FBIの捜査官。
イスロ本部。
ナタリアがトイレに向かう時は日向の白衣に眼鏡をかけ、軍服に着替えた日向も同時に部屋を出て。
"用を足す日向の監視役の兵”
として二人でトイレへ入る。
トイレ室は建屋が元は病院だった為、中で男女に分かれていたのは不幸中の幸いだったが、実際はそれどころではなく。
トイレの為に部屋を出る時さえも緊張の極みであった。
ナタリアは豊満な胸の膨らみを隠す為にバヤルから包帯を持って来て貰い、自らキツく縛り、その上から軍服を着用。
そして帽子を深く被ることにより、外部の眼を欺かなくてはならなかった。
食事や水はバヤルが気を利かし、一人分だが多めに盛り付けして持って来た。
だが………それらも、あくまで"その場しのぎ”であり。
日向達は救援が来るのを、ひたすら待つしかないのであった。
………剣持刑事37歳以下同行捜査員数名は。
イスロ本部捜査の目的で米国連邦捜査局(FBI)と連携する為、ロスアンゼルス空港で担当捜査官と落ち合うこととなった。
機内の席で剣持は。
日本を出発する直前の、由美香の言葉を思い出していた。
(ウチ、もうワガママは言わないよ。
だって……刑事のお嫁さんになるんだもん。
……けど………………けど!
死なないで!!
絶対生きて帰って来て!!!)
その時、由美香の頬を流れた涙が脳裏に浮かび。
剣持は瞼を閉じた。
一向を乗せた旅客機は無事、ロスアンゼルス空港へと到着した。
約束のロビーで、剣持らは出迎えを受けた。
「(初めまして。
私はFBIのジェームズ・マッケンジーです。
"ジム”と呼んでください)」
複数名の黒スーツの男性捜査員"らしき”スタッフを従え、FBIのジムと名乗る男が右手を差し出し。
剣持が応える。
ジムは白人としては決して大柄ではないが、引き締まった体型で黒スーツの似合う、プラチナ・ブロンドの短髪のロマンスグレー。
彫り深い顔の瞳の、人懐っこそうな笑みが。
ベテラン捜査官としての余裕をも感じさせている。
「(初めまして。
日本の警視庁の剣持博巳です。
"ヒロ”で結構です。
よろしく、ジム)」
"ジム”こと、マッケンジー捜査官は。
剣持へ気さくに話しかける。
「(早速ですが、ヒロ。
貴方に差し上げたい物があります)」
ジムは小さな手提げ袋を剣持に手渡す。
剣持が中を確かめると…………
「こ、これは!?」
それは……米国の世界的ミニカー・ブランドである
「Hot Wheels 」(ホットウィール)
のプレミアム・コレクター・アソートだった!
車種は…………米国のパワーを象徴しているとも言える、フォードのレーシング・カーであった。
「(貴方がミニカーのコレクターであると聞き、用意しました。
是非、コレクションに加えて頂ければ光栄です)」
ジムの言葉に、剣持は打ち震えた。
ただ、豪華で貴重なミニカー・セットをサプライズされただけのことではない。
"目標”となる人物のパーソナリティに関する事前調査を怠らない姿勢。
更に、これは…………
事件解決への協力を約束すると同時に、剣持を無事に日本へ帰すことへの約束でもあったのだ。
それは取りも直さず、FBIの威信と誇りを示すものであり。
米国の威信と誇りを示すものでもあった。
そして………
"ジム”マッケンジー捜査官の笑顔には。
これまで数々の凶悪事件に立ち向かって来た気概が、そのまま表れているかのように剣持には見えていた!
「(ありがとう…………
本当に、ありがとう!
ジム!!)」
剣持は、感無量だった。
「俺は、やる!
この大きな味方と共に。
必ずイスロを処罰し、事件を解決する!!」
〈FBIの捜査官・完〉




