第14話 世界を買い取る者
第14話 世界を買い取る者
黄金の光が王都全体を包み込んだ。
崩れかけていた建物が静止し、降り注いでいた黒い光も空中で止まる。
逃げ惑っていた人々も、剣を構えていた騎士たちも、まるで時間そのものに縛られたように動かなくなった。
動けるのは、アリアとセレスティア。
そして、運命管理局の十三人だけだった。
「最終契約……。」
アリアは黄金に輝く契約書を見つめる。
そこには、今まで存在しなかった文字が浮かんでいた。
⸻
【最終契約】
対象――世界
買い取り価格――契約者のすべて
契約成立後、世界の所有権は契約者へ移行します。
⸻
「世界の……所有権?」
アリアが呟いた瞬間、管理局の十三人が一斉に動いた。
「契約を阻止しろ!」
それまで感情を見せなかった彼らの声には、明らかな焦りが混じっていた。
黒い刃が四方からアリアへ迫る。
しかし、セレスティアがその前に立った。
「十年前と同じにはさせない。」
彼女が手を掲げると、漆黒の竜が咆哮を上げる。
その翼から放たれた衝撃波が管理局の者たちを吹き飛ばした。
「お母様、あの竜を操れるの?」
「操っているのではないわ。」
セレスティアは悲しそうに目を細める。
「彼は私と契約した、最初の守護者。」
始まりの災厄と呼ばれた存在。
それは破壊者ではなく、管理局から世界を守るために戦い続けていたのだ。
「アリア、決めなさい。」
「世界を買えば、あなたはすべてを支配できる。」
「けれど、代わりに人間としての未来を失う。」
契約者のすべて。
命だけではない。
名前も、記憶も、愛する者との時間も。
そのすべてを差し出せということだった。
アリアはクロードを見る。
時間が止まった中でも、彼はアリアを守ろうと剣を握っていた。
レオンも、傷ついた身体で前に立とうとしている。
この世界には、守りたい者がいる。
だからこそ、彼女は契約書を閉じた。
「契約はしない。」
「アリア!?」
管理局の者たちが安堵した、その瞬間。
アリアは不敵に笑った。
「世界を買うために、私のすべてを払う必要はないわ。」
「価値を決めるのは、売る側ではなく買う側よ。」
契約書を再び開き、彼女は黄金の文字を書き換える。
【買い取り価格――運命管理局そのもの】
空気が震えた。
十三人の仮面に、一斉に亀裂が走る。
「あり得ない!」
「契約内容を書き換えるなど!」
アリアは冷たく笑った。
「他人の運命を勝手に決めてきたのでしょう?」
「なら今度は、あなたたちが支払う番よ。」
契約書に署名しようとした、その時だった。
十三人の背後に巨大な黒い扉が現れる。
扉の奥から、低い声が響いた。
『契約を停止せよ。』
その声を聞いた瞬間、セレスティアの顔から血の気が引いた。
「まさか……。」
黒い扉がゆっくりと開く。
そこから現れた男を見て、アリアは目を見開いた。
忘れるはずのない顔。
幼い頃から屋敷に飾られていた肖像画と、まったく同じだった。
男は静かにアリアを見つめる。
そして、優しく微笑んだ。
「久しぶりだな、私の娘。」
運命管理局の頂点に立っていたのは――。
死んだと聞かされていた、アリアの父だった。




