは洞窟を進む途中で、六戦士の話をいつの間にか五英雄の話にすり替えていたからである。
「ビュウ、良いから落ち着いてくれ。五英雄というのはおれ(ギャレット21歳・男)とビュウ(23歳・男)、ベレル(17歳・女)、ウード(20歳・男)、そしてグレイス(21歳・女)の五人だ。決して勇者ルカイン(19歳・男)の名は入っていない! だってアイツは勇者だからな!」
「俺は城中の人間に聞いた。王道の勇者ルカイン、そして可憐な僧侶ベレル、聡明な魔術師ウード、美しい戦士グレイス、そして“冷静”な盗賊ギャレットだ俺の名前なんてどこにも出てこない」
(一人だけ年上な俺は……始めから”友達ごっこ”の蚊帳の外だったんだよ!)
ギャレットの喉に毒針を突きつけ、先を歩きながら淡々と大男は言葉を切らずに続けた。
「そして勇者サマとやらのルカインは俺らをパシリの泉へと行かせた。俺を除く“五英雄”に永遠の力を与えるように、とな」
「だから、お前のそれは誤解だって……だがよ、おれだって」
王都の裏山の洞窟深くにある「願いの泉」に達したとき、ギャレットは脅されながらも何とか事を済ませようと、淡々と国王コーホート2世が差し出した「五人の強力な兵を得て、国家をより強固なものにするための“女神の願い石”を床の所定の場所へと安置した。
――パァァァ……
かくして、女神らしき足の無いローブを着た輝ける女性が姿を現し、
――願い事はなんでしょうか?
と二人に囁きかけてきた――
はずだった。
ギャレットは予定通りに、
「俺とベレル、ウード……ぐっ! 汚……」
――願い事は……
ビュウの凶刃、鋭い毒針がギャレットの首を貫く。
「俺を……魔王にしてくれ!」
「汚たね……うっ……!!」
――俺を、たね……うっまおうにしてくれ!――
――確かに願い、聞き届けました。
そちらのビュウ、という男性を「たねうまおう」にする、ということを、確かに……
「えぇ……?!」
息絶えたギャレットの横で、天から降り注ぐ光に、ビュウは呆然としていた。
――ここに種馬王ビュウが誕生したのだった。
「……な、なんとうことを……アァァ……」
願いの女神トレヴィシアは、一糸まとわぬ姿になって、洞窟へ倒れ伏した。
ドプッ……と股間からどろどろした液体が溢れ出す。
ビュウの下半身は肥大化し、彼は仕方なくどこか安らかな死に顔をしたギャレットの死体から衣服を剝ぎ取って自分の股間を覆い、凶器を遠くへと隠し、倒れたままの女神を置き去りにした。
(何だか良くわからんが、身体もスッキリしたし、ゴミも始末して、これで俺も今日から晴れて五英雄の一員だよな!)
翌日――




