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ハーレス王国へ

 悠弥が拠点に戻ると、移住希望者のリストが机に山積みになっていた。コウショウの報告によると、人材募集をきっかけに移住希望者が殺到したとの事。そのあまりの多さに王国側が対応を急がせたようだ。


「悠弥殿、この件はいかが致しますか?」


「コウショウに任せるよ。俺は戦いと物作りは出来るが、内政面に関しては素人過ぎてな。スキルがあっても有効に活用出来る気がしないな。」


「かしこまりました。では、悠弥殿が拡張してくださった場所に移住者用の仮宿舎を建てた後、それぞれの者に自分たちの住居を建てて、定住していただく手筈とします。それから…」


 コウショウの報告と提案が続く。悠弥は彼の話を聞いて、やはりスキルだけでは解決出来ない事もあると改めて考えさせられる。


 この世界には様々なスキルはあるが、それが言語化されているわけではない。いわゆる『才能がある』程度の認識だ。そのおかげもあって、スキルに頼りきりになる者は少ない。剣術の才が認められても、その者は努力する。悠弥が出会ってきた強者たちは、剣術のスキルを持っているが、その才に驕ることなく、研鑽を積み重ねた結果だった。


 魔王国で起きた事、これからの事をオリビアやシイカたちに報告し、勇者たちの動向や聖国の今後の動きについてもしっかり話し合い、その日は終わった。

 フーザについては、「またですか…」「悠弥はどこか行くたびに女性を連れ帰るな。」などと言われながらも彼女を受け入れてくれた。悠弥は「嫁じゃないからな!魔法の研究のために…」と言い訳をしていたが、そんな意見が聞き入れらる事はなく、お開きとなった。


 数日後、悠弥たちは魔王国より以西の国へと出発した。


「馬車も久しぶりだな。」


「もうこれは馬車と呼べるのか?」


 シイカが窓を開け、御者をする悠弥と会話している。この日のために製作した馬車である。すべてにディバネイトを使用したために大幅な軽量化に成功。少し大型化したが、その内装は広く脱着式テーブルまで設置され、この世界では考えられない程の快適さを実現している。


「馬車だろ?少し俺の知識を取り入れて、快適になってるだろ?」


「…すごく快適ではあるが、こんなに乗り心地がいいと、どうも緊張感がな…」


「それは良かったな。ゆったりと旅を楽しんでくれよ。」


 今回の旅はオリビアたちも同行している。久しぶりの旅という事もあって、三人とも喜んでいた。馬車の中では女性三人がガールズトークで盛り上がり、それを聞きながら、馬の手綱を軽快に操作する悠弥。


 道中はモンスターとの戦闘が数回あったが、今のオリビアたちには相手としては不足だった。前線で暴れるシイカを中衛のサラが支え、遠距離から一方的にオリビアが殲滅するというチームワークを見せる。サラは二人に比べて後発なのだが、すでに魔法陣を習得していた。それが種族差なのかどうかは分からないが、そのセンスは卓越したものだった。


「悠弥!私の魔法はどうでしたか?」


 満面の笑みで悠弥を見るサラ。


「サラはすごいな。オリビアたちでも数か月掛かったのに、もう習得したのか。」


「そうでしょう。私はすごいのですわ。フフフ…」


 悠弥に褒められて、サラはご満悦の様子。


「そう言えば、最近、魔法で気付いた事がありますの。次にモンスターが出てきた時に披露致しますので、見ていただけますか?」


 自信を浮かべるサラ。


「楽しみにしとくよ。」


 その機会はすぐに訪れた。


 HUD:

 『黒竜(こくりゅう)


「なぜこんな場所に黒竜がいるのか…」


 悠弥以外の全員が警戒を強めた。黒竜は大陸全域に生息しているが、めったに人前に出ることはない。だが、その力は生態系のトップクラスに位置する。


「では悠弥、見ていてください。」


 サラが魔法陣を展開。


 HUD:

 『魔力集束』『魔力増大』『魔力圧縮』


 魔法陣に魔力と共に炎が集束していく。そして、赤色から青色に変色を迎える。


「まだですの。この先がありますわ。」


 すでにその炎の熱は周囲に影響を与えるほどの熱を帯びている。


「大丈夫なのか?」 


 悠弥も警戒をするほどの熱量だった。


 HUD:

 『プラズマ化』


「はっ?」


 悠弥も言葉は知っているが、どういう現象かは分かっていない。HUDに表示される説明も難しすぎて、理解できない。とにかくすごい変化が起こっている事だけは理解できた。

 少し離れた場所にいた黒竜もさすがに気づき、こちらに向かってくる。


「サラ!黒竜が来るぞ!」


 シイカが剣を構える。オリビアも魔法陣を展開する。その間にも黒竜は翼を羽ばたかせ、こちちらに向かってくる。もう肉眼でもそれと分かるほどに近づいてきた時、


「いきますわ。」


 サラが放ったそれはビリビリと音を立て、ただ一直線に黒竜を貫いた。


「・・・」


 全員が呆然となった。


「悠弥!どうでしたか?」


 またサラの満面の笑みである。


「すげぇな。これはプラズマってやつだ。俺もよく知らねぇが、とにかく凄いやつだ。」


「ぷ、ら、ず、ま?そうですの?魔法陣の練習をしている時に発生しましたの。」


「マジですげぇよ。」


「あの黒竜が一撃で…」


 オリビアもシイカも驚きを隠せない。


「たぶん、オリビアたちも出来るぞ。魔法陣はイメージを固定化した体系だから、少し理屈が分かれば出来るはずだ。」


 悠弥は魔法陣を展開し、プラズマを放ってみせる。


「さすが悠弥ね。もう出来るようになってしまうなんて。」


「サラが見せてくれたから、出来たんだよ。俺にはそのイメージは無かったからな。」


 残念そうな顔をしたサラだったが、その言葉を聞いて、笑顔を取り戻した。


 こうして、悠弥一行はセルザインを出て、魔王国を横断し、大陸西端のハーレス王国に到着した。

 国境の砦を通過し、最初の街に到着した一行。


「やはり聞いていた通りですね。」


 オリビアは街の光景を目の当たりにし、ため息に似た息を落とす。

 『ハーレス王国』。大陸の西端に位置する国である。人口は20万人ほどで、半数はヒューマン種。だが、種族的差別はなく、国の要職にはヒューマン種以外も積極的に採用している。

 そのために、南東部の国境に隣接しているブレイン聖国に度々の工作を受け、国力が衰退の一途を辿っている。魔法石の産地であるため、何とか持ちこたえているが、国民は貧困に窮している。


「人材を探す事も大事だが、来た理由はもう一つあるんだ。」


 宿屋に着いた四人はゲートで拠点に戻り、街の現状と今後の行動について話し合った。


「これまでの情報から、ブレインがあの国に何かしらの工作を仕掛けているのは確かだろうな。概ね、鉱物で栄えた国とは思えない衰退ぶりだった。魔法石の需要が世界でそれほどまでに少なくなった事もないようだからな。」


「えぇ、悠弥殿のおっしゃる通りです。ハーレスの南東部にディグダルという鉱業で栄えている街がありますが、300年ほど前から多くの鉱山が閉鎖に追い込まれ、衰退の一途を辿っています。」


 コウショウが資料を片手に説明する。


「勇者に手が出せなくても、ブレインの勢いを止める手段はある。だから、俺はその街の問題を解決しようと思う。」


「悠弥、そうは言いますが、私たちが勝手に事を起こせば、それはハーレス側としても黙っていないでしょう?」


「確かにその通りだ。だから、魔王の力を借りる。幸いにも魔王国とハーレスは貿易を行っていて、関係はそこまで悪くない。鉱山の閉鎖も強力なモンスターが巣くっているというのが大半の理由だ。」


「そうですね。モンスターでしたら、我々だけでも解決できるかもしれませんね。」


「ガンダルとは既に動いてもらっている。数日中に向こう側からアクションがあるだろう。」


「分かりました。では、私たちは宿屋で観光でもしながら、待機することにしましょう。」


 会議は終わる。宿屋に留守番を置いて、悠弥はフーザと魔法研究をし、他の者は鍛錬に勤しんだ。


 数日後、悠弥のマジックレシーバーに連絡が入る。


「悠弥殿、ハーレス王から謁見の申し出がありました。」


「分かった。」


 ミゲルからの連絡だ。彼女は元黒鴉の諜報員だったが、悠弥が頭領を潰したために組織ごと解体となり、行く当てのなかった黒鴉たちを悠弥が引き取り、暗部として再編したのである。


-ハーレス城・謁見の間-


「貴殿が悠弥であるか。やはり魔王ガンダルから聞いた通りの男よ。王である私を前に礼はせぬか。」


「すまないな。俺は誰にも従わない。俺は良き隣人でありたいだけだ。」


 周囲がざわついている。国王を前に(かしず)く事をしない悠弥を見て、彼は少し笑った。


「よい。私が知りたいのは、この国を蝕む問題を解決できるかどうかだ。」


 今にも口を開きそうな貴族たちを国王は制止する。


「そのために来たんだ。やるだけやってみるさ。」


 だが、そう簡単にはいかないもので、貴族の一人が声を上げる。


「マルタ王、発言をお許しください。」


 国王はやれやれといった感じだ。


「陛下、このような者の発現を信用なさるのは、早計かと存じます。」


 この男はシリウス・ブル。金鷹級貴族ブル家当主である。文武に優れ、国王からの信頼も厚く、国内で強力な発言権を持つ。鉱山事業の責任者でもある。その貴族の発現を無視するわけにもいかず、


「シリウスよ、貴公の言い分は分かるが、その信用をどのように得ればよい?」


「私と決闘をしていただきたい。」


「なんと!?シリウスよ、この者は魔王ガンダルを打ち負かしたと聞いておる。いくら貴公と言えど、それは敵わぬのではないか?」


 国王の心配も当然だろう。だが、それは魔王から直接的に伝えられた者であるための感想であり、他の貴族たちはその件については半信半疑であった。


「お言葉ですが、私ども貴族は彼の実力を疑っております。魔王を打ち負かしたと言っても、直接目で見たわけではありません。どうか、この決闘をお許し願いたい。」


 国王は少し考える。宰相を近くに呼び、少し相談を交えながら、決断を迫られる。


「悠弥よ、貴殿はこの決闘を受けてくれるだろうか?」


 国王の問いに答えは一つしかなかった。ノーと言えば、貴族たちの反対に合い、鉱山の件は許可されないだろう。


「俺は構わない。ただ刃引きの武器でやってくれるとありがたい。」


「では、模擬戦という形にするとしよう。シリウス、それでよいな?」


 これ以上、食い下がっても益はないとシリウスも同意した。


「それでは三日後に闘技場での決闘を開催する。条件は悠弥殿が勝利した場合、鉱山への入山を許可する。シリウス殿が勝利した場合、この件はなかった事とする。両者ともにそれでよいな?」


 宰相が二人を見ると、両者ともに頷く。彼の号令とともに謁見は終わった。悠弥が宿屋に戻ろうとすると、シリウスが声を掛ける。


「悠弥殿、私はシリウス・ブルだ。この度は貴殿と会えた事、とてもうれしく思う。」


「悠弥だ。」


「今回の決闘を受けてくれて、感謝する。」


「いいよ。分かってるさ。貴族とかってのは本当に面倒だよな。」


 悠弥はシリウスの肩をたたく。


「そうなのだ。やはり突然現れた貴殿を信用するには、少し体裁を整える必要があったのだ。私は鉱山を一刻も早く回復させ、この国に富をもたらしたい。そして、国民が皆、飢餓に苦しまぬような国を作りたい。」


「分かってるさ。だが、決闘は本気で来てくれよ。」


「無論。手を抜けば、それがバレた時に貴族の反対材料になりかねん。皆は私の実力は知っている。そんな中途半端なことはしない。」


「それが聞けてよかったよ。」


 結論、シリウスはいい奴だった。今回の謁見にて、悠弥に懐疑的な目を向ける者も多かった。だが、事は貴族の面子や王族の威厳などよりも優先させるべき事がある。それは国民の安全と健康だ。大抵の貴族たちは自分たちの利権や面子を守ろうと必死になるが、彼は違った。


 そして、決闘当日...


 闘技場は観客で埋まっている。この時代の娯楽はとても少なく、娼館や決闘などが娯楽として一般的だった。


「悠弥殿、お時間です。会場へお越しください。」


 廊下を歩いていると観客の歓声が徐々に大きく聞こえてくる。悠弥が会場に姿を見せた頃にはその歓声は最高潮に達していた。続いて、シリウスが入場する。こちらもまた大歓声に包まれた。


「今日は貴公に胸を借りるつもりで戦わせてもらう。」


 フル装備のシリウス。


 HUD:

 『神剣ホルス』


(神剣ってなんだよ。魔法武器とかその類か?しかも刃引きじゃなかったのかよ。言っても仕方ないか。これが貴族のやり方って奴なんだろう。)


「こんな事になって、すまない。」


 多分、剣の事を言っているのだろう。彼も貴族なのだから、周りの圧力に耐えられなかったのだ。刃引きの剣は悠弥側の主張なのだから、貴族側がそれを了承していない。とか何とか理由を付けた。


「気にすんな...さて、やろうか。」


 悠弥が刀を構える。もちろん彼は刃引きである。


「いくぞ!!」


 気合の声を上げながら、シリウスが飛び掛かってくるが、悠弥は難なくその剣を受け流す。


「まだだ!」


 シリウスの斬撃が幾重にも襲い掛かるが、悠弥は涼しい顔でそれを全て受け流した。


「やはり貴公はすごいな。全然こちらの剣が通用する気がしない。話に聞いていた通りだ。」


 二人の攻防を見ている観客は大盛り上がりである。貴賓席にいる貴族たちはシリウスが優勢だと勘違いする者までいる始末だ。


「これが悠弥殿の実力か。シリウス公は我が国の騎士団長にも届く実力だと言うのに、まるで子供を相手にするかのような身のこなしではないか。」


 国王と宰相は悠弥の実力を評価していた。そして、貴族たちの期待とは裏腹に、結果はすぐに分かる。


-ガキーーン-


「まだやるかい?」


 悠弥は一振りだった。シリウスの剣を弾き飛ばし、彼の喉元に刀を向ける。


「いや、降参だ。」


 シリウスは両手を上げて、降参の意志を表した。


「シリウス殿!何をやっておるのです!そのような者に敗北など!!!絶対に何か不正があったに違いない!!」


 貴族たちが騒ぎ立てるが、国王が席を立ち、


「この勝負、悠弥殿の勝利とする!この決闘に異議があるものは直接、王城へ参れ!以上である。」


 国王の宣言で決闘は幕を閉じた。貴族たちはまだ騒ぎ立てているが観客たちはもう帰り始め、国王たちもその場をあとにする。


「ここまで実力差があると、清々しい。」


 シリウスが悠弥に握手を求める。


「世の中はそれほど都合よく出来てないからな。」


 悠弥は彼の手を握る。


「確かにそうかもしれんな。これほど理不尽な力には出会ったことが無い。」


「貴族の理不尽さよりはマシだと思ってるさ。」


 二人は笑い合った。その後、再び王城へ呼び出された悠弥は、鉱山への入山許可を受け、オリビアたちを率いて、問題の鉱山へ入山した。

読んでいただきありがとうございます。


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