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悠弥と魔王、再び・・・

 昼食も終わり、次は魔王との対戦が待っていた。


「さて、悠弥よ。我と本気の戦いをしようではないか。」


「行こうか。」


 再び訓練場にて、悠弥と魔王は対峙する。


「前回のような無様は晒さぬぞ。」


「いいぜ。」


 悠弥は刀を抜いた。魔王も剣を抜く。


「模擬戦で刃引きしてあるとは言え、当たれば、ただでは済まぬぞ。覚悟せよ。」


「当たればな…」


「ふん、言いよるわ。」


 動いたのは魔王だった。一気に悠弥との距離を詰め、一文字。


-ガキン!-


「よく止めた。」


 眼を合わせる二人。魔王は楽しそうにニヤリと笑う。


「お喋りさんだな!っと。」


 悠弥が返しに刀を振るが、魔王が後ろに飛び、空を切る。


「挨拶は済んだか?」


「ぬかせ。我の斬撃を涼しい顔で受けおって。」


 また魔王が仕掛ける。激しい斬撃が悠弥を襲った。


 鳴り響く剣戟。


(魔王もそっち側だったか...前回、剣勝負だったら、やばかったな。)


「どうしたのだ、悠弥!貴公の実力はそんなものではあるまい!」


「まだ様子見だよ!」


 防戦を強いられる悠弥。それを見ている魔王は少し満足そうである。


「我の鍛錬も無駄ではなかったという事か。」


 魔王の手は止まらない。


「あぁ、すげぇよ。だがな!!」


 魔王が上段から真向に斬りかかる瞬間、悠弥は彼の剣を下から突き上げるように弾いた。


「くっ...」


 魔王の手から離れた剣が地面にカランカランと、音立てて転がっている。


「まだ届かぬか…」


 痺れる手を見つめる魔王。


「まだ終わりじゃないんだろ?」


「無論だ。」


 魔王は手を握りしめ、剣を拾う。


「まだ我は全てを見せておらぬ。ここで終われるわけが無かろう。」


 彼はまた中段で構える。


(突きが来る…)


 悠弥の予想通りだった。魔王は突きを出そうとしている。それは彼にも分かっているだろう。だが、彼にはそうするしかなかった。魔王の斬撃の全てを受けきる悠弥に、もう選択肢は残されていなかった。


「とんでもねぇ集中力と気迫だな。」


「我も魔王である前に一人の戦士よ。」


 そう。ガンダルは魔王である。しかし、その本質は魔族。彼らは闘争本能に素直な種族である。だが、魔王という立場であるが故に、その本能を理性で抑え込んできた。

 だが、今、眼前にはその立場でさえ関係ないと思えるほどの好敵手(せんし)が立っている。彼は心の底から喜びを感じていた。


(サムライ)だな。」


「サムライが何か分からぬが、誉め言葉として受け取っておこう。」


「褒めてんだよ。」


「で、あるか...」


 話し終えるかどうかの瞬間、魔王の切先が消える。それは刹那の時間...『無拍子(むびょうし)』。


 魔王は意識していなかった。だが、そのタイミングは奇しくも()()であった。


 真っすぐに悠弥の喉元に伸びる剣。それは朧げに見えるほど速く、そして、美しかった。


「!?」


 悠弥が気付いた時にはその切先は喉元に迫っていた。


(ガンダル…ソウザ(あいつ)と同じかよ...これは返せないかもしれん...)


 悠弥は刀で彼の剣筋を変える。それに余計な力は必要なかった。だが、その速度に返しが追いつかない。剣と刀が擦れあう音が響き、それらから火花を散らす。


(これも届かぬのか…)


 魔王の脳裏に少しの雑念が入り込んだ。それを悠弥は見逃さなかった。悠弥は魔王の頭部に強烈な回し蹴りをお見舞いした。


 両者の動き(とき)が止まる...


「どうなったの...」


 見守る周囲。二人の戦闘速度は目で追うには速すぎた。


-ドサッ-


 倒れたのは魔王だった。


「魔王様!」


 心配して、駆け寄ろうとするフーザ。魔王はまだ意識があるようで、彼女を制止する。


「待て…我は大丈夫だ…」


 魔王は悠弥を見る。


「悠弥…まだ我は…終わっておらん…」


 魔王は肩で息をしている。


「そうかよ。なら、早く立て。」


 悠弥は刀を構える。息も絶え絶えに立ち上がる魔王。


「ふぅ…」


 息を整え、魔王は剣を構えた。立っているのもやっとであろう彼は意識を集中する。その深い集中は実戦とは程遠い事ではあったが、それも重々承知の上で悠弥は待った。


 魔王はもう一度、ゆっくりと呼吸を行う。


 そこには気迫や殺気など、存在しない。ただあるのは己のみ。深い集中によって生み出された現象は『無の境地』と言えるのかもしれない。


(魔王様…)


 祈るように手を合わせるフーザ。


(お父様…)


 魔王の本気を初めて目の当たりにするサラ。もう応援の声を上げようとするものはいなかった。


 微動だにしない魔王と静かに時を待つ悠弥。


 その瞬間は訪れた...


 魔王の体が少し虚ろうような感覚を悠弥が感じた時、魔王の切先が胸を狙っていた。


(マジかよ!見えなかったぞ…)


 咄嗟に刀で剣を逸らす悠弥。ここまでは先ほどと何も変わらない。だが、その一撃が悠弥の思考をほんの少し遅らせた。悠弥が返す刀で魔王の胴を薙ぎに行くと同時に、魔王がほんの半歩、後ろに引く。その動作はあまりにも自然に淀みが無く、悠弥はそれに気付けないほどであった。


(取った!)


 魔王の脳裏にほんの少し浮かんだ邪念…

 悠弥の刀は魔王の体、一寸手前で空を切り、体勢が崩れた悠弥の胴に魔王の剣が静かに、だが確実に近づいていく。


-ドンッ-


 鈍い音が訓練場に響き渡った。


(どうか…)


 その音で目を開けるフーザ。彼女が見た光景は、期待を裏切る結果となった。


「魔王様!」「お父様!」


 駆け寄る二人。サラが体を起こし、フーザが回復術を施す。


「我の負けであるな。」


 少し回復した魔王。だが、その表情はスッキリとした顔だった。


「いや、剣だけで勝負したかったが、足が出ちまった。剣術だけなら、結果は違っていたさ。」


 悠弥の言葉を聞いた魔王は少し笑う。


「貴公から、それが引き出せただけでも我は満足よ。もっと修練を積まねばならんな。」


「マジかよ…これ以上強くなられるとこっちが困るぜ。」


 二人は笑い合う。魔族にとっては、これが一番の交流なのであろう。


「あのぉ...」


 フーザが申し訳なさそうに話に割って入る。


「二人の戦いは最後はどうなったのでしょうか?」


「そうですわ。私にも目で追えなかったので、説明をして欲しいです。」


 フーザとサラに、魔王と悠弥が解説する。


 悠弥の刀が空を切り、魔王の剣が彼の胴に届くかと思われた直後、体勢の崩れた悠弥はその勢いを利用して、体を倒し、魔王の剣を躱すと同時に側頭部への後ろ回し蹴りをお見舞いした。

 魔王から見れば、自分の剣が躱されるとは思っておらず、自分の視界の外から飛んできた回し蹴りに何が起こったのか分からなかった。気が付けば、自分は床に倒れていた。


「――――これが最後の結果よ。完全に我の負けであるな。はっはっはっ!」


 魔王は盛大に笑った。


「最後に勝ち気が見えたからな。あれがなかったら、危なかった。」


「そうか。確かにそうかもしれんな。貴公に勝てると考えた瞬間に、最後の最後に欲が出たわ。」


「いい勉強をさせてもらったよ。」


 二人は固く握手交わし合う。


「悠弥よ、今日は宴にしようではないか!フーザよ、四魔将も招集せよ。全員でこの出会いを改めて祝おうではないか!」


「かしこまりました。では、準備があるため、ここで失礼いたします。」


 フーザは一礼し、訓練場から出ていった。それを見届けた魔王が悠弥に相談を持ち掛ける。


「悠弥、我の頼みを聞いてくれないか?」


 勝ち気な魔王にしては、控えめな態度だった。続けて言う。


「フーザを貴公の仲間として、迎え入れてほしいのだ。」


 悠弥は予想してなかった相談に困惑する。


「そんな事して大丈夫なのか?」


「率直に申せば、魔法部隊の要であるフーザがここにいないというのは少々不安が残る。だが、それ以上に貴公の元で鍛錬をするほうが有意義であると考えたからだ。あの者の魔法がより習熟すれば、それは魔王国の絶対的な財産と成りうる。」


「勇者がいつ動くか分からないなら、少しでも強くなったほうが最善か…」


 悠弥は悩んだが、サラの言葉で心が決まる。


「悠弥、フーザは魔法のスペシャリストですわ。彼女があなたの元へ来るならば、必ず役に立ってくれる事でしょう。それに私も彼女をサポートします。この提案をお受けください。」


「分かった。フーザを一時的に()()()事にする。それに俺も彼女の魔法については学びたいと思った事だしな。」


「感謝する。よし、それでは宴の準備が終わるまで、少し話でもしようではないか。」


 こうして、悠弥は魔王国側と今後の魔王国の動きや悠弥たちの動きを話し合い。夜に行われた宴を楽しんだ。


 翌日から、久しぶりのサラの帰省という事もあり、彼女は両親と共にひと時を過ごし、悠弥は四魔将たちと情報交換を行っていた。


 二週間あまりが過ぎた頃、悠弥たちは帰省の路についた。


「悠弥、フーザをよろしく頼んだぞ。」


「それはお互い様だ。何かあったら、すぐに伝玉改(それ)で連絡してくれ。」


「では、また会おうぞ。フーザも悠弥の元で学び、さらに高みへと昇って見せよ。」


「このような機会を与えてくださり、魔王様には感謝しかありません。必ずや勇者どもを止める力を手に入れて見せましょう。」


 フーザは丁寧に一礼し、悠弥のあとに続いて、ゲートを潜っていった。

読んでいただきありがとうございます。


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