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『悪役令嬢は破滅の運命を買い取り、世界を支配する  作者: 谷本遥叶


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第19話 十秒後の死

第19話 十秒後の死


【残り十秒】


アリアの頭上に浮かぶ黒い数字が、一つ減った。


九。


「アリア!」


クロードが黄金の壁を叩く。


しかし、その声は遠い。


アリアの腕には契約書から伸びた黒い指が絡みつき、身体の奥から何かを吸い取っていた。


『抵抗しても無駄。』


契約書に浮かぶ女の顔が笑う。


『私はすべての運命を作った。あなたが買い取ってきた未来も、最初から私のものよ。』


八。


王都にいる人々の頭上にも、黒い数字が現れていた。


百秒。


五十秒。


三十秒。


数字は違っても、すべて死へ向かって減り続けている。


「世界中の命を奪うつもり?」


『違うわ。返してもらうだけ。』


七。


アルベルトが黒い扉へ駆け寄る。


「封印を閉じろ!」


執行官たちが一斉に術式を展開するが、契約書から放たれた衝撃波によって吹き飛ばされた。


『私を閉じ込めた者たちに、管理者を名乗る資格はない。』


六。


白い髪の少女がアリアの腕を掴んだ。


『逃げて。』


「逃げるって、どこへ?」


『身体を私に渡して。そうすれば、あなたの魂だけは別の世界へ戻せる。』


アリアは少女を見る。


この身体の本来の持ち主。


自分からすべてを奪おうとした相手。


それでも今は、アリアを助けようとしていた。


「あなたはどうなるの?」


少女は答えなかった。


五。


「なるほど。」


アリアは小さく笑う。


「今度はあなたが犠牲になるつもりなのね。」


『時間がないの!』


「だからこそ、選ぶのよ。」


アリアは黒い指を無理やり引き剥がし、契約書へ手を押し当てた。


激痛が全身を走る。


四。


『何をするつもり?』


初めて、女の声に警戒が混じった。


「あなたは自分が運命を作ったと言った。」


『そうよ。』


「なら、あなたにも運命があるはず。」


女の笑みが消える。


三。


アリアの前に新たな文字が浮かんだ。



【対象確認】


最初の契約者


名称――エルシア


現在の状態――封印中


運命――閲覧不能



「名前が分かれば十分。」


アリアは指先を噛み、血で契約書へ文字を書く。


【取引対象――エルシアの自由】


【買い取り価格――アリアの死】


『やめなさい!』


エルシアの声が響く。


二。


「私が死ねば、あなたは自由になれる。」


アリアは続けて契約条件を書き加えた。


【ただし、契約者が死亡した場合――取引は無効となる】


エルシアの顔が大きく歪む。


『矛盾契約……!』


自由になるためには、アリアが死ななければならない。


だがアリアが死ねば、契約そのものが消滅する。


永遠に成立しない取引。


運命を作った存在を、契約の中へ閉じ込める罠だった。


一。


「あなたの負けよ。」


数字がゼロになる。


王都を白い光が包んだ。


クロードの叫びも、少女の声も、すべてが消える。


そして光が収まった時。


その場にアリアの姿はなかった。


地面に残されていたのは、黒く焼け焦げた契約書だけ。


クロードは震える手で、それを拾い上げる。


「アリア様……。」


その時、契約書の最後のページが開いた。


そこには一行だけ、血のような赤い文字が浮かんでいた。


【新たな契約者が誕生しました】


その下に記されていた名前を見て、クロードは目を見開いた。


新たな契約者は――クロードだった。

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