第8話 母の残した切り札
「私の母が……生きている?」
アリアは思わず息を呑んだ。
目の前の白銀の騎士は静かに頷く。
「今は詳しく話す時間がありません。」
その直後、仮面の男が再び黒い刃を生み出した。
「余計なことを話すな。」
一瞬で距離を詰める男。しかし白銀の騎士は迷いなく剣を振るい、その一撃を受け流した。
甲高い金属音が響く。
「アリア様、お下がりください。」
「いいえ。」
アリアは一歩前へ出る。
「今逃げれば、また同じことが繰り返される。」
彼女は黒い契約書を開いた。
『運命取引を開始しますか?』
「開始。」
契約書が淡く輝き、仮面の男の運命が再び映し出される。
だが、その文字は途中で黒く塗りつぶされた。
『閲覧を拒否されました。』
「……やっぱり。」
男は薄く笑う。
「管理局の人間に能力は通用しない。」
「なら、別の方法を使うだけよ。」
アリアは男ではなく、その足元へ視線を向けた。
そこには黒い魔法陣。
「転移術式……!」
気づいた瞬間、彼女は机の上のインク瓶を魔法陣へ投げつけた。
バシャッ!
術式が乱れ、黒い光が弾ける。
「何っ!?」
男の表情が初めて崩れた。
「転移を封じられた?」
「あなたは最初から逃げる準備をしていた。」
アリアは静かに笑う。
「つまり、私を倒す自信はなかったのね。」
その一言に、男の殺気が一気に膨れ上がる。
しかしその時だった。
屋敷全体を揺らすほどの鐘の音が鳴り響く。
ゴォォォン――。
白銀の騎士の顔色が変わる。
「まずい……封印が解かれました。」
「封印?」
「王城の地下に眠る”災厄”です。」
仮面の男も鐘の音を聞いた瞬間、舌打ちした。
「こんな時に……。」
敵も味方も同じ反応。
アリアはその違和感を見逃さなかった。
「まさか……管理局でも制御できない存在?」
男は何も答えない。
だが、その沈黙こそが答えだった。
次の瞬間、王城の方角から漆黒の柱が天へ突き刺さる。
それを見たアリアは、小さく呟いた。
「……ゲームには、こんなイベントなかったわ。」




