08 野営チート
改稿版
ミゲルを見送り、家のベッドに入る悠弥。
刺客たちは、ベッドじゃなくても寝れるというので、好きにしろと、彼はベッドに寝転がった。
少し経った頃、パサッと何かが落ちる音がする。
「お前ら、やめとけよ。そんな事しなくても町までは無事に送り届ける。」
彼女たちは何も答えなかった。
翌日、悠弥は朝から畑に水をやり、倉庫で持ち物を確認する。
家に戻ると、3人娘が起きていた。
彼女たちの表情はすっきりしているが、ミゲルの事が心配なのか複雑な雰囲気が流れている。
「ほら、朝飯だ。」
悠弥はベーコンエッグとパンをテーブルに置いた。
「これは何と言う食べ物なんだ?えっと、、、」
「時任悠弥だ。これはベーコンエッグって食いもんだ。」
彼女たちが口に運ぶと、そのおいしさに舌鼓を打つ。
「なんだこの美味しさは。今まで食べたどの飯よりうまい。」
異世界あるあるだ。この世界も調味料は高い。
その調味料がふんだんにしようされているベーコンエッグ。
この世界の料理はとにかく味が薄い。塩もそれほど使用されていないため、水分が多い料理になると、とたんに薄味になってしまう。そのため、焼き料理が多い。
悠弥は森から出た事がないため、その事情は知らない。調味料も森で採れた種を畑で育てている。
スキルの効果で生育期間が大幅に短縮しているため、胡椒などもある程度のストックを持てるようになった。
「そいつはありがとよ。それ食べたら、風呂に入って、着替えてくれ。」
「な、、、昨日はそのような事はしなくてよいと言ったでは、、、あっ、さては、私たちの魅力に気付いたか。」
サーチャが悪戯っぽく悠弥を見つめる。
「勘違いすんなよ。お前ら、臭いんだよ。」
「なっ!時任、それは失礼だぞ。」
彼女たちは声を荒げる。
「何日、風呂入ってないんだよ。」
「、、、前に水浴びしたのは七日前だな。」
悠弥は、はぁ~っとため息をつき、
「とにかく風呂に入れ。水浴びじゃねぇぞ。ちゃんとした風呂だ。使い方はあとで教えてやる。」
朝食が終わり、悠弥は3人娘に風呂の使い方を説明する。
「なんだこれは?お湯が出てくるぞ!」
「風呂だからな。水浴びじゃないんだよ。」
3人娘はキャッキャッいいながら、服を脱ぎ始める。
「お前ら、俺が出て行ってから、風呂に入れ。」
「なぜだ?一緒に入ってもいいんだぞ?」
黙れ。と悠弥は脱衣所を出た。
「この世界の貞操観念はどうなってんだ。それともあいつらがおかしいのか?」
40歳を超えたおじさんには、若い女性の対応に困るのだった。
30分ほど経って、3人娘は風呂からあがる。
「風呂を初めて入ったが、貴族たちはこれを毎日入っているのか。時任は貴族なのだな。」
「そんなわけあるか。俺は貴族でも何でもねぇよ。森に住む俗世間を嫌ったご隠居さんだ。」
「何か事情があるんだね。多くは聞かないよ。」
4人で昼食を食べたあと、旅の準備を万全にし、昼過ぎに森の拠点を出発する。
「ここから、王都までは何日くらいだ?」
「徒歩だと一ヶ月半ほどだな。」
「昨日、王女が先にいるはずだが、馬車だとどれくらいなんだ?」
「そうだな。護衛も引き連れているから、一ヶ月ほどではないだろうか?」
「結構な長旅だな。」
4人は1日ほどで森を抜ける。
「今日はこの辺で野営するか。」
悠弥はボックスから建築資材を取り出す。
「時任、、、」「悠弥でいい。」
「ん?悠弥は家名じゃないの?」
(そうか、異世界あるあるだな。)
「いや、すまん。俺の名前はユウヤ・トキトウなんだ。俺の地方の慣習で、名前が後ろに来るんだよ。家名もあるが、貴族でもない。それも慣習だ。」
「そうなのね。分かったわ。悠弥、今取り出したこの四角い板のようなものは何?」
不思議そうに見つめるメルノ。
「これか?これは家の壁だな。」
「壁?これが家になるの?」
3人は板をマジマジと観察している。
「プレハブっていうんだよ。」
時間だけは持て余している悠弥は、簡単に建築物を増やせないかと考えて、ブレハブ構造の建築資材をいくつも製作していた。HUDとスキルのおかげで精度は高い。
「お前たちも手伝ってくれ。床をまず置いて、各辺にこの壁を建てる。」
4人であれやこれやと作業を進めていく。
「最後に屋根をおいて、この留め具を差し込むと、、、完成だ。」
おぉ~と歓声が上がる。
「これをあと1棟だな。」
そう言うと、3人娘は早かった。一度やった作業のためか、先ほどとは比べ物にならない作業速度だ。
「よし、あとは内装だが、この壁を設置していってくれ。」
4人で間仕切り壁を設置していく。
「よし、完成だ。」
1時間ほどで、プレハブが完成した。キッチン、トイレ、風呂完備でベッドまで用意されている。
「夕飯だな。」
3人を席に座らせて、悠弥は料理を作る。部屋には香辛料のいい香りとトマトのような酸味と甘味が効いた香りが鼻を刺激している。
「悠弥、この匂いはなんだ?もうヨダレが止まらないぞ!」
ベスティアが今か今かと待ちわびている。
出来た料理をテーブルに置くと、悠弥の顔を見つめる3人。
「食べていいぞ。」
言い終わる前に3人は口にかきこんだ。
「悠弥、、、これはなん、、、という料理、、、なのだ。」
「オムライスだよ。落ち着けよ。食うかしゃべるかどっちかにしろ。」
「わか、、、た、、、いや、、、うまい、、、おかわりはあるか?」
「はぁ~。分かったから、落ち着けよ。」
肩を落とし、ベスティアにおかわりを出したが、瞬く間に平らげてしまい。結局、一人三回おかわりをして、その日の夕食は終わった。
翌日、昼過ぎまで街道を順調に進む悠弥たち、前方から馬車が走ってきた。
「どっかで見た馬車だな。」
馬車は悠弥たちの前で止まる。
護衛たちは戦乙女だ。掲げる旗印は女神の顔に剣と盾。
「戻ってきたのか。」
王女の馬車だ。
悠々と降車する王女。
「あら、時任。ごきげんよう。」
「暢気なもんだな。俺はどっかの刺客に狙われているってのに。それと時任は俺の家名だ。あんたらの国じゃ、ユウヤ・トキトウになるんだったな。」
後ろを見たら、3人娘は膝をついている。
(悠弥、さすがに王族に逆らうのはまずいって)
小声のサーチャが服を引っ張る。
「あら、そうですか。では悠弥と呼ばせていただきます。友達ですから。」
「言ってろ。」
「悠弥の言う刺客と言うのは、後ろの3人ですね。私どもも一人捕縛しました。」
縄に縛られたミゲルがいた。
「バカ野郎。」
「し、仕方ないではないか。王女殿下の暗部に手も足も出なかったんだよ。」
ミゲルは不貞腐れている。
「で、王女様は何で戻ってきたんだ?途中だったんだろ?」
「それは馬車の中で、道中にお話ししましょうか。」
へいへい。と悠弥は3人娘を引き渡し、馬車に乗り込む。
「で、戻ってきたって事は、今回の襲撃騒動と関係あるって事だな。」
「そうです。今回は兄上の暴走により、”お手間”を掛けました。」
「”手間”ねぇ。」
「えぇ、手間です。悠弥にとって、このような事は些事だと思いますが、違いますか?」
悠弥は王女の表情を見て、コノヤロウと思ったが飲み込んだ。
「それで、あんたの兄上ってのは、なぜ俺に刺客を?」
「端的に申し上げると、王位継承権争いです。兄上は私側に悠弥が付く事が気に入らないらしいのです。直接的に命令を下したのは、魔法省のゴークあたりでしょう。」
「それに俺が巻き込まれたと。」
「えぇ、今回の偵察は2回目でした。前回の偵察には、私は間に合わず、今回になってしまいましたが、あの時は私も悔しい思いをしたものです。悠弥のような方がいらっしゃるなら、ギルベルトやシイカの制止など無視したものを、、、」
「王女さん、話が逸れてるぜ。」
「そうでした。前回の偵察でこの森で生活している者がいると報告が入り、それを知った者たちは緊急の案件として、緘口令まで敷かれる事態になりました。」
「あの森に何があるんだ?」
「やはりご存じないのですね。あの森は遥か昔より”無知なる森”と呼ばれている危険な森なのです。東側にヘイルズ山脈、その麓から広がる、、、」
王女の説明は続く。
この無知なる森は、セルザイン王国の北東から南東に広がる広大な森で、東にヘイルズ山脈があり、山に生息するモンスターはもちろん、その麓にある森にも強力なモンスターが跋扈する地域として知られる。
冒険者が立ち入る事はあるが、それは腕試しだったり、未知の素材を求めてだったりと普段は誰も入る事はない。
結界の魔力反応をキャッチした王国は敵性勢力の可能性も考慮し、偵察隊を派遣。
そこにいたのが悠弥だった事が判明。
正体不明の男に接触すべく、2回目の偵察隊を派遣した。
だが、その甲斐も空しく、王女のお転婆で今に至る。
悠弥にとっては、この世界で初めて知る情報ばかり、
「無知なる森ってのは、そんなに危険な場所なのか?」
「それはもちろんだ。無知なる森の悠弥殿がいた辺りはまだ浅いので、私たちでも何とか辿り着けたが、あと少し奥ならば、我々にはどうしようも出来ないモンスターたちに蹂躙されていたかもしれない。」
シイカが割って入ってくる。
「じゃぁ、もう少し奥に作った方が良かったかもな。」
「悠弥、そんな意地悪は言わないでください。」
王女が頬を膨らませる。
「俺は王都に今回の件で話があるんだが、王女様に不都合はあるか?」
「オリビアです。」
「はっ?」
「近しい方々は、私をオリビアと呼びます。」
「王女様にそれはできないだろう。国民じゃないとは言ったが、多少の礼儀は弁えている。」
「悠弥殿、殿下の気持ちを汲み取ってはもらえぬか?立場上、これほど親し気に話せる友人も限られているのだ。」
シイカは申し訳なさそうに悠弥を見る。
「友達が少ないのか。分かったよ。」
「シイカ!悠弥!それはヒドくないですか?もう!!」
3人は笑う。
「それで王都にちょっとお話をしに行きたいんだが、何か不都合はあるか?」
「悠弥がどう考えているかは分かりませんが、王族や貴族に危害を加える場合ははっきり言って、極刑を覚悟ください。」
彼女の眼は笑っていない。
「悠弥の力がどれほどのものか分かり兼ねますが、それを覆すだけの実力があれば、それも可能でしょう。」
「力業じゃねぇか。」
「もちろんそれが正義だとは思いませんが、捕縛できなければ、極刑にもできません。」
「屁理屈だな。」
「でも、あなたがやろうとしている事は、そういう事です。」
「最も、あの森で生活していたとなると、その実力は疑いはしませんが、個人でできる事に限界はあります。」
「まぁ、やるだけやってみるさ。」
「兄上のやり方が間違っているとも思いませんが、自分の者にならないなら、いらないという理屈は子供と同じです。少々、痛い目に遭ってもらったほうがいいかもしれませんね。」
「いいのか、王女様がそんな事言って?」
「私は王位継承権など最初から放棄すると父上には言ってます。悠弥一人が暴れて、それが有耶無耶になるならば、多少の事は目をつぶります。」
「分かった。」
夕方になり、少し涼しい風が吹き始めたころ、
「殿下、そろそろ野営の準備を、、、」
馬車の外から兵士の声が聞こえた。
「分かりました。悠弥、今から野営の準備をしましょう。ずっと馬車で疲れたと思います。少し外の空気を吸いましょう。」
3人は馬車を降りて、各々に行動を始めた。
悠弥はいつも通り、ボックスからプレハブを準備し、4人娘にも手伝わせる。
「悠弥殿、これはなんだ?」
ミゲルはプレハブを初めて見る。
「あぁ、そういえばミゲルは初めてか。これは簡易式の宿泊所だ。」
「悠弥、何をしているのですか?」
そんな様子を見て、興味津々の王女がやってきた。
「見てれば分かる。」
3人娘は慣れたもので、いつものプレハブは簡単に組み立ててしまった。
王女たちがプレハブに入ると、その設備に驚きを隠せない様子。
「悠弥、これはベッドではありませんか?こっちは、、、トイレですか。しかも何ですかこの形は。まさか、、、お風呂まで!?」
王女たちは部屋中を見て回る。
外から兵士が王女を呼びに来た。
「陛下、本日のお食事がご用意できました。」
「呼んでるぞ。」
「悠弥、少し聞きたいのですが、貴方たちはここまでの道中、この設備で夕食を済ませ、夜を明かしたのでしょうか?」
「そうだな。」
「悠弥のご飯は絶品だったな。」
(余計な事を言うな。)
「それはどのような、、、」
王女の視線が悠弥を刺す。
「、、、分かった分かった。今、護衛は何人連れてる?」
シイカが計算する。
「今は大半を先行させたので、20人ほどだな。」
「外に出て、兵士たちも集めてくれ。料理できる奴がいたら、手伝いも頼む。」
「分かりました。シイカ、頼みます。」
二人は足早に外に出て、兵士たちの段取りを整える。その間に悠弥は王女たちにテーブルを用意し、調理セットをボックスから取り出した。
「悠弥は空間収納持ちなのですね。」
「そうだが、珍しいか?」
「それはもちろんです。空間収納持ちは基本的に商人と国家での争奪戦ですね。」
「内緒にしといてくれ。」
悠弥は夕食の調理に取り掛かった。
戦乙女の料理番に工程を説明すると、手際よく悠弥の補助に活躍した。
「これは何という料理でしょうか?」
「それは唐揚げだ。ドリルバードの肉を油で揚げたもんだ。熱いから気を付けろよ。」
王女が一口、口に運ぶと肉汁が広がり、香辛料の香りが鼻を吹き抜ける。
「今まで、このような料理食べた事がありません。非常に美味しいです。」
「それは良かった。まだまだあるから、兵士たちにも運んでやってくれ。」
その夜は、唐揚げで大いに盛り上がった。
夕食も終わり、悠弥が部屋でくつろいでいると、王女たちが入ってくる。
「悠弥、もう一つお願いがあるのですが。」
大体、予想は付いている。
「プレハブか?」
王女は頷いた。
「兵士たちがオリビアのために作った天幕があるだろ?」
悠弥の無情なる言葉を聞いたオリビアは、悠弥のベッドに飛び込み、駄々をこね始める。
「嫌です。私もこのフカフカのベッドに寝たいです。お風呂も入りたいです!!嫌です!!私はここを動きません。こーこーでー、、、」
悠弥は天を仰いだ。シイカを見ると、申し訳ないと頭を下げる。
彼はため息を漏らし、
「はぁ、分かったよ。兵士を集めておいてくれ。部品は出すから、自分で組み立ててくれ。」
悠弥は外に部品を出し、兵士に組み立て方を説明した。
(王女様も年相応って事か。)
組み立てている間、シイカが悠弥に相談を持ち掛ける。
「悠弥殿、これは個人的なお願いになるのだが、王都までの道中、殿下の護衛を引き受け手はくれないだろうか?」
「なぜだ?戦乙女だっけ、彼女たちが護衛してるじゃないか?」
シイカは下を向いて、何か言いにくそうだが、意を決したのか、吐露し始める。
「恥ずかしいが、我が隊はそれほど優秀な部隊ではないのだ。全員が職業軍人ではない。様々な身分の者が殿下のためにと集まっている寄せ集めの部隊。正規軍ではないのだ。」
戦乙女は王女専属の護衛部隊だが、その練度は高くない。
国王バルフェルトは戦乙女設立の際、いつもの気まぐれだろうと許可を出した事が原因で、周囲からお茶会部隊と揶揄され、予算も最初の一回だけで常に存続の危機に瀕している。
2年が過ぎたころ、国王も王女の決意に気付き、予算を割り当てようとした時にはすでに遅かった。王太子による妨害で、彼女たちの待遇が改選される事はなかった。
訓練場もろくに使えず、それを哀れに思い、国境沿いで頻発する小競り合いに参加させ、実績を積ませようとしたが、それも周囲の妨害に遭い、失敗に終わっている。
今のところ、シイカだけで王女の暗殺や襲撃を未然に防いできたが、悠弥襲撃事件で裏社会の”黒鴉”に依頼があったと知り、自分だけでは手に負えなくなると考えている。
「それで、俺に何のメリットがあるんだ?」
「それは、、、今は私も出せるものがない。もし、悠弥殿が望むのであれば、わが身も捧げる覚悟がある。、、、あだっ!」
悠弥はシイカにデコピンをする。
「そんなもん必要ない。」
「し、しかし、、、私も女です。男性受けするだけのスタイルは、、、」
「そういう事を言ってんじゃねぇよ。あれこれ理由を並べるんじゃなくて、普通に頼みにくればいいだろ?俺たちは友達じゃなかったのか?」
「・・・感謝する。」
シイカは嬉しかったのか、自分の不甲斐なさが悔しかったのか分からないが、下を向いたまま震えていた。
「王女様はいい友人を得たな。」
悠弥はシイカの頭をポンポンと撫でる。
「なっ、何をするのです!」
「おっと、すまん。そんなつもりはなかった。ついな。」
シイカは涙目で顔を赤くしながら、怒っている。
「いや、だから、そんなつもりはなかったんだ。すまん。」
プレハブが組み終わり、王女とシイカは部屋に入っていった。
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