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ロボのロボによるロボの為の。

「ただいま〜」


麻衣はじめ、人間形態へと戻った一行が、ニャーミーを連れて来迎寺宅へ到着したのは。

日付も変わろうとする頃だった。


「何それ〜?

あんた!」


華裏那は思わず吹き出した。

ゲリラ式戦闘ヒューマノイドは、人間形態に戻ると変身前に着ていた服装で復元されるが。

エリック=ティーチャーは研究室で、いつもの似合わないファンシー柄のパジャマを着て過ごしていたのだった。

ついでにカワイイ、ナイト・キャップまで被っている。

屈託の無い笑顔で頭をかく、エリック=ティーチャー。


「本当に、この夜分遅くに大変失礼いたします」


黒いスーツ姿の華裏那が挨拶する。


美枝は緊張する。


”この女性が、あの華裏那!?”


元夫が東南アジアに残した隠し子で、今は麻衣を破壊する使命を与えられているはずの戦闘ヒューマノイド。

それが何故?このように麻衣とつるんで我が家まで来たのか。


そうした美枝の気持ちを見透かしたように、華裏那は挨拶する。


「初めまして、華裏那です。

一度、ご挨拶したかったのですが、私は奥様の義理の娘にあたる者です」


包み隠さずに話す華裏那。

事情はともかく、これは正統な礼儀だと美枝も頷くしか無かった。


「私こそ、あなたにお会いしたかったわ。

なかなか機会に恵まれなかったけど、やっと会えて良かった」


それはそうと美枝は、エリック=ティーチャーを叱りつける。


「エリック!

勝手に研究室を抜け出しちゃダメでしょう!?

みんな大騒ぎよ!

あなたはまだ、回復してないのよ!!」


バツが悪そうにエリック=ティーチャー。


「ガゥーメンヌスァーイ!」


麻衣が弁護する。


「エリックは黒猫の飼い主の責任を感じて、わたしとニャーミーを助けてくれたの。

勘弁してあげて」


麻衣は華裏那へも向き直る。


「華裏那も、今回も助けに来てくれたし。

もうコマンドにも従わないって言ってくれたんだ」


華裏那はうそぶく。


「フン、あなたが危なっかしくて見てらんないから、手を貸したまでよ」


完全に照れ隠しだ。


麻衣は、抱っこしたままのニャーミーも労う。


「ニャーミーも、勇敢でカッコ良かったよ!

よく頑張ったね」


麻衣に撫でられて上機嫌のニャーミー。


「ニャー!」


美枝も、ようやく落ち着けた。


「とにかく、みんな無事で良かったわ。

さあ、上がって」


一行をリビングに案内する。


念の為、美枝は華裏那を警戒した。

コマンドに従うのは止める……と安心させながらも実は油断させるつもりではないか?とも勘ぐった。

しかし、そんな美枝の心配をよそに、華裏那は言った。


「奥様。

私達、今夜は重要な話をさせて頂きたいと思い、急遽こちらへお邪魔いたしました。

イスロへの今後の対応についてです。

もう既にお休みになられる時間ですので御無理は言いませんが、もし宜しければ、奥様も御同席出来ますか?」


予想に反した華裏那の誠実な対応に、美枝も面くらい…………


「そうだったの。

わかりました、私が混じって良いのなら」


「ええ、勿論。

遅くで申し訳ありません。

むしろ、奥様にも聞いて頂きたい話なのです」


美枝を加えた四名は、リビングで

”真夜中の会談”を始めた。


最初に華裏那が口火を切った。


「…………あたしは。

イスロに入っていた……あの男、実の父親の誘導で、話せば長いけど結果的にロボットになった。

ロボットになったからには

”人間への安全性、命令への服従、自己防衛”

ていう、ロボット工学三原則だけは守るのが最低限のルールだと思っていたし。

それがロボットの関わる社会を守る為の絶対条件だと認識してた」


華裏那は続ける。


「この三原則の内の一つでも欠けることは決してあってはならないし、この中の”命令への服従”こそが、あたしを作ったイスロからのコマンドを死守するものだと考えていたわ」


華裏那は麻衣に向き直る。


「あなたには、前にも言ってたけどね」


麻衣は忘れるわけもない。


「正直、あん時はマジムカついたけど。

実際考えると華裏那の言い分も一理あるかな……って、思ったんだ」


華裏那は苦笑いする。


「実はね…………

あたしも、あなたの言い分に感化された部分があったの。

さっき言った”ロボット工学三原則”の中の第二条”命令への服従”には特例があって、それは第一条”人間への安全性”に反する場合は守る必要が無い……ってこと。

つまり、麻衣の言ったように”大事な人達を守る為”なら、自分で判断していいってことだとわかったの。

今回でイスロという組織が、明らかに人や動物を傷付けるのが目的な人達だったとわかった時点で……あたしは彼らからのコマンドに従うことは出来ない、って気付いたわけ。

麻衣は今の時点で完全な”人”ではなくてロボットだけど、麻衣は人を守ろうとしているロボットなわけだから。

その麻衣を破壊するのは、守ろうとしている人間の安全性をも脅かすのに値するんだな…………とね」


黙って聞いていたエリック=ティーチャーも口を開く。


「ヤパリ、ナカヨシ、ナル、タダシーカッテン!」


麻衣は華裏那の意識改革には賛同出来たが、麻衣の大切にしているのはもっと根本にあるものだった。


「………わたしは、ロボット三原則なんてどうでもいい。

確かに身体は機械になっちゃってるけど、心は人間のままだもの」


麻衣は続けた。


「わたしが華裏那と最初に交わした言葉、憶えてる?

姉妹同志で戦うことに疑問を覚えるって。

だいたい本人達の意志なんかお構い無しに、そんなことを命令する……利用する組織が悪いし、おかしいのよ!

そんなバカげた連中の言いなりになる理由なんか、毛頭無いわ!!」


華裏那は、麻衣の話を黙って聞いている。


「たとえロボットだろうと人間だろうと、守るべきものは同じだと、わたしは思う」


麻衣が話し終えると、エリック=ティーチャーの抱き抱えるニャーミーが鳴いた。


「ニャーオ」


そばに座っている華裏那が、ニャーミーの頭を撫でて微笑む。


「あなたも、同じだと言ってるのね」


ニャーミーは気持ち良さそうに目を細める。


「だいたい、そんな悪い連中にそそのかされて家庭をほっぽり出すような、お父さ……日向はマッドサイエンティストよ!

親なんて思わない!

わたし達、実の娘の人生ブチ壊しにしただけじゃなくて。

あんな血も涙もない、アニマロイドなんか作って正気じゃないわ。

絶対許せない!!」


麻衣が怒れば、華裏那も応える。


「パパ……あの男は確かにロクデナシのヒトデナシだけど、あんな趣味の悪いモノを作るほど落ちぶれてはいないみたいよ。

今回のは、他の誰かが作ったらしいわ」


聞いていて美枝は。

元夫の”身から出た錆”とは言え、ここまで娘達にボロ◯ソ言われるとは、可哀想な父親だとも思った。

同時に、そんな父親をネタにしながら、この姉妹が共感し始めているとも思えた。


話題は、これから三人がどうするか?ということへ変わった。

ハナからイスロと自発的に交流を持たない麻衣は別として、華裏那とエリック=ティーチャーはメンテナンスから住居までイスロ日本支部に委託している状況だ。

しかも、これは麻衣も同じだが、戦闘ヒューマノイドの行動は常に監視されている。

会話の傍受だけは不可能だが、今夜ここへ全員集まったことも知られているはずだった。

もし戦闘ヒューマノイド達が反旗を翻したことを知られたなら、イスロは何らかの手を打ってくるだろう。


「たとえイスロから刺客がおしよせても、この三人なら立ち向かえるわ!」


麻衣は、いつでも強気だ。

ここで美枝が申し出る。


「メンテナンスが必要になったらウチでも出来るから、頼るといいわ」


それに対し華裏那は遠慮する。


「それはやめた方がいい。

奥様に危険が及ぶし」


美枝は言った。


「そもそも、日向の元妻で。

麻衣ももう、こちらでメンテナンスやアップグレードしてることくらい、向こうには知られてるはずよ。

とっくに覚悟は出来てます」


エリック=ティーチャーが名乗りを上げる。


「ワターシ、フルパワーデ、ディーフェンス!!

ケアシテモロタ、オン!カエシ!!」


美枝は笑う。


「いいのよ、そんなこと。

それより……あなたは明日、研究室に戻りなさい!」


「イェッサー!」


一先ず、その夜の会談はお開きとなった。

大事を取りパジャマ姿のエリック=ティーチャーは泊まらせたが、時刻は2:00になろうというのに華裏那は帰るという。


華裏那を見送る美枝。


「また……いつでもいらしてね」


美枝は。

遠く祖国を離れ、たった一人で苦労しながら生きてきた華裏那の半生を想った。

それが自分達のせいでもある、と思うと、尚のほど力にならなくては!と感じた。


「ありがと」


華裏那は礼を言い。


「…………奥様も。

いつでも、あたしをお呼びくださいね。

あの子(麻衣)だけでは、まだ心許ないでしょうから」


自身の携帯番号入りの、イスロの名刺を渡しながら。

華裏那は美枝の中に、今は亡き実の母・エレナを見た気がした。


〈ロボのロボによるロボの為の・完〉

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