アップデートの代償。
麻衣の住む地域、埼玉県南部は都心へのアクセス時間が最長でも1時間弱。
麻衣は準急まで停車する埼玉の私鉄駅から都内に入って3つ目の駅まで片道40分程電車に乗り、駅から高校まで徒歩15分程の通学をしている。
自宅での日々の生活は人間だった時と比べ食事・入浴といった”作業”からとって代わり、自身の身体のコンディションを維持する為の幾つかのメンテナンス様式実行が必須となったが、普段はさほど時間や手間のかかるものではない。
帰宅すると、まずは学校からの課題を片付ける。
以前は帰宅したら鞄を放り出して冷蔵庫からアイスティーを取り出し、スナック菓子をもぐもぐ食べながらスマートフォンをいじる………
といった平日の毎日で、学校の課題など二の次だった。
そうゆう意味では180°変わった生活となった。
電子頭脳は麻衣の両眼でスキャンされた情報からあらゆる分野での解析を手早く行う。
高校の予習課題程度の問題など科目を問わず瞬時に解答を導き出してしまう為、以前は3時間以上はかかった帰宅後の学習も、ものの数分で終えることが出来るようになった。
母の美枝は仕事の終える時間が日によって違うが緊急の場合を除き、どんなに遅くなっても帰宅しない日はない。
それまでの時間、麻衣は課題もメンテナンス様式も全て片付けてリラックスタイムに入り、1日を振り返っていた。
………麻衣の”変身”を自己コントロールするアルゴリズム・プログラム組み込みへのアップデートは最重要度の作業となる為、最低一週間の期間を要する。
麻衣の学校へは十日間という申請で母の美枝から休学届けが出された。
休学理由は
”親の仕事の為、海外へ同行”
とした。
この休学理由に、麻衣は母へ難癖をつけた。
「なんで海外なのよ!クラスのみんなにお土産配らなきゃならないでしょ?どう取り繕うのよ」
美枝のような研究者の仕事は海外出張も珍しくないので何のためらいもなく思い付けたアリバイなのだが、海外に憧れを持つ世代である高校生には一大イベントなのだ。
以前、夏休みに家族でモルジブへバカンスに行ったクラスメイトからも麻衣はお土産をもらっていたので、この件を見過ごせなかった。
しかも平常授業時に十日間も学校を休んで海外に行って、みんなへお土産一つ無いとなると……今後クラスで気まずい思いをすることは必至!!と麻衣は焦った。
「仕方ないでしょう。これ程の長さの休学なら、それしか思い付かなかったんだから」
さも当然、と言わんばかりの母の態度に麻衣は逆上。
「だから、お土産はどうするのよ!?お土産は!!」
「成田空港の売店行って、マカダミアナッツ・チョコでも買って来ようかしら?」
「ハ……ハワイかい!?」
普段は理路整然とした風情の母だが、こういう時に限って入る拍子抜けするほどのボケに、いつも麻衣は手を焼いているのだった。
「あ〜あ……。
ロボットになんかならなきゃ、こんな余計な気遣いしなくて済んだのに」
麻衣はインターネットでインポート・マートのお取り寄せサービスを検索し始めた。
「……さぁて。まずは何処の国へ行ったことにしよっか。
お母さんが帰る前に好き勝手にお土産を決めてカゴに入れて………全部、請求してやる!!」
これくらいやったって、バチ当たんないし?と開き直る麻衣がいた………。
〈アップデートの代償? 完〉




