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『悪役令嬢は破滅の運命を買い取り、世界を支配する  作者: 谷本遥叶


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第26話 裏切り者の選別

第26話 裏切り者の選別


王都の民衆が、一斉にアリアへ向き直った。


老人も、兵士も、幼い子供さえも、虚ろな瞳のまま武器を握っている。


そして、その最前列にはクロードが立っていた。


胸から血を流しながら、折れた剣をアリアへ向ける。


「クロード……。」


「敵性対象を確認。」


彼の声に感情はない。


「新管理者、アリア・フォン・ルミナスを排除します。」


次の瞬間、民衆が地面を蹴った。


数千人もの人間が、波のようにアリアへ押し寄せる。


「全員、止まれ!」


レオンが叫ぶが、誰一人反応しない。


騎士たちは味方を斬ることができず、次々と押し倒されていく。


アリアは契約書を開いた。


【第二命令実行中】


【敵性対象の停止には、対象者の処分が必要です】


「また言葉遊びをするつもり?」


『管理者は命令に従え。』


頭の中で“世界意思”の声が響く。


『逆らう者に、世界を所有する資格はない。』


クロードの剣が迫る。


アリアは寸前で身をかわしたが、刃が頬を浅く切り裂いた。


それでも反撃はしない。


「目を覚ましなさい、クロード!」


「敵の命令には従えません。」


「私があなたの主人でしょう!」


その言葉を聞いた瞬間、クロードの剣がわずかに止まった。


しかし、すぐに黒い紋章が首元まで広がり、再び斬りかかってくる。


「無駄だ!」


アルベルトが叫んだ。


「管理局の支配から外れた者は、世界意思によって敵として再登録された! 奴らを元に戻すには、再び管理局の所有物にするしかない!」


「支配から救った人々を、また奴隷にしろというの?」


「他に方法はない!」


アリアは歯を食いしばる。


殺すか。


支配するか。


世界意思が用意した選択肢は、どちらもアリアにとって敗北だった。


その時、クロードの剣が彼女の胸へ迫る。


アリアは避けなかった。


刃先がドレスを裂き、胸元へ触れる。


「アリア!」


レオンの叫びが響く。


しかし、剣は皮膚の手前で止まった。


クロードの腕が震えている。


「……逃げて、ください。」


虚ろだった瞳に、一瞬だけ光が戻った。


「私は……もう、抑えられません。」


「十分よ。」


アリアは剣を握るクロードの手へ、自分の手を重ねた。


「あなたがまだそこにいると分かった。」


契約書のページが激しくめくれる。


人間そのものを支配から解放しても、世界意思は肉体を操った。


ならば、肉体ではなく別のものを逃がせばいい。


アリアは血のついた指で契約内容を書き始める。


【取引対象――敵性対象者の魂】


【買い取り価格――アリア・フォン・ルミナスの管理者権限】


「何をするつもりだ!」


アルベルトが青ざめる。


「管理者権限を失えば、お前は契約書に飲み込まれるぞ!」


「支配されているのが身体なら、魂だけを私の契約下へ移す。」


アリアは民衆を見渡した。


「身体は世界意思にくれてあげる。」


「でも心までは、絶対に渡さない。」


彼女が署名した瞬間、民衆の胸から無数の光が抜け出した。


クロードの身体も力を失い、アリアの腕の中へ倒れる。


黄金の光は空へ集まり、巨大な星のように輝いた。


【魂の買い取り完了】


【管理者権限を回収します】


契約書から黒い鎖が伸び、アリアの右腕を飲み込んでいく。


皮膚が黒く染まり、指先から感覚が消えた。


それでもアリアは笑った。


「これで、誰も傷つけなくて済む。」


だが次の瞬間、魂を失った数千人の身体が同時に立ち上がった。


その瞳は赤く輝き、全員が同じ声で告げる。


『管理者権限の回収を完了。』


『新たな器を選定します。』


魂のない民衆たちが、ゆっくりと一人の男へ顔を向けた。


王太子レオン。


彼の胸元に、消えたはずの黒い紋章が再び浮かび上がる。


「まさか……。」


アルベルトが震えた声を漏らす。


「世界意思は最初から、アリアの権限を奪うために民衆を利用したのか……!」


レオンの身体が宙へ浮かび、その背後に巨大な黄金の玉座が現れる。


【新管理者の選定完了】


【名称――レオン・アルグレイス】


しかし、玉座に腰掛けたレオンが開いた瞳は、赤でも黄金でもなかった。


漆黒。


そして彼は、アリアだけを見つめて微笑んだ。


「ようやく会えたな。」


「私を封印した、最愛の娘よ。」


その声を聞いたアルベルトが、恐怖に顔を歪める。


世界意思の正体は――かつてアルベルトが殺した、運命管理局の初代管理者だった。

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