四魔将フーザ①
魔王国領に火車が侵攻してきた頃、
「ザンム様、、、ご報告があります。」
右腕を火傷した魔族の男が息も絶え絶えに部屋に飛び込む。
「おぉ!?あんれ~、左腕、どうしちゃった?」
ザンムと呼ばれた少年にも見える男。
彼は魔王国四魔将の一人である。主に諜報活動を担っている。
「ブレイン聖国との国境を勇者が侵攻しております。」
「それで~?君たちはどうしちゃったの?」
ザンムが男の顔を覗き込む。
「それを、、、阻止すべく応戦致しましたが、、、」
男は恐怖で震えている。
「ザンム、おやめなさい。彼が震えているわ。」
魔族の女性がザンムを止める。
「だってさ~。」
「だってじゃありません。怯えているではありませんか。」
「フーザ様、、、」
四魔将フーザ。彼女は魔法戦のスペシャリストである。悠弥が使う魔法陣とは別に紋術という魔法体系を確立し、その才を発揮している。
「何があったのか教えてください。」
彼女は男に治癒紋法を掛ける。
「我が領土に侵攻している勇者は、情報にあったゴウ・ヒグルマではないかと思われます。特徴や魔法が一致していまいす。」
「あぁ、あの火の魔法を得意としている少年ですね。分かりました。私の部隊で対処いたしましましょう。」
「申し訳ありません。」
男は部屋を出ていった。
「これよりフーザが出ます。魔王様へ連絡と我が部隊100名は、私と一緒に勇者のいる南部へ赴きます。」
彼女の号令と共に、魔王城内は動き始めた。
「では、参りましょう。」
フーザ率いる魔法部隊100名が魔王城を出陣した。
-現在-
「なんだ、てめぇ!」
火車はフラストレーションを募らせる。
「激しい男性は嫌いではありませんが、思慮に欠ける男性は好みではありませんわ。」
彼女は指で何かを描く。
「”情熱の接吻”」
フーザから火球が放たれる。
「はっ、炎勝負か!」
火車も魔法を放ち、双方の魔法は相殺される。
「よく見ると、いい女だな!焼かれる前に俺の女になれ。てめぇの体なら、一晩中可愛がってやるぜ!」
「ふふふ、まるで子供の我儘ですわね。あなたは趣味じゃありませんわ。」
「そうかよ!なら、燃えろや!」
魔法を放つ火車。また指先で紋様を描くフーザ。
「”女神の抱擁”、これくらいかしら?」
彼女は余裕の表情を見せる。
両者の魔法は中央付近で混ざり合い、火車の魔法を飲み込み、彼を襲った。
「がぁぁ!くそがよぉ!」
火車の体が燃え盛る。
「女神の熱い抱擁はいかがかしら?」
火車は全身が焼ける感覚に苦しんでいる。
「黙れよ!俺が最強なんだよ!ふざけんな!」
彼の体を燃やす炎が勢いを増す。
「あら、さすがは勇者といったところかしら。」
「ぶっ殺す!!」
火車を燃やしていた炎は、彼を纏う炎へと変わっていた。
「自分の力に変換しましたか。少し見直しましたわ。」
「るせぇよ!上から言ってんじゃねぇよ。てめぇの炎なんざ、火遊びにもなんねぇよ!」
火車は魔法では勝負が着かないと思ったのか、近接戦に持ち込もうと、飛び込んだ。
「”魔神の御手”」
「何しようが、効かねぇっつてんだろうがよ!」
フーザは焦る事なく、紋術を詠唱する。フーザが少し微笑みを見せたその時、
-ガンッ-
まるで壁に激突したような音を立てて、火車が吹き飛び、地面に叩きつけられる。
「”小人たちの悪戯”」
彼女は隙を見逃さずに次の詠唱を終えていた。
「つぅ、、、このや、、、!?」
火車が立ち上がろうとしたが、股下がすべて凍っていた。
「何しやがった!!てめぇ!!」
彼は氷を溶かそうと魔法を試みるが効果が無く、地面に這いつくばっている。
「ここまでのようですわね。どのような魔法を使うかと思い、少しお相手致しましたが、もう十分ですわ。」
火車に止めを刺そうと、ゆっくりと近づくフーザ。
「ざっけんなよ!!」
魔法をぶつける火車だったが、フーザには届かない。
そのうちに火車は魔力が底を尽き、少しの魔法も出なくなる。
「楽しかったですわ。」
火車の耳元で妖艶に囁くフーザ。彼女が止めを刺そうとした瞬間、
「!?」
彼女を狙う一筋の光が森の奥から解き放たれる。
咄嗟にフーザは火車から距離を取る。
「横やりですか、、、出てきなさい。」
その方向を見るフーザ。
「いやぁ、素晴らしい。さすがは魔王国四魔将殿。」
男が聖騎士団と共に姿を現した。魔法か何かで姿を消していたようだ。
「魔力の乱れを感じたのは、あなた方でしたか、、、些事だと思い、見逃していましたが、邪魔をするなら、お相手致しますわよ。」
フーザが紋様を描こうとする。
「いえいえ、私は勇者様をお迎えに上がった次第。それにこちらは聖騎士団もいます。一戦交えても構いませんが、双方に被害が出ると思いますが?」
(火車め、暴れるのは構いませんが、四魔将のフーザはまずいですよ。)
男は額に汗を滲ませる。一戦交える事も頭によぎる。
しかし、フーザは手を下ろす。
「あなた、お名前を教えていただけますか?」
「これは失礼。私はブレイン聖国大司教ベイゾン・クラブと申します。以後お見知りおきを。それで、勇者様を回収してもよろしいでしょうか?」
火車は話も聞かず、もがいている。
(結構な大物が出てきましたわね、、、大司教クラスですと、この兵力では、、、)
フーザは即座に思考を巡らせ、決断する。
「いいでしょう。今回はこの勇者の独断専行という事で、聖国側に侵略の意図はないという事にしておきましょう。」
「温情痛み入ります。それでは私どもはこれにて、、、」
「てめぇら!離せよ!おい!」
状況を理解していない火車は聖騎士に抱えられながら、文句を垂れ流していた。
聖国軍の姿が見えなくなった事を確認したフーザ。
「取り逃がしましたわね。」
少し肩を落とす。
「フーザ様、いかがいたしますか?」
「近くにいるザンムの部隊に彼らが国境を出るまで監視を付けなさい。もし、国内で怪しい動きを見せた場合は、我々が再度出ます。」
「かしこまりました。」
兵士は駆け足で立ち去った。
「帰還致します。」
フーザは踵を返し、魔王城へ帰還する。
-魔王城・四魔将フーザ自室-
バルコニーのテーブルで、静かにお茶を嗜む彼女の姿があった。
「ダメですわね。もっと魔法を研究し、力を蓄えなければ、、、」
その哀愁を漂わせる横顔に、執事も見惚れるほどである。
「では、悠弥殿に協力を求めてみてはいかがでしょうか?」
執事の提案にフーザの表情はこの上なく上気する。
「あぁ、悠弥様、、、魔王陛下との一戦。あの防御魔法は見事でした。」
身悶えするフーザ。何か悪寒を感じる悠弥。
「ぜひとも、あの方の御傍であのからだ、、、魔法を研究したいものですわ。」
あまりの浮かれように執事も呆れるほかなかった。
フーザが妄想に耽る中、自室に彼女を呼びにきた兵士。
「フーザ様、魔王様がお呼びです。」
彼女は姿勢を正し、
「承知いたしました。すぐに向かいます。」
-魔王城・謁見の間-
「フーザよ。報告は聞いておる。貴公から見た勇者はどのようであった?」
「この度、勇者ゴウ・ヒグルマとの一戦、正直に申し上げれば、大変退屈なものでした。」
「ほう。それほどまでに軟弱であったか?」
「300年前の勇者と比べれば、それは児戯のごとく。戦術も知性も何も感じられる事はなく。ただ力に酔い、それを我儘に振るう子供のようでございました。」
ふむ。と魔王が間を置くと、ブロンガスが割って入る。
「だが、逃げて帰って来たのであろう?おぬしもまだまだ鍛錬が足らんのではないか?がはははは」
フーザはブロンガスを睨みつける。一触即発の空気が広がる。
「やめよ。フーザも逃げたわけではあるまい。」
魔王の一言で場は収まる。
「陛下、勇者に止めを刺せず、その場を去った事も事実でございます。その責は私にすべてがございます。」
「貴公を責めてはおらん。報告書では聖騎士団と大司教クラスの援軍があったとある。こちらに死傷者が出なかっただけ、良しとする。」
「寛大な処置に感謝いたします。」
フーザは四魔将の定位置に戻る。
「聖国との国境はいままで通り、警備にあたれ。勇者が現れた場合は、四魔将でその対処にあたるよう。以上だ。」
謁見の間を出た一同。魔王を追いかけるフーザ。
「陛下。」
「フーザか。どうしたのだ?」
「一つ提案がございまいす。」
「申してみよ。」
「セルザインにおります悠弥殿を我が国に招待いただけないかと、、、」
「そうであるな。我も悠弥とは今一度、話をしたいと思っておった。今回の事もある。早急に準備する事にしよう。」
「感謝いたします。これで私の魔法研究もさらに進むかと、、、」
「よき心がけだな。精進せよ。」
-火車一行-
「おら!離しやがれ!いつまで担いでんだ!」
暴れる火車。
「火車殿、しばしご辛抱を、、、」
抱える兵士も大変である。しばらく進むと火車が降ろされ、
「火車殿、今、拘束を解除いたします。」
法力兵たちが集まり、何やら儀式を執り行う。
「けっ、、、」
下半身の拘束が解けた火車だったが、感謝の言葉もなく悪態を付くばかりだった。
「これはお初目にかかります。大司教ベイゾンと申します。この度は大変なご苦労でしたな。」
「あぁ?何ふざけた事ぬかしてんだ!てめぇらが来なくても、俺だけで焼きつくしてたんだよ!」
「それは申し訳ない事をしました。しかし、現状で火車殿は魔力も底を尽きかけているご様子。一度、聖都まで帰還されたほうがよろしいかと思われますが、いかがかな?」
「・・・はっ、関係ねぇよ。だが、村の女どもが寂しがってるだろうからな。一度、帰ってやるよ。」
「ご英断でございます。」
火車一行は聖都に向け、進行を開始した。
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