07 王子の刺客
改稿版
「よろしかったのですか?」
「刺客のことですか?忘れていました。でも、あの方なら大丈夫でしょう。あのような砦を築けるのです。刺客ごときでどうこうなるはずもないでしょう。」
「そうでしょうが、万が一と言う事も、、、」
「シイカ、心配しても今の私たちに出来る事はありません。信じましょう。」
「そうですね。殿下が、父上以外で初めて興味をお持ちになられた御仁ならば、心配する事もありません。」
「シイカ!」
「違いましたか?」
王女はもごもごと言葉を詰まらせ、赤くなっている。
-悠弥拠点-
「忙しい連中だったな。」
異世界に来て、悠々自適に生活をしていた悠弥だったが、孤独は感じていた。
毎日、森や洞窟に入り、家では道具作りや家具作り、悪くない。そうは思っていたが、どんな理由であれ、訪ねてきてくれた者たちとの交流は、久しぶりの感覚だった。
「友達か、、、」
農作業をしながら、思いにふける。
ただ、異世界に来て、最初に交流ももった人物が王族という事に少し引っかかるものはあった。
これが神(仮)が仕掛けた運命だとしたら、自由に生活するという言葉に疑問を覚える。
異世界ものにおいて、王族や貴族が関わってくる場合、平穏無事に終わるケースが少ないからだ。
必ずと言っていいほど、王位継承権問題や隣国との領土問題など、挙げればキリがない。
悠弥は、これが偶然であると信じることにした。
その夜、不審な気配を感じ、ベッドで目が覚める。
「まだ深夜だぞ。危険察知の目覚ましは、気分のいいもんじゃないな。」
塀の周囲にこちらの様子を窺っているような4つの気配を感じていた。
「結界を破ってくるようなら、警戒しないとか、、、」
窓から外を眺める。
しばらくすると、動きがあった。門や潜戸付近で何かしているようだ。
そろそろか、と悠弥も動き出す。
侵入者はまだ悠弥の気配に気づいていない。
「そろそろか、、、」
一瞬、動きを止めた侵入者の一人が塀を登り始めた。
塀の上には結界が張られているので、侵入者がどうなるか観察している。
「きゃぁっ!」
悲鳴と共に、ドサッと地面に落下した音が聞こえる。
そろそろかと、悠弥は潜戸から外に出た。
「俺に何か用か?」
「!?」
四人は身構える。奥にいる一人は左腕を負傷したようだ。
(モンスターしか試してなかったけど、結構ひどい事になるんだな。)
「構えたって事は、そういう事だな。歯食いしばれよ。」
一瞬だった。悠弥が目の前から消えた時には、四人は反応する事もなく、気絶した。
「チート様様だな。」
悠弥は、四人の間を通り抜け、すれ違いざまに平手打ちしたのだった。
四人を魔法で拘束し、何も入れる予定のない倉庫に運び込む。
「ぶはっ、、、」
悠弥は水をぶっかけた。4人が順番に目を覚ます。
「で、どちら様ですか?」
「くっ、殺せ、、、」
「はははっ、それ本当に言うんだな。」
声で女性だと分かる。この状況でこのセリフ、悠弥は我慢できずに噴き出した。
「何がおかしい!」
「で、どちら様で、何か御用ですか?」
刺客の目の前にしゃがみ込み、顔を覗き込む。
刺客たちは悠弥と目を合わせようとしない。沈黙を貫いている。
「そうかよ。いいぜ、俺にはたっぷり時間はあるからな。いつまでも待ってやるよ。」
沈黙の時間が流れる。30分ほど経っただろうか、刺客の一人が口を開いた。
「我々は何も話さない。早く殺せ。それが我々の覚悟だ。」
悠弥には大方予想がついている。
「いつまでも意地を張るなよ。別にお前の雇い主のところに行って、”お話”してもいいんだぜ?」
「・・・」
「バレてないと思ってるのか?そうか、、、今日はセルザイン王国だっけ?そこの王女様と面会があった。その前にもおたくらの兵隊が偵察に来ていたみたいだが、俺はどうすればいい?」
これは悠弥の憶測である。現状の情報を合わせて、適当に作った話だ。
「お前に話すことはない。これは我々の意思だ。誰の命令も受けていない。」
「なら、俺が直接”お話”しにいっても問題ないな?」
「構わない。私と”あの方たち”とは何の関係もない。」
「”あの方たち”ねぇ。随分、おしゃべりになったじゃないか。」
「ちっ、、、」
彼女たちはまた黙った。
「よし、今からお前たちに俺の力を少し見せようか。」
悠弥はそういうと、四人のうち一人を抱える。
「貴様、何をする!私を手籠めにするつもりか!そんな事で私は屈しないぞ!」
「暴れるな。運びにくい。あっ、他の三人もおとなしくしとけよ。この建物にも結界はあるから、どこにも逃げれないからな。」
悠弥は門の外に連れ出し、乱暴に刺客を地面に置く。
「ぐぇ、、、貴様!こんな外で!!」
「黙れよ。そんな趣味はない。まぁ、見てろよ。」
悠弥が手を広げると魔法陣が展開し、大きな火球が出来上がる。
「なんだ、それは魔法か!?」
悠弥が手を振ると火球は空に浮かびあがり、大爆発を起こした。
「・・・」
それをみた刺客は目を疑うと同時に、体の芯から恐怖が沸き上がる。
「どうみる?」
「・・・」
刺客は震えている。
倉庫に戻った悠弥。刺客を下ろし、再度交渉を試みる。
「さて、お嬢さん。話す気にはなかった?」
彼女は恐怖で何も話せない。
「他の3人はどうだ?こいつの姿を見て、まだ何も話さないか?」
「ミゲル、どうしたの?」
彼女は震えるばかりで、何も話さない。
「貴様、彼女に何をした!」
「ミゲルって言うのか。何、ちょっとばかり俺の力を見てもらっただけだ。」
「あれはダメだ、あれはダメだ、あれはダメだ、、、」
ミゲルはブツブツと同じ言葉を繰り返す。
「ん~、まだ話さないか。」
悠弥は、ミゲルの顔の前で、着火による炎を見せると、
「ひぃ!」
と、悲鳴を上げて、ミゲルは気絶してしまった。
「ミゲル!」
「どうする?」
「・・・殺せ、、、」
彼女たちの決意は固いようだ。
「そうか。なら、待とう。」
悠弥は棚にもたれ掛かり、時間だけが過ぎていった。
1時間ほど経っただろうか、ミゲルが目を覚ました。
彼女はうつろな表情を見せるが、ハッと我に返った。
「話す。全部話す。だから、我々の命だけで許してくれ。」
ミゲルが悠弥を見た。
「やっと素直になったか。」
「ミゲル!何を言っているの?」
「サーチャ、メルノ、ベスティア、すまない。私には、この男を止める手段が思い浮かばない。あいつが町で暴れたら、町も我々の家族も、、、あの男は怒らせたらダメだ。」
「それほどなの?あなたが言うなら、そうなのかも知れないわね。」
サーチャの言葉に、ミゲルは静かに頷いた。
「よし、場所を移すか。一人ずつ運ぶのも面倒だから、今から足の拘束だけ解くぞ。逃げようとするなよ。結界はまだ活きてるからな。」
4人はうなずくと、拘束が解除された。
「よし、行くか。」
倉庫を出た瞬間、ベスティアが逃げ出そうと飛び出した。
「ふんみゅっ!」
もちろん結界に阻まれた。
「だから、言っただろうが。バカなことを考えるなよ。ほら、行くぞ。」
気絶したベスティアを抱えながら、悠弥の家に入った。
ベスティアを起こし、テーブルに座る4人。
「腕の拘束も解くぞ。」
自由になったが、もう逃げる様子もない。
「ちょっと待ってろ。」
悠弥はキッチンに消える。
刺客4人は目を合わせ、部屋を物色しようとするが、
「あっ、部屋には何にもないぞ。」
「ひやっ!」
びっくりた4人は、すぐさま席に着く。
キッチンから戻ってきた悠弥は、お茶を持ってきた。
「なぜです。」
注がれるお茶の匂いを嗅ぐミゲル。獣人の特性で毒の匂いをかぎ分ける。
「あぁ?何がだ?」
メルノに近づき、左腕を掴む悠弥。
「や、やめ、、、」
嫌がるメルノだったが、
「暴れるなよ。」
悠弥は治癒魔法を使う。
「う、腕が治ってる、、、治癒魔法なの?」
「あぁ、その腕じゃ、せっかくのお茶がおいしくないだろ?」
続いて、ベスティアの頭も治癒魔法で治す。
「ほら、食え。」
悠弥の出したお茶と甘味は、彼女らの嗅覚を容赦なく刺激する。
「く、、、くそ、、、この香りは、、、これは仕方なくだ。毒味だ。」
ミゲルは甘味を口にした瞬間、
「なんだこれは、、、」
今までにない甘さと芳醇な香りに、言葉を失った。それを見ていた3人も続いて、言葉を失っている。
ミゲルのさっきまでの恐怖心はどこにいったのか、甘味に夢中だった。
「で、お前たちは誰の依頼でここに来たんだ?」
「詳しくは知らんが、もぐもぐ、魔法省のゴークだな。もぐもぐ」
「今、貴族どもは、もぐもぐ、国王派と王太子派で割れてるからな。もぐもぐ」
「もぐもぐ、大方、王太子派の依頼だろうな。もぐもぐ」
「私たちも、もぐもぐ、ボスに、もぐもぐ、言われたわけじゃないから、もぐもぐ、それ以上は知らん。」
目の前に出された甘味を我先にと口に運んでいる。
「落ち着け。あと全員で一斉にしゃべるな。スイーツはまだある。」
「こんなおいしい甘味を出した貴様が悪い。これは貴様が悪い。」
「そうかよ。必要な情報は手に入ったから、この後、一人だけ解放する。お前の雇い主に”挨拶に行く”って伝えろ。余計な事を話すなよ。」
悠弥の言葉に4人は必死に頷いた。
「私が行くわ。」
ミゲルが手を挙げた。他の3人は何も言わないが、心配そうな顔を見せている。
それは仕方のない事だった。彼女たちは裏社会で生きる者たちだ。
任務が失敗すれば、どうなるかくらい自分たちが一番知っている。
そして、この状況で一番先に危険にさらされる者は最初に報告に行った者だろう。
それを分かっていて、ミゲルは手を挙げたのだ。
「こんな事を言うのは都合がいいかもしれないが、他の3人の事を頼みたい。あの3人は子供の時から、ずっと一緒にやってきた友達なんだ。」
「俺たちも明日の昼には出る。町までの案内役を見捨てるような真似はしないさ。」
「分かった。」
ミゲルは勢いよく駆けていった。
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