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親と子。

………放課後、駅への道を歩いていた。


麻衣は元々部活動に励むタイプではなかったので特別な事情以外、放課後の校内に残る日はない。

栄太は写真部の仲間と、ミーティングという名のおしゃべりで遅くなるらしい。


チロリン♫

麻衣は鞄からスマートフォンを取り出す。


「お母さんだ」


LINEの画面を開く。


〈お疲れ様。学校終わったら研究室まで来れる?〉


麻衣の母親の仕事は某公益財団法人AI・ロボット開発機構所属のエンジニアで、都内にある研究室に勤務している。

麻衣の向かっている通学駅から母の居る研究室の駅までは、一旦池袋まで出て地下鉄に乗り換え5分で着く。


〈わかりました〉


いつも母とのLINEには敬語を使う。

必要最小限の言葉。

絵文字等は一切無い。

親子でのLINEが通常となった昨今、くだけた言葉でのやり取りも普通になっているが、麻衣が母親と連絡を取るような場合は一般の親子の会話には無い緊張感と即時性を伴う。



「お疲れ様。少し休んでて」



白衣姿で出迎える、長い黒髪のスラリとした中年女性。

来迎寺美枝(らいこうじ・みえ)

麻衣の母親であり、工学博士である。


研究室の建物は、AI研究開発で連携をとる某私立大学と近い。

また、その大学を目指す学生の為の大手予備校も林立し

”石を投げれば予備校生に当たる”

とも昔から言われていた街の少し外れに、研究室の建物はあった。

地下鉄の駅を出ると学生と見られる若者が大勢歩いていて、それを麻衣は掻き分けながら来た。


そんな外の喧騒とは対照的に静かな研究室の、エレベーター前の長椅子に腰掛けながら麻衣はスマートフォンを取り出し、LINEの今度は栄太の通信画面を開く。

人混みを歩いていたので気付かなかったが、新規の着信が2件見つかった。


開くと、割り箸の先を両鼻に押し込んで白目を剥く栄太のアップ顔と、背後で笑っている仲間達の写った写真。

その下にコメントで


〈撮られました笑ぴぇん〉


とあった。

麻衣は思わず吹き出して


〈お店なら通報されるよ!笑〉


と返した。

そんな時間を過ごしていたら、美枝が迎えに来た。


「お待たせ。ちょっと来てくれる?」


麻衣は美枝の後に付いていき、カンファレンス・ルームに入った。

二人の他に誰も居ない会議室は、ただただ広く感じる。

資料も何も持たず、美枝は麻衣の瞳を見つめながら切り出した。


「次のアップデートが決まったの。今度は今までと違って、一週間程学校を休まなきゃならないの」


美枝は母親でありながらロボットである麻衣の身体をメンテナンスもできる、現時点で唯一人のエンジニアでもある。

美枝は説明を続けた。

これまではハード部分の定期点検の他、麻衣から”身体の具合”を訊きながらソフト部分を中心にしたアップデートを重ねてきた。

ただ、大きな問題が一つ残っていた。

それは麻衣の”変身”に関することだった。



………麻衣を戦闘ロボットに改造したのは

実の父親である日向武雅(ひゅうが・たけまさ)博士だった。


日向博士は人型ロボット=ヒューマノイドとAIの複合体を開発する研究者としては世界的な権威だった。


当初は妻・美枝とともに社会奉仕を目的としたロボットの研究開発に勤しんでいたが、米国の研究機関へ単身派遣されていた2010年代の頃、軍事目的とする人型戦闘ロボットの開発に着手。


当時、軍事目的のロボットとしては既に犬型ロボットや戦車のような無限軌道(キャタピラ等)で移動する主に輸送・偵察が目的のロボットが開発されていた。

しかし何故人型かというと、人間の兵士が使用する銃や小型爆弾の類の武器、装備品等をそのまま流用できるコスト面での利点と戦闘時に自軍兵士の人命・人体損害を最小限に抑える意味合いがあり。

また、グレードアップの度合によっては人間の戦闘・生存能力を優に超える可能性に加え、一つのコマンド(指令)で多数の個体を動かし忠実に作戦を実行できる利点もあった。


日向博士は、一節では現地にて国際テロ組織と接触したとも、軍事ヒューマノイド開発で得られる莫大な利益に目が眩んだとも言われていた。


しかし彼の野心は、それだけで済まなかった。

平時は人間の姿で社会の中に溶け込むことによって敵を欺き、有事となると戦闘ヒューマノイドへ変身し迎撃を実行できる

「ゲリラ式戦闘ヒューマノイド」を造り上げることを考え付いた。

そして……………

その第一号機の素体として選んだのが

よりによって自分の一人娘だったのだ。


美枝は娘を戦闘ロボットに改造することに反対し夫である日向博士と離婚。

無条件で親権を主張し、麻衣を引き取った。

しかし、麻衣が高校1年のある日。

通学途中の麻衣を何者かに拉致された。

この件が日向の関係者による仕業であることは想像に易い。

行方を捜し当てた時には既に手術台の上で麻衣は改造を終えられてしまっていた。


改造手術の行われた施設に時限爆弾が仕掛けられていることがわかり、急いで麻衣とともに脱出したが、その時に素体である麻衣の生身の身体は保存カプセルごとヘリコプターで持ち去られてしまった。


何故”ロボットの完成品”である麻衣を逃がし、生身の身体を持ち去ったかは定かではないが、おそらく今後その素体を”人質”として利用する目的があるのかもしれない。


ロボットである麻衣の頭部メカニズムには脳からダウンロードされた「Bewusstsein」=べヴスタイン(独語;意識)が組み込まれており、それが人間の時の自我を保持している。




…………美枝の言う”変身”に関する問題とは

現時点で麻衣自身が自分で”変身”をコントロール出来ない仕組みにあった。


元々が軍事目的で開発されただけに、味方からの脳内支援要求コマンド

「HELP」日本語に直し「タスケテ」

をキャッチすると

いつ、何処に居ても自分の意志と無関係に”変身”が実行されてしまう。

更に「タスケテ」のコマンド連携回路は敵味方の識別が出来ない場合がある等、未完成な部分もあることが判明した。

そして敵の壊滅を確認完了するまで攻撃し続けるプログラミングも、一歩違えれば無実の一般人を巻き込んでしまう恐れが充分にあった。


だからこそ、”変身”を自己コントロール可能にするアルゴリズムの獲得が急務だった。

そして遂に、そのアルゴリズム・プログラムを入手することが出来た。


美枝の同志のエンジニアが米国へ渡り、それを然るべき研究者から秘密裏に持ち帰ることに成功したのだ。


「………麻衣、いいわね?」


「わかりました」


母の説明を聞き終えた麻衣は、表情も変えずに返事をした。


美枝には、自分の娘の様子を見て

今どのような心境にあるのか?すぐにわかった。


美枝はテーブルを挟んだ麻衣の両手をしっかりと握りしめ、こう言った。


「………麻衣。あなたの身体は、お母さんが必ず取り返すわ!必ず!!

それまではどうか、辛抱して………

お母さんは何があっても、あなたを守るから」


麻衣は視線を落としたまま、黙っていた。


(どんなことをしたって、わたしがロボットのままなのは変わらない……………

わたしをこんなことにしたのだって

全部大人達の勝手な都合じゃない!?

………もう、いい加減にして!

わたしの身体を、人生を返して!!!)


そう叫びたかった。




麻衣は自分の父親…………

日向博士を憎んだ。

許せなかった。


科学を悪用し、実の子供の人生を乱したのはもちろん。

この世界を乱そうとしている父の企みを、決して許してはならない!


そう胸に誓った。


〈親と子・完〉

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