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雪国へ。

………クリスマス目前となった。


剣持刑事37歳は由美香との約束を守り、休暇の調整を行った上23〜25日の三日間休日とし、故郷の北陸へ向かうこととした。


由美香は両親に


「友達とボード行ってくる」


とアリバイしたと剣持に告げたが………

後になって嘘をついたことがバレるとマズいのではないか?と、剣持も一応自分も挨拶するべきと申し出たが、由美香から


「そんなの事後報告でいいんだよ!!

かえって面倒になるからさ!」


と押し切られてしまった。

あくまで目的は由美香に自分の故郷をみせること、それのみだッ!"他意”は無い!?

と自分に言い聞かせながら………


実は、剣持は車持ちだった。

アパートから徒歩5分の場所に駐車場を借りている為、由美香も気付かなかった。


剣持の愛車は1982年型トヨタ・スターレットDX、通称「KP61」という型式の車だ。

一般の人達からみると一昔前の小さく地味なファミリーカーにしか見えないが、どうしてどうして。

このKP61スターレットは1970年代末期〜1980年代中期まで、レースやラリー等日本のモータースポーツ・シーンを席巻した、れっきとした"走りのマシン”なのである。

全長約3.7m、車重はわずか700kg強という非常に小さく現在の軽自動車よりも軽量なボディに1,300ccのエンジン。

当時、同クラスの車がFF化される中でFRレイアウト(車体前方にエンジン、後輪で駆動)を維持し、これにより前後重量配分に優れ、自然で素直なハンドリング特性を実現した。

これが"人馬一体”とも称される運転感覚を生み出し、現在の車では味わえない圧倒的な軽快感とキビキビした走りを実現する"ボーイズレーサーの傑作”と呼ばれ、現在も走り屋の間で人気が高い。


まさに車好きの剣持が選ぶに相応しいとも言えた。

更にコンパクトな車体のおかげで、都内でも田舎の山道でも場所を取らず何処でも取り回しのしやすい点も重宝している。


「こんな車でゴメンね。

ミニバンとか大きくて乗り心地のいいのが良かっただろうけど」


申し訳なさそうに剣持が言うと


「ううん!

ウチ、車なんか滅多に乗れないから、メッチャ嬉しいよ!!」


由美香はワクワクしながら答える。


何より、大好きなカレシと遠出ドライブデート……それだけでも楽しみでしょうがないのに、それに憧れのホワイトクリスマスまで付いて来るのだ。

それに、同年代の女子の多くが同じ年頃の学生の男子をカレシに持つのに対し、由美香のカレシは車持ちの社会人。

何もかもリードしてもらえてる………

由美香にとって、そのアドバンテージ感もハンパでは無かったのだった。


「うわぁ〜〜〜!!

スゴくね!?

マジ真っ白な世界じゃん!!!」


「ヤバい、なんか木が……みんなクリスマスツリーに見えるんだけど!?」


長いドライブを、あっという間に越え。

剣持の故郷の町に着いてからの由美香は雪景色に、はしゃぎっぱなし!


剣持にとっては久々に帰ってきた故郷での今回の積雪も大したことは無く。

見慣れた風景でしか無いのだが……予想以上の由美香の喜びようを見ながら、気持ちが和んで来るのを感じていた。


「ただいま〜」


剣持の実家は、冬は雪原となる田んぼの中の集落にある。

界隈の住宅は都会の邸宅と比べると、大ぶりでシッカリした作りが目立つ。

冬のメートル単位の積雪に耐え得る住宅でなくてはならないからだ。

見ると傾斜のキツい屋根ばかりだが、それも積もった雪を自然落下させる為だ。


「お〜〜、早えかったな、ご苦労さん。

ほら、早や上がってくれ」


玄関から、かなり奥の部屋から60代くらいのエプロン姿の女性が出て来て迎えた。

剣持の母親だ。


上がる前に由美香を紹介する。


「オフクロ。

こちらが、北原由美香さんだよ」


由美香は満面の笑みで挨拶する。


「由美香です」


「おや、ま〜ずめごげなしょだな!

(本当に可愛らしい人だね!)

ささ、上がってくんねかね」


二人は廊下から居間へ通された。


障子戸を開けてもらい、居間に入ると大きな仏壇が目に入る。

その上には代々御先祖様の遺影が飾られ、床の間のような壁には古そうな掛け軸が掛けられている。

仏間と居間が兼ねている感じだ。

都会在住の人が盆暮れ正月に帰省する、所謂"田舎の実家”の概ね典型的な間取りだろう。

そして床は大抵フローリングではなく畳部屋であり、冬は真ん中に大き目の炬燵を据えてある。


「都会んしょは、こっけんとこはさぶくてごうぎだろう、さあさ、足入れらっしゃい」

(都会の人には、こんな所は寒くて大変だろう。さあ、足を入れてください=炬燵に)


剣持の母は一旦居間から出て、暫くして茶菓子の盛られた木の器を持って来る。

それを炬燵テーブルの中央に置き、やはり炬燵の横に常時置いてあるポットと急須でお茶を淹れ、茶碗を由美香と剣持の前に置く。


「ささ、どうぞ摘んで一服してください」


由美香にお茶と菓子をすすめながら、母親が剣持に話しかける。


「博己。

おめえ、何年ぶりだ、帰って来たんがわ?」


「ん………忘れたな」


母親は笑って由美香に向き直りながら言う。


「まぁ、いいコテ。

いっそ、おんなしょに縁がねかった博己が、こっけの若げでめごい女っ子を呼ばって来てもらったがすけ。

ゆっくりしてがっしゃい」

(まあ、いいだろう。

全く女性に縁の無かった博己が、こんなに若くて可愛らしい女の子を連れて来てくれたんだし。

ゆっくりしていってね)


由美香には、剣持の母親の話す言葉は解らなかったが。

その表情と言葉のニュアンスで

"自分は歓迎してもらってる”

と感じることが出来たのだった。


〈雪国へ・完〉

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