第7話 運命管理局・第一執行官
「あなたを処分しに来ました。」
仮面の男は静かにそう告げると、手にした黒い契約書を広げた。
その瞬間、執務室の空気が一変した。
「……っ!」
クロードが反射的にアリアの前へ出る。しかし男は指を軽く鳴らしただけで、クロードの身体は見えない力に弾き飛ばされ、壁へ叩きつけられた。
「クロード!」
「ご心配なく。殺してはいません。」
男の声には感情がなかった。
「私は運命管理局・第一執行官。世界の均衡を保つ者です。」
アリアは冷静に男を見据える。
「均衡ですって?」
「ええ。ですが、あなたはその均衡を壊した。」
男は契約書を開き、淡々と読み上げた。
「本来、王太子レオンは三年後に死亡する運命でした。しかしあなたが運命を買い取ったことで、その未来は消滅。結果、世界の流れは大きく歪みました。」
「だから排除する、と?」
「それが私の使命です。」
男が一歩踏み出した瞬間、アリアの契約書が眩く輝く。
『対象を確認。運命取引を開始しますか?』
アリアは口元を緩めた。
「面白いじゃない。」
彼女は契約書へ静かに触れる。
「あなたの運命、見せてもらうわ。」
次の瞬間、男の頭上に文字が浮かび上がる。
⸻
運命管理局・第一執行官
生存率 100%
忠誠対象 ???
契約者 閲覧不可
⸻
「閲覧不可……?」
アリアは初めて眉をひそめた。
これまで見えなかった情報など一度もない。
だが男は笑った。
「驚きましたか。」
「あなた程度では、管理局の契約者を見ることはできません。」
「……なるほど。」
アリアは逆に納得したように頷く。
「つまり、その上がいるのね。」
その一言で男の動きが止まる。
ほんの一瞬。
それだけで十分だった。
「図星ね。」
「……余計な詮索は命取りになります。」
男の殺気が一気に膨れ上がる。
床が軋み、窓ガラスに無数のひびが走る。
普通の人間なら、その場に立っていることすらできない威圧。
だがアリアは一歩も引かなかった。
「ねえ。」
「何ですか。」
「あなた、自分の意思で動いているつもり?」
その問いに、男は初めて沈黙した。
アリアの能力は運命だけではない。
相手の表情、呼吸、視線。
そのすべてから嘘を見抜く。
「あなたも誰かに使われている。」
「……黙れ!」
男が黒い刃を生み出し、一瞬で距離を詰める。
その切っ先がアリアの首へ届く寸前――。
カァンッ!!
甲高い音が響き渡った。
いつの間にか、一本の白銀の剣が男の刃を受け止めていた。
「間に合ったようですね。」
凛とした女性の声。
純白の騎士服をまとった一人の女性が、アリアの前へ立つ。
男はその姿を見た瞬間、小さく舌打ちした。
「白の執行者……。」
女性は剣を構えたまま微笑む。
「アリア様を殺させるわけにはいきません。」
「なぜあなたがここにいる!」
「命令です。」
「誰の?」
その女性はアリアを一瞥すると、静かに答えた。
「──あなたのお母様の、です。」
その言葉に、アリアの思考は止まった。
母は十年前に病で亡くなったはず。
では、今の言葉は一体――。
「私の母が……生きている?」
その瞬間、仮面の男の表情が初めて大きく歪んだ




