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令和のキカイダーは女子高生。

…………剣持刑事37歳は、その日。

都内江東区にある某工業大学を訪問していた。


今年発生した、渋谷区の無差別通り魔事件で関わったとされる”ロボットのような謎の人物”の調査に於いて、当時者が現実に人間ではなくロボットである可能性を考慮した場合。

今現在、最新の人型ロボット=ヒューマノイド(アンドロイドとも呼ぶ)の現状を知るべきと剣持は考えた。


勿論インターネット等での自己調査も踏まえた上で、人型ロボットの研究に勤しむ人物から情報を得る重要さを自覚。

既にコンタクト済みの参考人、来迎寺麻衣の親でありロボット研究者でもある来迎寺美枝氏の研究室訪問も考えては見たが、今回は敢えて控えることにした。

替えて白羽の矢が立ったのは、S工業大学の飯塚正智(いいづか・まさとも)助教授だった。

国内に於いて人型ロボットの研究者は既にゴマンと存在してはいたが、剣持のアポイントした段階で好感触を得た人物こそ飯塚助教授であったのだ。


飯塚は偶然にも剣持と同い年の37歳。

地元の高専(高等工業専門学校)から都内のS工業大学工学部へ編入し、そのまま同大学の研究室へ入った。


「……自分の父が子供の頃、TVではいろんなヒーロー物番組が放映されてて、中でも父はヒーローロボット物が一番好きだったそうなんですよ。

もしかしたら、御同輩である剣持さんのお宅も同じだったかもしれませんね。

父は、中でも石ノ森章太郎原作の”人造人間キカイダー”シリーズが推しで、今でも配信されてるアニメ版を観てるくらいなんです」


学者と話すことで当初緊張気味の剣持だったが、初対面ながら飯塚の気さくな人柄に好感を持ち始めている。

「僕なんかも仮面ライダーシリーズはよく観てましたが、同じ原作者でロボット物があった!なんて最近になって知りましたよ」


剣持に対し笑顔で相槌を打ちながら、飯塚も続ける。

「ええ。

仮面ライダーとか戦隊物は人気高くて、かなり長く続いてますよね!

ちょっと前に歴代仮面ライダーが集合した映画を父と観に行った時、出演してた初代1号ライダー役の俳優さんの健在ぶりに。

父が涙流して感動してました(笑)」


「あ!

あの俳優さんスゴいですよね。

今も結構メディアに出てるし。

お子さん達も俳優やモデルで活躍してますよね!みんな美男美女だし」


話は尽きない。


「そんなライダーシリーズと違い、キカイダーシリーズはたった2作で終わってるんですよね。昭和時代に。

ただ、当時からの根強いファンは結構居るみたいで、未だにネット配信も尽きていないんですよ」


飯塚が、窓辺に飾ってある一つのフィギュアを眺めながら続けた。


「父が言うんですよね。

”そろそろキカイダーが出て来てもいい頃だろう?”って」


飯塚が資料を剣持に渡しながら説明を始める。


「…………剣持さんの調査されている”謎の人物”というのが”ロボットではない”と確証出来ない時代に入っています。

現実に米中両国という、いわゆるロボット先進国始め我が国でもヒューマノイド型ロボットの性能進化とAI発展型との融合開発は爆発的スピードを持ちながら、更に商業化も進んでいます。

本当に、何時、どこまで進化した個体が、どこで現れるか?我々研究者でさえ固唾を呑んで見ている現状なのです。

2024年末時点で、例えば中国のロボット産業に従事する企業数は45万1,700社を超えているとされていました。

それが更に2025年10月の段階では、中国で人型ロボットを開発している企業は確認されただけで100社以上でした。

もう既に、人間と同じことが出来る人型ロボットというだけで持て囃されていた時代は終わっていて、今は

”人間の能力を超えるヒューマノイド”

の開発競争となっているのです。

こうした先端技術は国家レベルの扶助あって然りなのですが、一部の開発機構や法人で独自に開発を行うところも出ています」


ここで剣持が質問する。

「人間にとって代わるという意味で人間と同じ能力のロボットを造るのはわかりますが、更に”人間の能力を超える”というロボットを開発する意図というのは、何なのでしょうか?」


飯塚は即答する。

「ズバリ、軍事目的が主ですね」


「軍事目的?」


「ハイ、人間より頑丈で。

人間より足が速く。

人間より力も有り。

しかもメンテナンスだけで食事も休息も必要とせずにパフォーマンスを維持出来る、という戦場には最適な”兵士”としてのヒューマノイドです。

人型ですから、生身の人間の兵士の使用する装備品や兵器もそのまま流用出来。

また、指揮系統も一つの命令で多数の個体を正確に操れるという利点まであります。

簡単に言うと”軍事ドローンの人型版”といったところでしょうか」


剣持は、呆気に取られた。

そんな時代に突入しているとは!


「……では、渋谷区の事件で確認された人物も、その軍事ヒューマノイドという可能性もある、ということですか?」


「いえ、お聞きした限りの内容では、軍事目的のヒューマノイドがそのまま持ち込まれた可能性は低いでしょう。

ただ、気になるのは容疑者を死に至らせたという”両手からの火花”?はたまた”強い電流”。

これがヒューマノイド単体の技だとしたら、体内にそれだけの発電装備他バックパックが必要かと思われます。

見た目だけでの判断は難しいですが、屈強な体格の兵士タイプならまだしも、一見小柄な女性タイプとのことですよね。

それでバックパックも無しで、そのような技を操れるヒューマノイドを造れる技術が現存するというのなら、まさにノーベル賞ものですよ!」


飯塚は多少興奮気味で説明した。


剣持は、少し心配になった。

最先端を行くロボット学者までもそう言うのだから、あの事件の人物をロボットというのには無理があるのだろうか?

やはり……人間として裁かなくてはならないのか、と。


「…………では、やはり今回は、あくまで従来通り人間のみ関与の事件に過ぎないということなのでしょうか。

警察として言うのも何ですが…………」


頭を掻きながら自嘲気味に言う剣持に、飯塚は首を横に振った。


「いいえ!

そういうことではないのです。

先程お話ししましたよね。

現在は何時どこで誰が、どんな能力の個体を造り上げてもおかしくない状況なのです!

ある意味危険な現状です。

つい近年のことですが、我が国にもノーベル賞候補のロボット研究開発者が存在しました。

我々研究者が”神”と呼び、不可能と言われていた事例を次々と実現させ、海外では

”極東のナポレオン”

と呼ばれた、日向博士…………日向武雅博士です!!

残念ながら、博士は5年前に渡米してから消息を絶ってしまわれています。

もし博士が今も健在でおられたなら、このような世間の学者間程度の常識を覆すこと等、全く以って造作無いことでしょう!

最短2か月に1度ペースのメンテナンスで、24時間活動可能の介護ヒューマノイドを開発したのも日向博士です。

あの時は皆、度肝を抜かれましたよ!!」


剣持は、窓辺に置いてあるフィギュアに目を向けた。

何体か有ったが、この中に飯塚の言うキカイダーも有るのだろう。


「…………飯塚先生。

その、”人造人間キカイダー”のストーリーを、ザックリで教えてもらえますか?」


飯塚は、窓辺のフィギュアの中の一つを取って来て見せながら語り出した。


「ハイ、まず、主人公のキカイダーは光明寺博士というロボット学者により、亡くなった息子さんに似せて造られた戦闘ヒューマノイドです。

このように身体の右と左の構成が違うのは、完成直前に不具合が発生した上、その際に悪の組織ダークに襲われてしまった為です。

キカイダーは、そのダークの差し向ける悪役ロボットと戦う正義の味方となります。

しかし本来なら人間の良心を補完する回路まで完成するはずでしたが、それも未完成なままの為。

お話の中で善と悪の間で苦しむという、かえって人間らしさを現すシーンもあります」


興味深そうに聞く剣持に、飯塚は続ける。


「キカイダーは普段は人間の形態をしていて名前を”ジロー”といい、仮面ライダーのように必要な時に”変身”します」


…………変身?

剣持は、そこに特に興味を持った。


「飯塚先生。

もしも、ですが…………

その日向博士なら、”変身”出来るヒューマノイドを造れるでしょうか?」


剣持の質問に、困ったような……それでいて嬉しいような不思議な顔をしながら飯塚は腕を組んだ。


「う〜〜〜〜〜〜ん!!

どうですかね…………

私などには見当も付かない技術で、何とも言えないですが。

個人的には”造れて欲しい”ですね!

日向博士には!!」


気が付けば。

剣持、飯塚両人とも、子供のように目を輝かせていた。


「剣持さん、よく私は先輩方に言われるんですよ。

”ロボットアニメの見過ぎだ”って(笑)。

でも、常に先端技術を追い求める研究者に必要なのはそれなんだ!って私は言いたいんです。

今、当たり前になってる技術だって昔は

”ムリムリ、そんなの夢物語だ”

って言われてたのばかりですから。

そこで”夢物語”と片付けてしまっては、科学の発展なんて絶対有り得ないと私は思ってます!

なので、私は日向博士のように”不可能を可能にする”研究者を目指したいんです!!」


剣持は、飯塚の中に。

自分と同類の血筋のようなものを見た。


「飯塚先生!

実は僕も先輩達に言われるんですよ。

”お前は刑事ドラマの見過ぎだ”って(笑)」


同い年の二人は。

顔を見合わせて、笑った。


「剣持さん。

その”謎の人物”、私はロボットだと信じたいし、信じますよ。

そのロボットが、キカイダーにも負けない”正義のヒーロー”であることを。


また来てください!

いつでも協力させて頂きます」


「ありがとう!僕も勇気が湧きました!!」


二人はガッシリと握手した。



〈令和のキカイダーは女子高生・完〉

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