↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『悪役令嬢は破滅の運命を買い取り、世界を支配する  作者: 谷本遥叶


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/29

第27話 初代管理者

第27話 初代管理者


「私を封印した、最愛の娘よ。」


レオンの口から発せられた声は、彼自身のものではなかった。


低く、重く、王都全体を震わせる声。


漆黒の瞳がアリアを見下ろす。


その背後に浮かぶ黄金の玉座から、無数の黒い糸が伸び、魂を失った民衆の身体へつながっていた。


「最愛の……娘?」


アリアがアルベルトへ視線を向ける。


だが彼は、顔を青ざめさせたまま一歩後ずさった。


「あり得ない……。」


「お前は、私が確かに消したはずだ。」


レオンの姿をした存在は、愉快そうに笑う。


『消した?』


『違うだろう、アルベルト。』


『お前は私の肉体を殺し、魂を世界そのものへ閉じ込めた。』


空に亀裂が走る。


その裂け目の奥には、無数の人間の運命が星のように浮かんでいた。


誕生。


結婚。


成功。


裏切り。


死。


すべてが黒い糸で結ばれ、黄金の玉座へ集まっている。


「まさか……。」


アリアは契約書を見つめた。


「世界意思とは、世界の意志ではない。」


「初代管理者の魂が、世界中の運命へ寄生していたのね。」


『正解だ。』


初代管理者はレオンの顔で微笑んだ。


『私の名はオルディス。』


『運命管理局を創り、この世界へ秩序を与えた者だ。』


アルベルトが震える手で黒い刃を生み出す。


「秩序だと?」


「お前は人間を駒として遊んでいただけだ!」


『だからお前は私を裏切った。』


オルディスが指を動かす。


その瞬間、アルベルトの右腕が本人の意思に反して持ち上がり、黒い刃が自らの胸へ向けられた。


「ぐっ……!」


『忘れたのか?』


『お前の運命も、私が書いた。』


刃先がゆっくりと胸へ沈んでいく。


セレスティアの記憶を持つイリスが駆け出すが、魂のない民衆たちが立ちはだかった。


アリアは契約書を開く。


【対象――オルディス】


【運命――存在しない】


「運命が存在しない……?」


『私はすでに人間ではない。』


『この世界で生まれるすべての未来こそが、私の身体だ。』


つまり、オルディスを倒すには世界中の運命を消さなければならない。


それは世界の滅亡と同じだった。


「よくできているわね。」


絶望的な状況にもかかわらず、アリアは笑った。


「自分だけは絶対に負けない仕組みを作った。」


『理解したなら跪け。』


黄金の玉座から圧倒的な力が放たれる。


アリアの膝が石畳へ沈み、全身の骨が軋んだ。


『お前には感謝している。』


『管理局の権限を壊し、私を閉じ込めていた鎖をすべて外してくれた。』


最初から仕組まれていた。


民衆の解放も。


管理者権限の譲渡も。


アリアが命令へ逆らうことさえ、オルディスの計画の一部だったのだ。


「では、私を管理者に選んだのも……。」


『お前なら必ず支配を拒むと知っていた。』


『優しさとは、実に操りやすい弱点だ。』


アリアの表情から笑みが消えた。


その言葉だけは許せなかった。


彼女は倒れたクロードを抱き起こす。


身体に魂はない。


だが手の甲には、継承者の紋章が残っていた。


「クロード。」


返事はない。


「少しだけ、力を借りるわ。」


アリアは自分の黒く染まった右手を、クロードの紋章へ重ねた。


二つの契約書が共鳴し、眩い光を放つ。


【前管理者と継承者の接続を確認】


【失われた権限を一時的に復元します】


『無駄だ。』


オルディスが冷たく告げる。


『お前には私の運命を見ることすらできない。』


「ええ。あなた自身の運命はね。」


アリアはオルディスではなく、黄金の玉座へ手を向けた。


「でも、その身体はあなたのものではない。」


レオンの頭上へ文字が浮かぶ。


【対象――レオン・アルグレイス】


【魂の占有率】


【レオン――20%】


【オルディス――80%】


「あなたを倒す必要はない。」


アリアは契約書へ指を走らせる。


「殿下の身体から追い出せばいいだけよ。」


『やめろ。』


初めて、オルディスの声に焦りが混じった。


【取引対象――レオンの肉体】


【買い取り価格――アリアの魂】


イリスが叫ぶ。


「それでは、あなたが殿下の中へ入ることになる!」


「ええ。」


「オルディスと同じ身体で戦うつもりなの!?」


「外から勝てないなら、内側から奪う。」


アリアは迷わず署名した。


黄金の光が彼女を包み、身体が光の粒へ変わっていく。


『愚かな娘だ。』


オルディスは再び笑った。


『私の中へ入れば、お前の記憶も力も、すべて私のものになる。』


「それはどうかしら。」


アリアの姿が完全に消える直前、契約書の最後のページが開いた。


【魂の移動を開始】


【侵入先を選択してください】


そこに表示された選択肢は、レオンの身体ではなかった。


【第一候補――オルディス】


【第二候補――世界そのもの】


アリアは迷わず二つ目を選ぶ。


次の瞬間、王都だけでなく、世界中の空が黄金色に染まった。


山も、海も、すべての人間の頭上に、同じ文字が浮かび上がる。


【新たな世界意思が侵入しました】


オルディスの顔から、初めて余裕が消える。


『何をした……?』


世界中へ響くアリアの声が答えた。


『あなたが世界なら――』


『世界ごと、私が奪うわ。』


しかし、その直後。


アリアの意識の前に、数十億もの人間の記憶と苦痛が一斉に流れ込んできた。


そして契約書に、残酷な警告が表示される。


【世界との同化を開始】


【完了後、個人としてのアリアは消滅します】


残された時間は、わずか六十秒だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。