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『悪役令嬢は破滅の運命を買い取り、世界を支配する  作者: 谷本遥叶


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第4話 『黒薔薇の契約』

第4話 『黒薔薇の契約』


王城から戻ったアリアは、自室の窓辺に立っていた。


夜風がカーテンを揺らし、月明かりが銀色の光を部屋へ落とす。


机の上には、一枚の書類。


そこには、今日一日で手に入れた情報が細かくまとめられていた。


王太子派。


宰相派。


財務卿派。


そして、王家ですら把握していない裏市場の流れ。


「……予想以上ね。」


婚約破棄されたことで社交界から追放された。


誰もがそう思っている。


だが実際には違う。


“王都で最も自由に動ける人間”になったのは、むしろアリアの方だった。


「お嬢様。」


ノックとともにエマが入室する。


「例の商人が参りました。」


「通して。」


数秒後、一人の壮年の男が部屋へ入る。


上質だが目立たない服。


商人らしい笑顔。


しかし、その瞳だけは鋭かった。


「初めまして……ではありませんね。」


男は微笑む。


「私は黒市ギルドの支配人、ロイドと申します。」


アリアは小さく笑う。


「ええ。十年後には王国一の商会になる人物。」


ロイドの笑みが止まった。


「……どうして、それを?」


もちろん答える気はない。


前世の知識だからだ。


「あなたは三年後、戦争特需で莫大な富を築く。」


「五年後には王家すら借金をする相手になる。」


「でも。」


アリアは紅茶を一口飲む。


「その前に、一度すべてを失う。」


ロイドの顔色が変わる。


「港湾都市アルトでの大火災。」


「倉庫を失い、破産寸前まで追い込まれる。」


「……。」


沈黙。


その表情が答えだった。


「その話を誰から?」


「誰でもいいでしょう。」


アリアは机の引き出しから一枚の契約書を取り出す。


「私はあなたに資金を出す。」


「代わりに。」


「あなたの商会が十年後に持つ利益の二割を、今ここで私へ約束しなさい。」


ロイドは苦笑した。


「ずいぶん大胆ですね。」


「未来が見えるとでも?」


アリアは迷わず答える。


「ええ。」


「見えているわ。」


その一言に、ロイドはしばらく黙り込む。


やがて静かに笑った。


「面白い。」


「人生で初めて、私より危険な商人に会いました。」


彼は契約書へサインを書き込む。


「契約成立です。」


ペン先が紙を離れた瞬間だった。


アリアの胸が一瞬だけ熱くなる。


(……今のは?)


頭の中で、小さな鐘の音が鳴った。


『運命ポイントを獲得しました。』


(また、この声……。)


前世では聞いたことがない。


それでも不思議と理解できた。


未来を変えるほど、大きな運命を買い取るたびに力が蓄積される。


つまり――。


(私は運命そのものを資産にできる。)


口元が自然と緩んだ。


この力がある限り、誰よりも早く世界を支配できる。


しかし、その夜。


王城の地下。


誰も立ち入ることを許されない最深部で、一人の老人が巨大な水晶を見つめていた。


「反応したか……。」


水晶の中心には、黒い薔薇が浮かんでいる。


「まさか、本当に現れるとは。」


老人の後ろから、重い扉が開く。


現れたのは、仮面をつけた男。


「確認できましたか?」


老人はゆっくりとうなずく。


「運命を改変する存在。」


「黒薔薇。」


仮面の男は静かに笑う。


「ならば始めましょう。」


「千年前に止まった計画を。」


その言葉と同時に、水晶の中の黒薔薇が真っ赤に染まる。


一方その頃。


屋敷へ戻ったアリアは、自室の机に一通の手紙が置かれていることに気付いた。


差出人の名前はない。


封蝋には、見覚えのない漆黒の薔薇の紋章だけが刻まれていた。


「……誰?」


慎重に封を切る。


中には、たった一枚の紙。


そこには美しい文字で、こう記されていた。


『ようこそ、運命を盗む者。』

『あなたが前世の記憶を持っていることを、私たちは知っています。』


アリアの手が止まる。


そして、紙の最後の一文を見た瞬間、彼女の表情から初めて余裕が消えた。


『明日の夜、あなたは一度だけ必ず死ぬ。』


部屋の窓が、何者かに叩かれた。


コン、コン――。


アリアはゆっくりと振り返る。


そこには、誰もいないはずの三階の窓の外に、一人の黒い仮面の人物が立っていた。


月明かりに照らされたその人物は、人差し指を唇に当て――静かに笑った。



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