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ある少女の物語。

……あたしの住んでる街は。

フィリピンのマニラといって、スっゴい大っきな街なの!


あたしたちの住む場所は、トンド地区と言って。

スラム街ってよんでる人もいる。

みんな、いっしょに暮らしてるよ!


お友だちはみんな、おとなといっしょに、ゴミの山の中からペットボトルや金属の線ひろってお金もらったりしてる。

あとは、お金持ちが乗ってる自動車をみがいて、お金もらってる子もいるよ!でも、もらえない時もあるんだって。

「たのんでもいないのに、オマエが勝手にやってるだけだ」って言われて。


学校?

学校はね、お金もちの子どもだけが行くところなんだよ!知らないの?

でもね、みんな仲よしだし、まいにち楽しいよ!!



あ!わすれてた、あたしの名前は。

Katrinaカトリーナ


お友だちとくらべると、はだが白い!ってよく言われる。

ママ言ってた、それはパパが白いからだって。


とっても、やさしかった、ママ!

大好きだった、ママ………

ママの名前は、Elenaエレナ)


パパは、日本からやってきた。

人を助けるロボットを作るために、やってきたんだ!


ママは、パパのお仕事するとこで、おそうじのお仕事してて、知り合ったんだって。

トンド地区に住んでる人の中では、びっくりするほどイイ仕事なんだ!って、となりのおじさんも言ってた。

ママも、お仕事行く時は、とってもキレイな服着てたもん。


でも……………

ママは、死んじゃったんだ。

ずっと治らない病気がひどくなって。

パパがいっしょうけんめい、病院をさがして、いっぱいお金を出したけど。

もう、手おくれだって、お医者さんに言われたって。

パパ、もっと早く日本からくれば良かった!って、泣いてた。


………ママが撮ってくれた、写真が、あるんだ。

あたしの大事な宝もの。

パパと写ってる、たった一枚の写真なんだ。



あたしは、パパと二人きりになった。

パパは、あたしを日本へ連れてくって、言った。

フィリピンをはなれて、日本へむかう日。

トンド地区のみんなが、見送りに来てくれた。


みんな、泣いてた。


男の子も、女の子も、となりのおじさんも、お腹が空くといつもパグパグ(ファストフードのゴミの中からチキンの食べ残しだけを抜き取り、再度調理しなおした料理)を食べさせてくれた、おばさんも。


みんな、みんな、泣いてた。


外国の人や、お金もちから、ゴミだめとか言われたって。

ここは、あたしのふるさとなんだ!

どこよりも、あったかい、ふるさとなんだ!!


みんな、忘れないからね!!!




ママがいなくなっても、パパといっしょなら新しいお家で、がんばれるって、あたしはホッとしてたんだ。


でも。


日本へきてから、パパはあたしをお家へは連れて行かなかった。


あたしを連れていったのは、”こじいん”ていうとこだった。


パパは、あたしをおいて行こうとした。


「パパ?どこ行くの?カトリーナをおいて行かないで!ひとりぼっちにしないで!!」


あたしは、パパに、おねがいした。


いっぱい泣きながら。


でも。


パパは、行っちゃった。



”こじいん”のおばさんが、あたしをだきしめながら、言った。


「カトリーナちゃんは、パパのお家には入れないの。

今日から、ここがカトリーナちゃんのお家になるのよ」


おばさんは、あたしをだきしめながら、いっしょに泣いてくれた。

あたしは、ママが死んじゃった時と、おんなじくらい、いっぱい、いっぱい!


………………泣いた!!






日本に来て、義務教育の中学校まで通ったカトリーナは。

孤児院に別れを告げ、アパートを借りて働くようになる。

様々なアルバイトで一人暮らしを賄って来たが、一番性に合ったのは客商売だった。


年齢を誤魔化してまで(店側も暗黙の了解)選んだ職業は、キャバクラのホステス。

そのフィリピン系の美貌と、それまでの半生に培われたハングリー精神で、他のホステスとは一線を画す存在となり。

どの店に行っても集客も売り上げもNo.1となってしまう。


しかし、ひょんなことから”フィリピン・パブ”の存在を知り。

トップにまで上り詰めた店をアッサリ辞めてまで、都内亀戸にあるフィリピン・パブへと移った。


そこでは、自分と同郷の女性達が働いており。

彼女達もまた、カトリーナを歓迎!

懐かしいタガログ語の飛び交う仕事場で、忘れかけていた安らぎのようなものを感じることが出来た。

日本とは違う、陽気でバイタリティ溢れるフィリピーナ達!

その中でカトリーナはカタコトでなく流暢な日本語を話せると、客を驚かせ。

それが一つの個性となり指名も増えていった。


そんな、ある夜のこと。



「!!」


その日、店に初めて来た客に。

見覚えのある顔を見つけたカトリーナ!


(忘れもしない…………

忘れてなるものか!!)


その客とは………

カトリーナを孤児院に置き去りにした、実の父親。

日向武雅だった。


カトリーナは憎しみの炎をそのままに。

お通しを載せたトレーを持ち、日向の座るボックス席へと向かって行った!!!







(あの子……………………)


カトリーナ、こと帰化名・華裏那は。

先日、相まみえたばかりの来迎寺麻衣のことを何度となく思い出す。


それはコマンドの標的としてでは必ずしもなく。

別の感情が生まれてきた証しであることを、未だ華裏那は自分で意識していなかった。



(……きっと、大丈夫よ。

きっと…………………………)



今だけは、ハーバーライトに照らされ。

コマンドも忘れ……………

眠りに付きたい華裏那であった。


〈ある少女の物語・完〉

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