06 お転婆王女オルリベイラ
改稿版
-無知なる森・悠弥拠点-
異世界に来て、悠々自適な生活を送る悠弥。
刀の製作が思ったより上々だったため、調子に乗って、槍やら斧、弓までも勢いで作ってしまった。
作った武器などの試し切りや試射などで狩りも捗り、農業もうまく機能し、異世界ライフを楽しんでいた。
しかし、そんな平穏な日々に、水を差す事態が迫っていた。
「ん?モンスターじゃないな。」
気配察知に反応がある。それも1つや2つではない。いつもなら、「モンスターか」と無視しているのだが、明らかにこちらに向かっている。
しばらく様子を見ていると、少し離れた場所で止まる。
「人間か、、、」
塀の上から様子を窺う悠弥。まだ豆粒ほどの大きさだが、何やら動いている。
「何してんだ。」
少しすると馬に乗った兵士が向かってきた。
兵士は少し遠巻きに塀を観察しているようだった。
「調査か偵察ってところか。」
何もしてこないなら、放っておくかと塀から降りて、作業に取り掛かる。
「そういえば、葡萄に似た果物あったんだっけ、、、あったあった、グルプルだ。酒になるってあるから、樽とか用意すればいいのか。」
詳しい説明がHUDに表示される。
「潰す工程とかは魔法で出来そうだな。赤と白があるのはワインと変わらんな。作り方なんて、初めて知ったな。脳内辞書は優秀だな。」
作業をしながら、一日が過ぎたが、相手に何も動きはなかった。
次の日も午前中は狩りに出たが、一人か二人で遠巻きに見ているだけで、特に何も起きなかった。
「バレてないと思っているのか。」
一週間が過ぎた頃、門の前に軍勢が現れた。
「我々はセルザイン王国より派遣された正規軍である。砦の主殿、開門願おう。」
向こう側から大声で叫んでいる。
「何か御用ですか?」
塀の上から悠弥が顔を出す。
「我が主、バルフェルト国王陛下より、この砦の主は城に参上せよとの王命である。」
「お断りします。そちらに危害は加えないので、放っておいてください。」
「これは王命である。」
「だから、知らないって言ってます。用事があるなら、そちらから来てください。客人として、おもてなしはしますので。」
「貴様、不敬であるぞ!」
悠弥は決めていた。異世界と聞いてから、何となく王族とか貴族とかはいるかもしれないと思っていたが、前世でサラリーマンをしていた彼は、毎日のように上司に叱責され、顧客に頭を下げていた日々に辟易していた。
だから、この人生は誰にも媚びず、自分のやりたいようにやろうと。
「ちょっと待っててください。」
悠弥は塀から降りてくる。
「最初から、おとなしく従っておけばよいものを。では、付いてまいれ。」
悠弥と兵士が対面する。
「なぜでしょうか?先ほども申し上げた通り、私は行きませんよ。」
門の前に待機する兵士たちに緊張が走る。
「貴様、まだ言うか。」
兵士の言葉に悠弥は笑みを浮かべる。
「そっちこそ、丁寧に対応しているんだ。今のうちに帰ったらどうだ?」
悠弥の言葉に兵士が剣を抜いた。
(殺したら、まずいよな。)
悠弥はボックスから刀を取り出す。
「抜いたからには、覚悟はできてるんだろうな?」
「この数相手に何を粋がっておる。貴様を拘束して、連行する。かかれっ!」
兵士たちが一斉に飛び掛かってきたが、悠弥は刀を抜かないまま、横からなぎ倒した。
「鞘から抜いてないだけ、優しさだと思ってくれよ。」
「貴様!」
指揮をしていた兵士が飛び掛かってきたが、腕を掴み、投げ飛ばした。
「ぐぅぅぅ、、、」
地面に叩きつけられて、悶絶している。
「ほら、早く帰った帰った。」
落ちていた剣を投げ返す。
隊長らしき兵士は、悔しそうな顔をしていたが、撤退の指示を出し、その場から去っていった。
「結局は遠巻きに見てるわけか。」
それから数日、使者を送りつけては脅迫染みた言葉で、悠弥を城に連れ帰ろうとしたが、彼は頑として、拒否を繰り返してたが、やがてその気配は消えた。
気配が消えてから数日が過ぎたころ、また彼らは現れた。だが、今回は少し様子が違うようだ。
「ん?後発組がいたのか。」
先発隊と合流した部隊がいるようだ。
その後も悠弥は何事も無かったかのように作業を続けたが、
「開門願おう!」
シイカが門前で叫んでいた。何やら豪華な馬車とゾロゾロと兵士も連れている。
「今度はどこぞのお嬢さんか、、、」
悠弥は嫌な予感しかしなかった。
前回のように塀から降りるのが面倒だと思った悠弥は、すぐに門の外に出た。
「どちら様でしょうか?」
「私はセルザイン王国王女オルリベイラ殿下の護衛シイカ・ベントである。」
「これはこれはご丁寧に。」(王女かよ。面倒なのが来たな。)
「・・・貴殿の名前を教えてくれないか?」(名乗りもしないとは、何たる御仁か)
「これは失礼。私は時任悠弥と言います。で、どのようなご用件で?」
面倒事が来たと、悠弥は顔に出ていた。
「時任殿、王女殿下が少し貴殿と話がしたいとの事。お時間を頂けないか?」
シイカは丁寧に対応するが、悠弥は即答する。
「お断りします。」
「感謝す、、、なっ、、、」
「だから、お断りします。」
「殿下の要望だぞ。断れるわけがなかろう。」
シイカは狼狽える。
「それはそっちの都合でしょう。私に王族だの貴族だのは関係ありません。」
悠弥の言葉に、シイカは剣に手を掛けるが、
「お待ちなさい。」
馬車から声が聞こえたと同時に、全員が跪いた。
豪華な馬車から、王女が降りてくる。
彼女は悠弥の前までゆっくりと歩き、
「セルザイン王国第一王女オルリベイラ・クィン・セルザインです。」
「時任悠弥です。」
王女は驚いた様子で目を丸くする。
「なんでしょう?」
「なぜ頭を下げないのです?」
「なぜ下げる必要があるのでしょうか?」
王女の頭に?が見える。
「時任殿、王女殿下に不敬だぞ。」
シイカが悠弥の服を引っ張る。悠弥はため息を落とし、
「はぁ、、、さっきも言いましたが、王族とか貴族とか私には関係ありませんよ。それはそっちの理屈でしょう?」
悠弥の言葉に周囲の兵士が剣に手を掛ける。
「おやめなさい。」
王女が止めた。兵士たちが手を離す。
「わかりました。私はあなたと少しお話がしたいと思い、やって参りました。」
「嫌だと言ったら?」
周囲がざわつく。
「そうですね。お話してくださるまで、この門の前で待ちます。」
「殿下!ここは無知なる森です。そのような事は困ります。」
シイカが慌てふためいている。
「どうか時任殿、少しだけ殿下の我儘に付き合ってくださらないか?」
(今、我儘って言ったか。どっちが不敬だか、、、)
「シイカ!今、我儘と言いましたか?」
「いえ、決してそのような、、、」
「言いました!もうシイカったら!!」
悠弥はおかしくなった。
「何日もいられるとこっちも困るからな。そのお転婆王女様に少し付き合うよ。」
「時任まで!」
周囲は明るい雰囲気に包まれた。
(これが王女か。きっと慕われているんだろうな。)
悠弥は王女とシイカだけという条件で、豆腐ハウスに案内した。
「時任、このソファはどこで買ったのですか?このテーブルとイスは、どこの職人に作らせたのでしょう?」
リビングに入るなり、興味が尽きない様子の王女。悠弥が面食らっている。
「殿下!もう少し落ち着いてください。時任殿が呆れています。」
「シイカさん、いいよ。ここにあるものは、全部自分で作ったものだ。」
「なんと!時任は職人なのですね。」
王女の目は輝いている。
「趣味だ。で、本題はなんだ?」
ソファで向き合う両者。
神妙な面持ちで王女が口を開く。
「率直に申し上げます。時任、私の臣下になる気はありませんか?」
「断る。」
またも悠弥は即答した。シイカが何か言おうとしたが、王女が止めた。
「それはなぜです?」
「やりたくないからだ。それ以外に理由はない。」
「私の臣下になれば、王女直属となるのですよ。」
「今の俺に何の価値がある?俺はこの森で好きな事やって、好きに生きていく。」
二人は悠弥の態度にあっけにとられている。
「時任殿、王女の臣下となる事は国民にとって、非常に名誉なことなのだ。なぜ断る?」
「さっきも言ったが、俺になんのメリットもないからだ。」
悠弥の毅然とした態度に、二人は息を落とす。
「今は無理ですね。」
「これからもだな。」
「意地悪を言わないでください。では、時任がここに砦を築いたのは何故です?」
「生活するためだ。この森には資源も食料も豊富にあるからな。狩りをやって、農業をやって、物作りをやって、生きていく上で何も困らない。」
「ぷっ、、、」
悠弥の顔を見て、王女が笑い出す。
「何がおかしかったんだ?」
「アハハ、、、ごめんなさい。あなたの顔があまりにも楽しそうだったので、つい、、、」
悠弥は恥ずかしくて、照れる。
「では、我が国に対して、叛意があるわけではないのですね。」
「叛意も何もそもそも自分が国民だとも思ってねぇよ。」
「そのようですね。では、お友達ということで、どうでしょう?」
「はっ?」
悠弥は目を丸くする。
「友人です。意味は分かりますか?」
「そういう事じゃない。臣下がダメなら、お友達になりましょうの意味が分からないだけだ。」
「あら、何故です?お友達も国民じゃないからダメという事でしょうか?」
悠弥は考えるが、何も出てこない。王女の意図が読めない。
「友達になるためには理由が必要なのでしょうか?」
王女に見透かされているようだ。
「それはいらないな。」
「でしょう。私はあなたに興味があります。友人になるためにこれ以上の理由はいりませんよね。」
王女の無邪気さに言葉が出ない。
「へいへい。そうですか。」
時刻は昼を過ぎる。
「殿下、そろそろ出発致しませんと、城への帰還が遅くなってしまいます。」
「もうそんな時間ですか、、、分かりました。時任、今回はこれで帰りますが、また会いに来ようと思います。」
悠弥は王女たちを門の外まで案内した。
「では時任、また会いに来たいと思います。あなたから会いに来てくれてもいいですよ。」
「気が向いたらな。」
王女たちは馬車に乗り込み、その場をあとにした。
読んでいただきありがとうございます。
感想・指摘・アドバイスは大歓迎です。
誹謗中傷などは、お控えください。




