第20話 アリアの遺言
第20話 アリアの遺言
【新たな契約者――クロード】
黒く焼け焦げた契約書に浮かんだ文字を見て、クロードは動けなかった。
「……私が、契約者?」
次の瞬間、契約書から黒い鎖が伸び、彼の右腕へ絡みつく。
「ぐっ……!」
皮膚を焼くような痛み。
振りほどこうとしても、鎖はさらに深く食い込み、手の甲に黄金の紋章を刻んだ。
【継承完了】
【前契約者の権限を一部移行します】
「待て!」
アルベルトが珍しく声を荒らげた。
「その契約書を捨てろ! お前には扱えない!」
だがクロードは契約書を離さなかった。
目の前でアリアが消えた。
守ると誓った主人を、また守れなかった。
それなのに、契約書だけが自分を選んだ。
「アリア様は……死んだのですか?」
問いかけられたアルベルトは答えない。
代わりに白い髪の少女が、光の消えた場所を見つめながら呟いた。
『魂の反応がない。』
「そんな……。」
『けれど、完全に消滅したわけでもない。』
少女はクロードの持つ契約書へ視線を向けた。
『あの女は、自分の死を利用してエルシアを封じた。その瞬間、自分自身の運命まで契約の外へ逃がしたのよ。』
「では、生きている?」
『分からない。』
その一言に、クロードの表情が険しくなる。
「なら、探します。」
『どこを?』
「世界中を。」
迷いのない答えだった。
その瞬間、契約書が勝手に開く。
真っ白だったページに、少しずつ文字が浮かび上がった。
⸻
【前契約者より継承者へ】
【第一の命令】
【私を探してはならない】
⸻
クロードの指が震える。
「……アリア様。」
続けて、新たな文章が現れる。
【第二の命令】
【王太子レオンを殺せ】
「何だと!?」
レオンが剣を抜いた。
周囲の騎士たちも、一斉にクロードへ武器を向ける。
しかしクロードは動かなかった。
アリアが理由もなく、こんな命令を残すはずがない。
「殿下。」
「何だ。」
「ご自身の胸元をご覧ください。」
レオンが服を開く。
心臓の上には、見覚えのない黒い紋章が刻まれていた。
それを見たアルベルトの顔色が変わる。
「エルシアの器……。」
「どういう意味だ!」
「アリアはエルシアを完全には封じられなかった。」
アルベルトは苦々しく答える。
「奴は次の身体として、王太子を選んだのだ。」
レオンの頭上に黒い数字が現れる。
【覚醒まで――三日】
白い髪の少女が小さく息を呑む。
『三日後、レオンの身体を使ってエルシアが復活する。』
王太子を殺せば、エルシアの復活は止められる。
だがそれは、アリアが命を懸けて救った男を、自分たちの手で殺すということだった。
「クロード。」
レオンは静かに剣を捨てた。
「アリアの命令なら、俺を斬れ。」
「殿下……。」
「王都を救うためだ。」
クロードは剣の柄を握る。
だが、抜かなかった。
「命令には続きがあります。」
契約書の最後に、第三の文章が浮かんでいた。
⸻
【第三の命令】
【私が戻るまで、誰一人死なせるな】
⸻
矛盾した二つの命令。
レオンを殺せ。
だが、誰も死なせるな。
クロードがその意味を考えた瞬間、契約書の隙間から一枚の黒い地図が落ちた。
地図には、この世界には存在しないはずの場所が記されている。
【運命の墓場】
その中心に、一人の少女の姿が浮かんだ。
黒いドレス。
金色の髪。
間違えるはずがない。
アリアだった。
しかし彼女の背後には、無数の棺が並んでいる。
そのすべてに、同じ名前が刻まれていた。
――アリア・フォン・ルミナス。
そして地図の端に、赤い文字が浮かび上がる。
【本物のアリアを選べ】
【間違えれば、世界は三日後に滅びる】




