乙女心。
由美香は麻衣の通う高校の3年生で、校内では名の知れたギャルだ。
しかし極めて素行不良というわけではない。
だが、地元の千葉で過ごした中学時代までは”評判のワル”だった。
自分から犯罪に手を染めたりはしなかったが、連日のように仲間と夜遊びやプチ家出等で過ごしていた。
当時付き合っていたカレシの居た不良グループの影響で火の粉を浴び、危ない目にあったことも何度か経験している。
そのせいか、学校や家庭で真面目に過ごすこと自体、自分の中では”有り得ない”バカらしいこととなっていた。
何故、由美香がそうなったか?
よく聞く、親が子供に無関心だとか、家庭内が荒れていたからとか、そういう類ではなかった。
父親は金融機関の役員をしており、母親は公務員で地元の教育委員会で事務として働いていて、両親とも事ある毎に
「勉強しろ」
と由美香に言い付けてきた。
由美香が学校の科目で得意だったのは音楽や図画工作・美術だったが
「そんなものは実務的でない」
の一言で片付けられた。
”自分の良さを見てくれない親や家庭なんか意味が無い”
と、由美香の気持ちは次第に家から離れていった。
当然、他の科目の成績は落ちていく。
由美香の成績不振を両親は全て学校のせいにし、今度は学習塾のハシゴを由美香にさせようとする。
ある日、母親の持って来た学習塾のパンフレットの束を投げ付けて、それが父親の顔に当たり鼻血を出させてしまう。
逆上した父親に平手打ちされ、由美香は家を飛び出した。
…………不良友達の家を泊まり歩くようになったのは、それからだった。
そんな娘の素行が続き。
堅い職業に付いていた両親にしてみれば、世間体が気になって仕方が無い。
何故?娘がそうなってしまった原因等、全く考えようともしない親だった。
そんな両親を尻目に、由美香は定期的に自宅へ着替えを取りに行き、近所に住む祖母へ金をせびっては無断外泊を続けた。
中学3年の秋になり、たまらず両親はクラス担任に泣き付く。
由美香は家には帰らなかったが、学校へはポツリポツリと行っていた為、出席日数そのものはギリギリ保てていた。
もう、親に借りを作るのは死んでもイヤだ!!と思っていた為、授業で出た課題等は友達の家やカレシの部屋で全てこなしたおかげで奇跡的に?テストの成績そのものは中の上まで行っていた。
由美香自身は進学等ヘドが出そうな程嫌がったが、進路について担任と親が話し合い、地元千葉ではない都内の私立高校へ強制的に通わせる運びとなったのだった。
地元にしない理由は、由美香を”悪友”達と引き離す為であった。
「けっ、今度はそんなんでウチを縛り付けようっての?バカみたい」
当てつけに由美香は、都内私立でも最も月謝の高そうな高校を受験した。
内申書については、とにかく世間体を重んじる大人達によって”ゲタを履かされ”…………
合格したのが現在通う高校なのである。
犯罪等、補導歴の皆無だったのが救いだった。
中学時代まで付き合っていたカレシとは、自分から切り出して別れた。
カレシと言っても実質は”遊び友達”程度で、”寝蔵代わり”だったにも関わらず二人の間には何も無かった。
それが中学を卒業する頃、急に身体を求めて来られた為、由美香は完全に拒絶。
すがりつく相手を平手打ちし、出て行った。
以来、傍から見れば意外に映るくらい、浮いた話というのは無かった由美香。
高校に入っても近寄ってくるのは遊び目的のチャラ男子ばかり。
そもそも由美香自身が常に”強面オーラ”を発し続けていた為、男子達もビビって踏み込めなかったというのもある。
しかし、それは由美香にしても好都合だった。
既に……
大人にも、男にも、全てに信頼を持てなくなったからだった。
そんな高校生活も最後の年となった、ある日。
特に意味は無く、午後の授業をサボって遊びに出ていた由美香は校門の前でウロチョロする怪しい?スーツ姿の男性を見つける。
男性は若いとは言えないが、思いっきり中年オヤジにも見えず。
ソワソワした感じが何だか可愛く思え、由美香はイタズラしたくなった。
自分の、ちょっとしたからかい言葉にさえも。
大人なのに、まるでリスのように過剰反応する男性を由美香は更に可愛く感じていたが…………実は刑事だと名乗られ驚く。
それからは完全にキリッとした”仕事の顔”へと変身した男性に、由美香の胸は思いも依らぬ高まりを始めたのだった。
それまで生きて来て、そんな魔法のような瞬間が訪れたのは初めてで、自分でも不思議な感情を隠せなかった由美香。
別れ際、思わず出た言葉は
「……………また会いたいなぁ」
だった。
それこそが…………18歳の由美香に訪れた
”初恋”の瞬間であった。
………………ハロウィンまで、あと数日。
先日、恵比寿で剣持と会った別れ際
”ハロウィンまで会えないんだね、サビシイよぉ”
と泣いた由美香だったが、その時、剣持に言われた通り。
あっという間に、その日が迫って来ていることに焦りを感じていた!
(あ!薄力粉、買わなくちゃだった!!)
剣持に”作る”と約束した、パンプキンケーキを間に合わせないといけない。
学校から電車で片道1時間もかけて一旦帰宅した後、またすぐに忘れていた買い物へ出かける由美香。
戻って来てすぐにケーキ作りに取り掛かる。
「剣持さんの口に合うかな〜?
それが心配!
あと、ぜってー失敗出来ないし!!」
毎年、ハロウィンやクリスマス、バレンタインに自らケーキを手作りしてはSNSへ投稿し
"自分用♫”
とか、半ば自虐的なコメントをUPしていた由美香だったが、たとえ失敗したとしても最終的には自分が食べてしまうので。
作るのと食べるのをプレッシャー無く楽しめることが出来た。
しかし!
今回は違う…………というより
”今回からは”違う!!
相手が出来たのだ。
失敗は許されないと、そういう意味でもプレッシャーと焦りを由美香は初めて感じている。
だが…………
それは嬉しい悲鳴でもあった!
パンプキンケーキのようなパウンドケーキの類なら手作りでも3〜4日は持つと言うが、出来るだけ焼き立てを食べてもらいたくて。
もっとハロウィンに近くなってから”本番”を作るつもりだが、保険を考えて4日前から”試作品”も作りだす。
夕方からキッチンを占領し続ける由美香に、自宅の母親は
「夕ご飯が作れないじゃない!」
と怒り出すが
「うっせぇなぁ!!
それどころじゃねーんだよ!
出前でも取れよッ!!」
と逆ギレする。
ケーキの他は………………
コンビニで、たまたま目に入ったミニカーがあり。
サプライズで、それも持って行くことにした。
最近ではコンビニでも、模型店等で売っているような”プレミアム”品が置いてある。
「…………カッケーミニカー!見っけ!!
喜んでもらえるといいなぁ♡」
(今度こそ!
ホンモノの恋愛だ…………)
10月31日
その日を、これまでの人生でサイコーの日にしたい!
由美香であった。
〈乙女心・完〉




