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魔法石採掘場①

 鉱山の街ディグダルに到着した悠弥たち。ハーレス王国の使者と共に町長宅へと向かう。


「私はこの街の代表を務めておりますペダスと申します。この度は遠路はるばるお越し頂き、誠に感謝しております。」


 悠弥たちに応対する老人。その表情は憔悴しているようにも見える。


「私はマルタ王の使者である。これより貴公に通達する。ディグダルが保有する鉱山にて、問題が発生している場合は、悠弥殿に協力し、速やかにその問題を解決せよ。との命である。」


「かしこまりました。」


 それだけ言うと使者は町を去った。


「それでは悠弥様、鉱山の問題についてでしたな。」


 ペダスは何か言葉に詰まるような口調で話し始めた。


「現在、我々が所有する鉱山は十二か所あります。そのうち八か所がモンスター()()が原因で封鎖されており、稼働する鉱山は四か所。国の騎士団に陳情書も送りましたが、その返答は未だに来ておりません。このままだとこの街はいったいどうなるのやら…」


 悠弥は少し引っかかる。


(街に入ってから、ずっと俺を付けている気配があるが、これは俺じゃないな…)


 その尾行は殺気などは感じられず、ただ視ているだけに感じる悠弥。話しているペダスは何かに怯えているようにも見える。


「では、一か所ずつ問題を解決していきましょう。ペダス様、ご心配なきよう。そのために我々が来たのですから。国王陛下より入山の許可は頂いております。モンスターが原因であるならば、きっとお力になれると思います。」


 オリビアの言葉にペダスは少し表情を曇らせる。やはり悠弥にはそれが気になった。悠弥たちは宿屋に入り、話し合う。


「先ほども言った通り、明日からは鉱山を一か所ずつ廻るという事でいいですね?」


「地道にやるしかないわな。」


「悠弥、町長宅で何か目配せをしていたようですが、あれはどういう意味だったのですか?」


「やっぱり気付いてなかったんだな。この街に入ってから、ずっと尾行がついてんだ。それにペダスの表情がどうも気になってな。」


「確かに…町長の事は気になりましたが、シイカとサラは気付いていたのですか?」


 二人は頷く。


「もう!私だけが仲間外れだったのですか?」


 オリビアは頬を膨らませる。


「そんなつもりはないさ。だが、俺たちを監視してるってわけじゃなさそうだ。それを裏付けるように、今は俺たちに監視がついていない。」


「では、監視は町長かこの街が対象という事か?」


「だろうよ。また俺たちが鉱山に行けば、話は違ってくるんだろうが、今は憶測の域を出ないな。」


「鉱山の再稼働を阻止したい者がいるということですわね。」


「町長の話もそうだ。王国に陳情書が届いていない可能性がある。それを一番に望んでいるのはブレインだろうが、この国の貴族の可能性も排除できない。」


「この国の貴族がですか?それは考えにくいと思います。魔法石の輸出が止まれば、困るのは平民だけではありません。貴族も困るはずです。」


 オリビアは少し興奮気味に話す。


「オリビアが言いたい事は分かるが、それは理想の貴族だった場合の話だ。貴族も人なんだ。その欲望に際限はない。国が傾くよりも多くのメリットを示されれば、人の心なんて簡単に傾く。」


 悠弥の言葉を聞いたオリビアは少し俯く。頭では分かっているのだろう。だが、その現実を受け止められない心が葛藤を生んでいる。


「私も元王族です。民が困っているのなら、今はその事について、議論を深めても問題は解決しませんね。」


 何か言いたそうにしているが、オリビアはそれを飲み込んだ。


「やっぱりお前は強い女だな。」


 町長におおまかな地図をもらい受けた悠弥たちは翌日、鉱山へ向かい出発する。


-ディグダル第四鉱山-


 そこはモンスターの巣窟と化していた。出てくるモンスターはそれほどのものでもないが、すでに坑道からあふれ出たモンスターで入り口は塞がれていた。


「悠弥、この坑道から何か嫌な魔力が感じられますわ。」


 遠目で様子を窺っている悠弥たち。その坑道を見て、サラが言う。悠弥が彼女を見つめるとHUDが反応する。


 HUD:

 『魔力感知』


 サラのスキルの一つである。本人はスキルである事は自覚してないが、彼女には魔力が色となって認識できる。悠弥に一目惚れしたのもこれが原因の一つでもある。


「まずはモンスターをどうにかしないとか…」


 入口付近に溜まっているモンスターだけでも十数匹はいるだろうか。悠弥は魔法陣を展開。


(”鎌鼬(ブレード)”)


 放たれた魔法は見えない風刃の竜巻となって、入り口のモンスターを斬り刻んだ。


「やはり悠弥の魔法は面白いです。今のは風の魔法ですね。」


 オリビアたちが感心している。


「ここまでくると俺でも感じ取れるな。坑道はモンスターで溢れかえっているな。」


 入口からでもその数は相当なものだと感じられた。


「外にいたモンスターはこの坑道内での生存競争から敗れたのだろうな。中には先ほどのモンスターよりも強力なものがいると思って間違いないだろう。」


 サラは剣を抜く。それに続いて、全員が武器を手に取った。坑道内は虫型のモンスターが多く、排除にそれほど手間取らなかったが、奥に進むに連れて、少し様子が変わってくる。


「悠弥、またです。これを見てください。」


 オリビアはモンスターの死骸を見る。


「まるで何かに溶かされたような痕だな。」


 シイカは剣で地面に転がるモンスターの体を確認する。


「!?」


 悠弥の危険察知に反応がある。坑道の奥から何かが近づいてくる。


「全員、構えろ。何か来る。」


 それは音もなく、生命体独特の呼吸音なども聞こえない。だが、気配はどんどん大きくなってくる。


「来るぞ…」


 だが、そこには何もいなかった。


「気配はある。どこだ…」


 悠弥が慎重に辺りを見廻すが、HUDに反応もない。


「悠弥!上!!」


 気付いたのはサラだった。天井から何かが落ちてきている。


(”シールド”)


 落ちてきたそれは悠弥が展開したシールドに乗った。


 HUD:

 『粘性体(スライム)

 ☆雑食

  狡猾

  この世界では確認されていないモンスター。

  強力な酸で敵を消化する。物理攻撃が一切通用しない。


「スライムかよ。」


「何ですか、そのスライムというのは。モンスターですか?」


「あぁ、モンスターだ。俺が知ってるやつとは少し違うが、油断するなよ。物理攻撃が通用しない。」


 スライムと言えば、一般的にやられ役になる事が多いが実際は違う。スライムの体組織は液体であり、一切の物理攻撃は通用しない。下手に攻撃を加えれば、自身の武器がその強力な酸で溶解してしまうだろう。その酸は竜型モンスターであっても耐えることができないほど強力である。有効な手段としては、高熱で蒸発させるか低温で凍らせて、身動きを封じるかである。ただし、凍らせる事はあまり推奨できない。


「魔法で戦えという事か?」


「多分な。」


「多分とはまた大雑把ですわね。私がやりますわ。」


 サラがスライムに火魔法を放つ。スライムに意思があるのかどうかは分からないが、奴はそれを躱す。


「おいおい、躱すのかよ。スライムがそんな速度で動いてんじゃねぇよ。」


 今度は悠弥が魔法を放つ。


(”フレイム”)


 高速の火の槍がスライムを襲う。さすがにこれは反応できなかったようだ。


「やっぱりまだ悠弥には敵いませんわね。」


「もっとイメージを膨らませれば、サラも出来るようになるさ。」


「悠弥、あのスライムというモンスターは見た事も聞いたこともありません。」


「そうだと思う。俺のスキルにはこの世界の確認されていないってあったからな。新種なのか違う世界から来たのか。今は考えても仕方ないな。先に進もう。」


 そのあともスライムと遭遇したが、彼らの魔法の前では無力であった。


「悠弥、そろそろ嫌な魔力が近いですわ。」


 奥に進むにつれて、サラの表情が硬くなっていく。


「何かいるな。それも()()()()な奴だ。」


「悠弥がまぁまぁだという事は私たちには強敵という事か…」


 彼女たちに緊張が走る。そろそろ最奥に到着しようとした時、


「悠弥、ここからでも分かります。これは私たちでは対処できないかもしれません。」


 オリビアが息を飲んだ。奥は部屋のような空間になっており、その入り口からは何か禍々しい雰囲気が漂っている。


「奥は少し広い空洞になっているみたいだな。その中央付近にやたらとヤバい奴がいやがる。」


 肌にピリピリとした感覚が伝わってくる。最奥に近づくにつれ、それは痛みを感じる程に強くなっていく。


「悠弥、私はこれ以上進めそうにありません。後ろからの敵に警戒致します。」


「情けないが、私もだ。」


「私もですわ。お父様にもこれだけの魔力を感じる事はありませんのに…」


 三人は入口付近で待機となった。


「分かった。俺が何とかするさ。ここで待っててくれ。」


 そう言うと悠弥は平然と奥の空間に歩みを進めた。


「ほう。ヒューマン種ですか…」


 その禍々しい空気を放つモンスターが言葉を発した。


「会話出来るのか。」


 HUD:

 『悪鬼(デビル)

 ☆魔界より召喚された悪魔。非常に好戦的だが知能は高く、それぞれの武器を持つ。


「脆弱な種族がここに何の用でしょうか?」


 悪鬼は高慢な態度で悠弥を見下している。


「この坑道の掃除を頼まれてね。お前が原因なら、対処しないといけねぇんだ。意思疎通が出来るなら、退く気はあるか?」


「それは無理なお願いですね。こちらにも契約がありますので、あなたにはここで消えていただくとしましょう。」


 悪鬼が両手を広げると、黒い煙が発生し、モンスターが発生する。


 HUD:

 『小悪魔(インプ)

 ☆一般的に悪魔とされているモンスター。この世界のものではない。魔法が使えるほどに知能は高い。


「お前ら、何モンだよ…」


(ペダスはこれを隠してたのか。)


 町長の言葉が引っ掛かった理由だった。


「それをあなたが知る必要はない。」


「そうかよ。」


「では、蹂躙を開始しましょう。」


 悪鬼の合図で、インプたちが悠弥目掛けて、一斉に襲い掛かった。


「・・・なるほど・・・」


 先程まで悪鬼の周囲にいたインプたちが消えていた。


「どうやら、私の目に狂いがあったようですね。なるほど、なるほど・・・」


 また悪鬼の周囲に黒い煙が発生し、さらに多くのインプが呼び出された。


「そんな雑魚を呼んでも、結果は同じだぜ。」


 悠弥が刀を振ると、インプが消し飛んだ。


「あがっ・・・」


 悪鬼の四肢も切れている。


「話してもらおうか?」


 悠弥が悪鬼に近づく。


「あなたは何者なのです。」


 悪鬼は苦しそうだ。だが、それほどの傷を負いながらもまだ生きていた。


「俺が何者かはお前たちに関係ない。俺はこの問題を解決するだけだ。」


 悠弥が刀を悪鬼の首に当てる。


「そうですか。では、早く私を殺しなさい。」


「やっぱり無理か。」


 悠弥は悪鬼の首を撥ねた。しばらくすると、悪鬼は黒い霧となって、消えていった。入口付近でこちらの様子を窺っていたオリビアたちは、悠弥の戦闘が終わった事を確認すると、空洞に入ってくる。


「悠弥、戦っていたモンスターは…」


「悪魔って分かるか?」


「悪魔族ですか?」


「種族としてあるんだな。」


「そうですね。悪魔は300年前の戦争時に出現し、魔王の手先とされた種族です。聖国以外の国はそのような認識ではないのですが、その力はとても強力で、悪魔が一体いるだけで国が傾きかけません。彼らは破壊と殺戮以外に目的が無いとも言われており、意思疎通もできなかったと教えられました。」


(意思疎通が出来ないか…なら、あいつは何だったんだ?)


「悪魔はここで何をしていたのでしょうか?」


「あそこにある像だろうな。」


 そこには女神像が立っていた。


「これはミーシア様の女神像ですね。これがモンスターや災害からこの坑道を守ってくれていたのでしょう。」


「女神像にそんな効果があるのか。」


 悠弥は女神像を見つめる。


 HUD:

 『女神ミーシア像(邪神の祝福)』

 ☆ミーシアを模した石像。女神の祝福を受けた像は災厄から守護する効果が得られる。


「オリビア、この女神像は何か変だぞ?」


「どういう事です?」


「邪神の祝福ってのが掛かってるらしい。」


「邪神の…ですか…ごめんなさい。私にも分かりません。ですが、それが良くないことだけは分かります。女神像は教会で特別な儀式を施して、モンスターや災害から守ってくれるものです。坑道にモンスターが溢れていたことや悪魔が出現した事を考えても、この女神像に何か問題が発生している事は明白でしょう。」


 悠弥は女神像に触れてみるが、特に何も起こらない。


「これは呪いになるのか?」


「私にもこれは初めてなので、分かりません。悠弥のいた世界で呪いがどういう扱いなのか分かりませんが、少なくとも私たちの世界で呪いが何か影響を及ぼすような事は聞いたことがありません。」


 HUD:

 『邪神の祝福』

 ☆邪神より授かる恩恵。その効果は様々である。


「…呪いじゃないってか。」


 悠弥は女神像を注意深く観察する。オリビアたちは周囲を調査する。しばらく経った頃、悠弥が異物を見つける。


 HUD:

 『邪神の欠片』

 ☆邪神の祝福を受けた宝石。


「オリビア、この宝石が原因らしいぞ。」


 その宝石は女神像の首の裏に埋め込まれていた。


「取るぞ。何が起こるか分からないから、警戒だけはしててくれ。」


 悠弥が宝石の淵にナイフを差し込んだ時、


「なんだなんだ?アスタの存在が無くなったから来てみりゃ、ヒューマンが何やってんだ?」


 入口から何者かが入って来た。

読んでいただきありがとうございます。


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